今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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Midnight Zoo #33

 桜子とのクリスマスの夜をすごした翌夜、航はひとり、初めて訪れるバーでグラスを傾けていた。
「何にいたしましょう」
「ジンは何がありますか」
 航は若いけど落ち着いた感じのするバーテンダーから勧められたジェネバをロックでもらった。

ーメリークリスマス。
 さっきまで口を少し開き吐息を漏らしていた桜子が、耳元でささやく。
ーメリークリスマス。
 うなじに唇をつけ、クリスマスの言葉を返す。
 桜子はまた吐息を漏らした後、くすぐったいと笑って航と向き合った。
ー何かいいことがあったみたいだね。
ーあのね。晴香さん、まだ治ってないの。もうひとりの晴香さんはまだいるんだって。
ーそれはいいことなの?
ーわからないけど、今のところふたりでうまくやっているみたいよ。何があったんだろうね。
 航は「わからないな」と答え、シーツに潜って桜子の右の乳首をかるく噛んだ。

 カウンターに8名が座れるだけのこのバーは天井も高く照明も薄暗い。背中側の通路もちょうど人が1人歩いて邪魔にならないほどの幅が確保されている。繁華街からも外れ、看板もなく、この場所を目指さないとたどり着けない、そんなお店だった。そして終電を途中下車しここに来た航は、航以外のお客もいなくひとり静かな時間に包まれていた。

 来てみたかったんでしょ。
 たまたまネットで見つけてね。この時間だったら入りやすいかなって。
 わざわざ終電途中下車する?
 タイミングってそんなもんさ。
 計画性がないのよ。
 言葉を音にすることなく、いつの間にか隣りにちょこんと座っている晴香と言葉を交わす。
 晴香は頬杖をつき、じっと航を見つめている。目を凝らすと晴香の身体越しに隣の椅子が透けて見える。
 航はグラスを傾けるたびに、そっとそんな晴香の存在を確認する。
 晴香さんときみがうまくやりはじめていると桜子から聞いたよ。
 そうね。だってひとつの身体なんだし。うばいあって、もしわたしが消えるようだともうそばにも来れないし。でもね。
 ん。
 航のそばにいたいのは、わたしだけじゃないのよ。晴香の方がきっと昔から航のそばにいたいと思ってたんだから。
 グラスを口元に運ぼうとした航の手が止まった。
 昔の晴香さんのことは記憶にないよ。
 だと思う。
 残りのジンを喉に通すと、航はここにいる晴香とじっと視線を重ねた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2010-01-02 15:59 | Midnight Zoo
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