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今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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きみのもしもし #134

 今日は朝から仕事をしている。
ーめずらしいね。
 珈琲ブレイクのタイミングできみがメールを送ってきた。絶妙のタイミング。
 うん、ON/OFFの切替を確実にしているつもりだから、確かに休日のお仕事はぼくにとってはめずらしい。
 なんて返事を返そうかと考えていると、もう次のメールが届く。
ーなにやってるの。
-何時に終わるの。
 立て続けに届くきみからのワンフレーズのメール。
-もしもし。
 何かあったっけかな。
-だからね。
 うーん。
ーひな祭り。
 あ。
ーもしもし。一緒にあそぼって約束してたじゃん。
 もう間に合わないな。さてはて、どうしようかなぁ。
# by hello_ken1 | 2010-03-07 11:24 | きみのもしもし

きみのもしもし #133

 この寒い中、きみは駅まで歩いているという。
 友だちに会うんだね。
 しばらく音信不通になっていた友だち。もうずいぶん会っていないってきみは言っていた。
ーよかったね、会えるなんて。久しぶりじゃん。
ーでもね。
 冷たい空気がメールの文字を短くさせるのか、それとも。
ーどしたの。
ーちょっとだけ不安。
 会えなかった時間。いっぱいいっぱい心配して、たくさんたくさん元気でいるようにって思いを馳せて。
ー「もしもし、元気だった」って言えばいいのかな。
ーそうだよ。溢れんばかりの笑顔でね。
 そう、そのもしもしはきっとその友だちをも優しい気持ちにさせてくれるから。
ーもしもし、、、
ー元気をだしな。大丈夫だから。
# by hello_ken1 | 2010-03-07 11:24 | きみのもしもし

きみのもしもし #132

 散歩の途中、エアロスミスを聴きながら、きみからのメールを確認する。
ーもしもし、どうしてエアロなの?
 そう言われてもなぁ。
ーもしもし、どうして?
「だからさぁ」
 信号待ちでつい口に出た。
 気づいたぼくは軽く周りを確認する。
ーもしもし、なんだっけ?他にもたまに聴いているふるーいバンド。
「スコーピオンズ」
 メールを返す前にまた口に出た。
ーもしもし?最近のバンドも聴こうよ。
 そうなんだろうけど、きみの言うふるーいバンドもかなりいかしてるんだぜ。
 さて、この思いをメールでどう伝えようかな。
 信号が変わって、ぼくはエアロのリズムで歩き出した。
# by hello_ken1 | 2010-03-07 11:23 | きみのもしもし

Midnight Zoo #38

 桜子は洗面台で化粧を落としながら、スッピンに戻っていく自分の顔を見つめていた。
 ぱっちりとした目、まつげのエクステンションは必要ない、と思う。
 唇も厚すぎず薄くもなく、ピンク色で、口角を少しだけあげるとかなりかわいい、と思う。
 洗面台のトップライトが肩までの黒髪を照らし、紫のカラーリングをしていることがわかる。
ー光が透らないと誰も気づかないわよね。
 桜子は首を振り、ヘアサロンでほんの少しだけ短くしてカラーリングを入れた髪に触れた。
ーまったく航はなーんにも気づかないんだから。

 先週、深夜に航がやってきて、わたしを抱いた。
 その後でふたりでシャワーを浴びた後、この洗面台でまた抱かれた。
 トップライトは点けたまま。

ーやることに夢中で、髪の毛なんてみてないんだろうな。
 そうは思っても、ここでの行為を思い出し、服の上から両手でそっと両方の乳房を包み込む。
 鼓動が早くなっているのを感じた。

 リビングに戻った桜子はテレビを点ける。チャンネルは特に選ばず、ボリュームはいつもの半分、目的もなく何となく。
 カーテンを開けると街の明りが見下ろせる。もう深夜だと言うのにまだまだみんな起きているんだろう。
ーどうしちゃったのかな、わたし。
 何かがポカンと空いている。急に心に寂しさを覚え、誰かと無性に唇を重ねたくなった。

