今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31


Midnight Zoo #35

 その晩、遅い時間に航は瑛太と待ち合わせをしていた。
 いつものバーではなく、顔見知りがいないバーを選んでみた。
 いつものバーでもそれほど深い知り合いがいるわけではなく、会釈程度の知り合いくらいしかいないはずだが、何気にお店を変えてみた。
 小さな蝶の羽ばたきが地球の裏側で台風を起こす、最近航が電車の中刷りで目にした一文。そうかも知れない。だったら身近な何かをほんの少しでも変える事によって、何か思いもつかない変化が起こるのかも知れない。安直だとは思ったが、航は試しに今夜のバーを変えてみた。即効性なんて期待はしていない。ただ気分の切替えにはなるだろう。

「悪い、もう少し遅れる」
 航はいつもより遅い時間で瑛太と待ち合わせをしたにも関わらず、また地下鉄の中にいた。電車が途中駅に着くタイミングで携帯からメールを送った。
 メール送信ののち、ひとつのめの駅についても、ふたつめの駅でも瑛太からの返信は確認できないでいた。
 終電近い地下鉄はほろ酔い気分の乗客が少しずつ増え始め、歓楽街の駅を出る頃にはそれなりの混雑となっていた。
ーあれ。
 航の斜め前で、電車のドアに軽く押し付けられるようにして携帯を覗いている女性の横顔を見たとき、航は不思議な感覚に包まれた。
 そこにいる女性の輪郭のはっきりとした眼、ちょっと小さめのでも形の整った鼻筋、そして淡いピンクの清涼感のある唇、すべてが晴香のそれに酷似していた。
ーもうひとりの晴香が姿を見せるには早い時間帯なんだけど、じゃあリアルの方かな。
 最近、現実と異体験の境がグレーになってきてるんじゃないかと、航はたまに感じることがある。そんなときに感じる足元が数センチ地上から浮いている、目の前のものに触ることができないんじゃないかという、そんな不思議な感覚が、今この電車の中で航を包んだ。
ー目が合わないかな。
 目が合えば、その女性の反応ですべてが解決する、自分がこんな感覚になっている以上、相手の反応に頼ろうと、航は思った。
 そんな思いで、テレパシーでも送り込むように、航は押された身体をドアに任せるように立ちながら携帯を覗き続けている女性をじっと見つめ続けていた。
「大丈夫。お前はいつも遅刻するから、今夜は先にひなのを横に座らせている」
 次の駅に着いたとき、突然航の携帯が震え、瑛太からの返信を知らせた。
 ふいをつかれたように震えた携帯で多少慌ててメールを確認した航が意識をまた女性に戻したとき、まさに開いたドアの動きに合わせるように女性は顔をあげた。
ーそうだよな。ここは現実世界そのとおりなんだから。
 顔を上げて一度車内に目を向けた女性は晴香に酷似なんてしていなく、当然まったくの別人で、下車する人々の流れに身を任せるようにその駅で電車を降りた。
ー意識しすぎてるのかな。
 航はほんの少し安堵する気持ちを覚えながら、瑛太に返信を送った。
「もうすぐ駅に着くよ」
「今夜は3人みたいだけど、まっゆっくり飲もうぜ」
 瑛太の今度の返事は早かった。
 いつものメンバーに桜子だけ欠けている今夜。
 少しだけ何となく罪悪感を感じつつ、航は携帯を胸ポケットに仕舞った。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2010-03-07 11:21 | Midnight Zoo
<< Midnight Zoo #36 きみのもしもし #131 >>