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黄緑色の手の女の子 #9その時、観覧車はゆっくりと、ぼくをいちばん高い位置から徐々に地上へと近づけていた。地上では、ぼくの両親が手を振って、ぼくを迎えようとしていた。観覧車に乗るときも、メリーゴーランドに乗るときも、両親が一緒に乗ることはなかった。必ず手を振って、笑顔で迎えてくれた。ぼくとしても気が楽だった。好きなように遠くを眺められ、好きなようにはしゃげた。 「すごいよ、すごいよ。左の街の方には、大きな河が流れてるんだ。すっごく優しそうな河なんだよ」 ぼくは観覧車から降りて来るなり、母親に向かって言った。 母親は優しい笑みをあふれんばかりにぼくにそそぎ、父親はぼくを空高く持ち上げてくれた。 「河の表情がわかったのか。偉いなぁ」 ぼくは父親に誉められた気がして嬉しかった。しかし父親はぼくを地上に降ろしながら言葉を続けた。 「でも次に来たときには、もっと男っぽいものに乗ろうな」 そう言い終わると、父親はタバコを買いに売店の方へ歩いて行った。 ぼくは寂しかった。大きな河は本当に素晴らしかったのに。でも母親も、父親に同意していた。その証拠に、優しかった笑みが、ぼくを哀れむような表情に変わっていた。 ぼくは大きな河をもう一度見たくなった。大きな河を見ることで、自分を慰めてあげたかった。単に寂しかったのかも知れない。 ぼくは母親の手を振りほどき、走りだした。 息がきれるほどかけて行ったところに、女の子がうずくまって泣いていた。 そしてぼくの後ろの方では観覧車が明りを落とし、明日の朝までの休息に入ろうとしていた。 「そう、結局わたしは観覧車には乗れなかった」 黄緑色の手の女の子の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。 「ぼくが降りたときが、最後だったんだ。閉園時間だったからね」 女の子は涙を両手の中指で拭き取ると、微笑みをぼくに返してきた。 「二人とも両親には会いたくなくって、」 女の子の言葉に、ぼくが言葉を続けた。 「公園の中をちっちゃいふたりが手をつないで泣きながら歩いたんだ」 (続く)
by hello_ken1
| 2006-05-21 02:25
| 黄緑色の手の女の子
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