 桜子はしばらく街明かりを眺めていたが、ため息をひとつつくとキッチンに踵を返し、冷蔵庫から残り物の総菜をテーブルに出した。次にキッチンのシンクの下に並べているアルコール類を確かめた。ジン、モルト、焼酎なんかの数本のボトルが並んでいる。すべて航がここにキープしているボトルだ。
ーここはお店じゃないっての。
 でも今はこのボトルを見るだけでも、何故かほっとした。
 そしてその中から一本のジンを手に取り、野菜室にあった檸檬を絞り、氷を入れた。
ー確かに航が言っていたとおりだわ。冷凍庫でキンキンに冷やしておくべきね。
 ジンのボトルは冷凍庫が狭くなるからとシンクの下に移動させていたが、航の言い分も分る気がした。
 桜子は目の前のグラスに少し首をひねり、
ーこれじゃ、きつすぎ。
 缶コーラを冷蔵庫の奥から取り出し、ジンに加えた。
 缶コーラも航の喉を潤すためにたまに買い置きしているもののひとつ。
ーいつのまにあいつはこんなに侵食してきているんだろう。
 テーブルでお手軽ジンカクテルを喉にとおすと、ふと桜子は思った。

 総菜をつまみに、ジンを口にしながら、目的もなくテレビを見ている。
 今夜は仕事もそこそこに終らせ、ウィンドーショッピングで数店のショップを巡り、なんとなくモスバーガーを夕飯にして、ふらふらと帰宅した。
ー何かが足りない。こんなんじゃないよ。
 桜子は足りない何かを見つけようと、総菜を一口、口に運んだ。

(続く)
# by hello_ken1 | 2010-03-07 11:22 | Midnight Zoo

Midnight Zoo #37

ーねぇ、桜子さんがいなくなったら、どうなるの。
 耳の奥に直接響いてくるような声が聞こえた。
ー航さんはどうなっちゃうのかな。
 隣では瑛太とひなのが少しだけふたりの世界に入っている。
「えっなになに」
「だからね」
 そんな小声の会話が左の耳に届く。
 そして耳の奥、頭の中に聞こえてくるのはふたりとは違う静かな響きだった。
ーだって航さんは桜子さんに対してどこか距離があるように感じるもの。
 航は目をつむって、ホットウィスキーから切り替えたマティーニをそっと口に運ぶ。
ーそこのふたりのような他愛もないじゃれあい、あそこのテーブルのカップルのような恋人たちの空気、そんなのが航さんと桜子さんには感じられない。
 そうかも知れないな、航は桜子との関係を少し思い出してみた。
 気づいたらそばにいた。
 会いたくなったら、時間に関係なく会いに行っている。
 部屋の鍵の場所、冷蔵庫の中身、シャワーの使い方、何一つひっかかることなく自然にそばにある。
 楽しいこと、つらいこと、何も具体的な話を聞かなくても、その日のキスですべてがわかる。
 居て欲しいとき、気づいたらもうそばにいる。
 じゃれあわない、醸し出す空気はない。
 でも、あうんの呼吸。
 自然に話した内容が、そっと差し出した手が、いつも重なり合っていた。
 ラブラブのカップルと比較すると、みんなは桜子と自分の関係がどこか距離のあるように写るのか。
ーそんなふうに桜子さんも思っているのかな。
 航は静かに目を開けた。
ーほんとはもっと、そこのふたりのようにたまにはじゃれあいたいんじゃないのかな。
「今さら」
 航はほとんど唇を動かさずに、その響きに応えた。
ーだって今までそんな話をしたことないでしょ、桜子さんと。
 瑛太とひなのはすでにふたりの世界に入っていた。
 航にはふたりの会話が遠い彼方でされているように、聞き取れない。
ー桜子さんはしたがっているかも知れないじゃん。
 航がカウンターでうたた寝をしている客の隣に腰かけている女性に顔を向けると、その女性はじっと航を見つめていた。
ーわたしがここにいるって、分ってたくせに。
 立ち上がったその女性は半透明な身体で、そして彼女の動きに誰も気をとめる者はいなかった。まるでその女性と航の間だけ時が動き、みんなの時は止まっているかのようだった。
ー航さんはどうなったゃうのかな。
「晴香は桜子に何かするつもりなのか」
ーわたしは何もしないわ。したとしても何も言わない。きっとすぐ航さんはわたしを疑うんだろうね。でもわたしは何もしない、ほんとよ。だって航さんが桜子さんに何かしているんだから。そうなんだよ。
「え」
ーもうしているんだよ。今ここに、いつもと違うお店で、3人で会っている事自体、航さんはすべてを壊し始めているんだから。

(続く)
# by hello_ken1 | 2010-03-07 11:22 | Midnight Zoo