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今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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プロミス #10


, originally uploaded by Peta Z.

「ちゃんと笑顔で見送るんだよ」
 隣のお姉さんは車から降りると、周りの人が驚いて振り返るくらいの大きな声で、おれらを送り出した。お姉さんは右手を大きく振っている。
 おれが信号の手前でお姉さんに手を振り返している間に、あーくんは信号を渡り終えていた。
ーあっ。
 あーくんは早く早くと信号の向こう側で手招きをしている。四車線もある車道は信号が変わると同時に往来する車の列で埋め尽くされた。あーくんが何か言っている。おれは車の途切れを伺っていたが、信号を無視して渡れるほどに途切れることはなかった。じれったいほど色の変わらない信号、おれの頭の中で時計の秒針が反響を残して1秒1秒を刻んでいる。
「先、行っちゃってよ」
 同じ言葉を何回か繰り返して、信号の向こう側のあーくんに伝えた。あーくんが申し訳なさそうな顔で、きびすを返して駅に向って行った。
ー申し訳ないのは、おれのほうだよ、あーくん。
 一緒に信号を渡れなかったこと、そして何より今日まで今日のことを伝えられなかったこと、少しでもその気持ちが軽くなるように、あーくんだけでも間に合うことを祈った。

「学校さぼりの釣果はどうだった」
 平日なのに今日はなぜか家にいる父親が、うれしそうに近づいてきた。
「おー、結構なもんだな。パパがさばいてみようかな」
 クーラーボックスを開けると、父親は満足げにキッチンに向った。
「ぼく、学校さぼったんだけど」
「いいんじゃないか。釣りに行くってちゃんと言って行ったんだから。パパも今日はさぼりだし。何か問題でもあるのか」
ーいや。
 おれは首を横に振った。
 学校をさぼったことにおれは罪悪感は感じなかったけれど、せっかくあーくんと二人きりになれたのに、せっかく伝えられる時間をあーくんがつくってくれたのに、おれは何も口にすることはできなかった。
「まー、りっぱねぇ。祐二くんは釣りの天才かな」
 母親は父親と仲むつまじく、魚をさばく用意をし始めた。
 おれが釣りの道具を洗いにバスルームに向っていると、
「そうだ、祐二くん。女の子から電話あったわよ。あーくんと釣りに行ってますってつい言っちゃった。電話してあげてね」
 母親が屈託のない元気な声で言ってきた。

 おれが母親から手渡された番号に電話をすると、家人ではなくその女の子が直接出てきた。呼び出し音を二回と鳴らさないうちに、その女の子は電話に出てきた。
「あのね、ほんとは今日の夕方なんだ」
「これから家をでるの」
「見送りには来てもらいたくなかったんだけど」
「でもねでもね」
「来てくれないかな」
「やっぱり、見送りに来てくれないかな」
 その子が受話器を一生懸命にぎりしめて、一生懸命おれにお願いしている、その気持ちが十分に伝わってくる口調だった。
 おれはすぐにあーくんに電話をかけると、用件も言わずにとにかく家をでるように伝えた。
「電話で説明なんてできないよ。途中で話すから、とにかくいつもの道でうちに来てよ」

「いってきまーす」
 慌てて家を出たおれの目に隣のお姉さんが映った。
「どうしたの、祐二くん、慌ててるね」
ーうん。
 無言で大きく頷くおれがいた。
「どこまでいくの」
「時間ないんだ」
 お姉さんは少し考えるようなそぶりをみせた。
「急いでるから、ごめんなさい」
 お姉さんに頭を下げると、おれはあーくんと落ち合うためにダッシュでお姉さんを後にした。
「祐二くん、そんなに急いでるんだったら、わたしが車に乗っけてあげるよ」
 振り返ると、お姉さんが優しく微笑みながら、右手の親指を立てていた。

 四車線の車の往来がなくなった。駅前の歩道用の信号が青に変わり、渡っていいよっの音楽が流れ出した。
ーあーくんはホーム分かったかな。ちゃんと会えたかな。おれも間に合ってよ。

「見送り行くよ」
「ぜったい間に合うから」
「あーくんも一緒に連れてく」
「約束するよ」
 その言葉にうれしそうに電話を切った麗奈のことを考えながら、おれは新幹線のホームへと向った。

(続く)
by hello_ken1 | 2006-10-15 13:21 | プロミス
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