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今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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黄緑色の手の女の子 #4


, originally uploaded by soaked.

「また良いものが入ったら連絡くださいね。今日はぼく好みじゃなかったけど、気にせず声をかけてください。じゃっ、さようなら」
 そう言って、一人の青年が明りがもれている小窓のあるドアから、礼儀正しく出てきた。
 あまりに青年が礼儀正しく出てきたのと、たまたまぼくと目があったのが重なって、ついぼくも礼儀正しく頭を下げてしまった。
 ぼくは頭を下げながら、
ーちゃんと人はいるじゃない。
と、当り前の事が脳裏をよぎった。それほど人の気配と言うものがしない並木道だった。
「あなたもここに来たんでしょ」
 唐突に青年が話しかけてきた。ぼくが頭なんか下げたりするものだから、青年の方も、自分と同じ用事があると思ったのだろうか。ぼくが返事に困っているのなんてお構い無しに、青年は言葉を続けた。
「今日は久しぶりになつかしいものが入ってますよ。残念ながらぼく好みじゃありませんでしたけどね。あなたには好みの物があるかも知れない。早く行かないと閉まっちゃいますよ。では、ぼくはこれで」
 そう言い終わると、青年はぼくの返事も聞かず、今、ぼくが歩いてきた並木道を駅の方に向かっていった。
 ぼくは青年の存在に安堵感を覚え、薄ぼんやりと見える青年の後ろ姿をみつめていた。
「そうそう、今夜のドアは意外と重たいですよ」
 青年の声が、遠くで聞こえた。

(続く)
by hello_ken1 | 2006-04-16 01:37 | 黄緑色の手の女の子
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