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今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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プロミス #7


hankies1, originally uploaded by Jess Hutch.

 運動会が終わってだだっ広いだけのグランドとなった運動場を、あーくんを待つ間、ひとりでぼんやり見ていた。あーくんはまだ居残り掃除中、宿題を3日続けてやってこなかったからだ。

「どーしたの、明くん、3日も続けてなんて変でしょ」
 先生が口をとがらせていた。
 ホームルームの最後に先生は、宿題をしてこなかった生徒をひとりひとり立たせては、理由を聞いていた。
ー理由なんてあるわけないじゃん。だっておれも宿題嫌いだもん。
 嫌々ながらに宿題をやってきたおれ、嫌なことはしないあーくん。でも確かに3日も続けると先生もだまっていないのは分かっているはず。他の生徒よりもあーくんに対する先生の口調はきつかった。あーくんはうつむくわけでもなく、じっと先生を見ていた。確かに変だ。理由は答えなくとも、おれはあーくんの言い訳を聞いたみたい気がした。
「言葉を忘れちゃったのかな」
 先生が一歩、あーくんに近づいた。
「先生、」
「うん」
「小じわが増えるよ」
 クラス中、一瞬の沈黙。そして、拭き出す笑いをこらえる声がここかしこで起こった。

 結局、宿題をしてこなかったあーくんへの問い詰めはそのときはるか彼方に吹き飛んで、あーくんには顔を真っ赤にした先生から居残り掃除が課せられただけだった。
「あーくん、冷や冷やさせんなよ」
「まぁまぁ、ちょっとさ」
 言葉に含みを持たせて、あーくんはみんなが教室を出るのを待って、掃除用のモップを取りに席を立った。
「たぶんすぐ終わるから、鉄棒んとこで待っててよ。一緒に帰ろ」

 鉄棒に腰掛けて、運動場を見ていると先日の女子リレーが思い出された。
 おれは女子リレーのときにあーくんの視線を追えば、きっとあーくんお目当ての女子が誰かは分かるとふんでいた。
 女子リレー、最終組のアンカーがコーナーにかかった。そこはあーくんが気になる女子が苦手としている場所。そのとき、女子リレーを観ていたみんなが一様に声を上げた。その中にあーくんの声も混ざっていた。
「あー」
 みんな突然立ち上がり、あーくんは心配そうな声を上げていた。
 そのコーナーには赤いゼッケンをつけた女子がひざから血を流してころんでいた。あーくんは次の瞬間、おれの視界から消えた。一生懸命立ち上がってゴールをめざしたその女子が付けていたゼッケンの色は、隣のクラスを意味していた。

ー麗奈ちゃん、隣のクラスの男の子にハンカチ返せたの。
ーうん、さっきひとりで掃除してたから返してきた。
ーよかったね。みんながいるとき返すと、男子連中がうるさいからね。
ーそうだね。返すって約束もしてたし、ちゃんとお礼も言えたし。よかった。
ーでも、あの男の子、ぜったい麗奈ちゃんのこと好きだよ。
 突然、声が聞こえてきた。おれは鉄棒の上から辺りをきょろきょろ見渡すと、校門からはしゃぎながら出て行こうとする二人連れの女子が見えた。きっとあの子らの会話だ。

「ゆーちゃん、お待たせ」
 あーくんが息を切らして駆けてきた。ポケットからちょっとだけハンカチの端がでている。あーくんのほっぺは走ってきたから赤いのか、それともそのポケットから覗いているハンカチのせいなのかは、容易に想像できた。
「わざと宿題しなかったんでしょ」
 おれはあーくんに突っ込みをいれてみた。

(続く)
by hello_ken1 | 2006-09-24 11:53 | プロミス
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