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Midnight Zoo #22
赤いパジャマは、クローゼットのプラスチック製の箱に詰めることにした。
ーきっと迷わなくて、このパジャマをまた着たくなるときが来ますように。 そんな思いを込めて、晴香はクローゼットを閉めた。 ー気分転換が必要かも。 毎回、そして幾度となく朝を迎えるとそう思う。 ー気分転換をすれば、あれは単なる夢だったんだと思えるんだ。 でも、日が落ちると、夜の色が濃くなると、そんな都合の良い思いをしたことすら忘れるくらいに不安に包まれる。 ー今夜はゆっくり眠れますように。 気づくと、晴香はバーのカウンターでカクテルグラスを傾けている。 ーもうひとりのわたしがいるのなら、 ゆっくりと、でもカクテルのお代わりを繰り返す。 ーわたしが居てもいいもうひとつの世界があってもいいはずよ。 深夜の街、深夜の公園、深夜の路地、そして深夜のバー。 昼間とは違う表情、停滞する空気、流れる冷気、違った活気、異空間。 同じ場所、同じ人々なのに、まったくの異空間。 そして、やはり晴香が連想するのは深夜の動物園だった。 幼い頃、でも記憶にはずっと残り続けている夏のある日。 「はるかちゃん、動物園いこうか」 母親の目がいつもと違って輝いていた。 単に優しく自分に話しかけてくるときの母親の目ではなかった。 幼い晴香にとって、母親がどんな目をしていようと、 ー動物園に連れていってくれる。 そのひとことが心を踊らせた。 「うん、いつ、今日、これから?」 母親は意味深に首を縦に振った。 「今日よ」 「えっ、ほんと、でも時間ない」 「ゆっくりでいいの」 晴香には意味がわからなかった。 「日が落ちたら行きましょう。夜の動物園ツアーなの。きっと楽しいわよ」 晴香は何が楽しいのか、もっとわからなくなった。 「夜になってもぞうさん、見れるの。きりんさんは」 「大丈夫。ぞうさんもきりんさんも、本当の姿が見れるから」 首をかしげながら母親に聞いたこと、そして母親の答えが今でも鮮明に耳に残っている。 「みんなね、昼間は本当の姿は見せていないのよ。そこで生きていくための見せかけなの。でもね、本当はそうじゃない。暗くなってみんなの目がなくなったと思うと、ぞうさんもきりんさんもほっとして本当の姿を見せちゃうのよ」 「ぞうさんがぞうさんじゃなくなるの?」 「ちょっとだけ違うな。はるかちゃんの知ってるぞうさんじゃなくって、本当のぞうさんに戻るの」 夜ってそういう時間なの、と言った母親の輝いている目がとても印象的だった。 「ママもそうなの?」 母親は口元だけで微笑みながら、はるかちゃんもそのうちわかるわよ、そう言った。 (続く)
by hello_ken1
| 2009-07-12 11:53
| Midnight Zoo
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