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プロミス #13緩やかだけれども、長い坂道を上った。 これだけ長いと、自転車を漕ぐふくらはぎに少し疲れを感じる。この先一気に下り坂になる。下りきったところを右折すると繁華街の細い裏通りを抜けたところ、繁華街の雑踏が始まる前に、あーくんとの約束の場所がある。 ーよく見えるといいな。 この坂道の頂上から、晴れた日には富士山が見える。高層ビルが建ち並んだせいもあり、以前のように手放しで見えるわけではない。でも、かつて見えていた方角に目を凝らすと、今でも確かに富士山は見て取れる。だから、よく見えると言うよりも、とにかくおれは見つけることができる。そんな日はなんだかうれしくなってしまう。 富士山が見えれば、富士山が見えれば、きっとあーくんからの知らせは想像以上のもの、そう願掛けをしつつ、坂道の頂上までのもう一漕ぎに力を込めた。 ーあー、久しぶりに見たわ。 ーだっせー。 ーねぇ、あの彼、不器用なんじゃない。 ー最近の学生はそんなこともできなくなったのか。目も当てられん。 誰も何も口にしていないのに、おれの前をひとが通るたびに、たくさんの冷ややかな声が耳に届いてくる。おれは顔を上げ、誰彼構わず、目つきの悪い視線を勝手に投げつける。そしてその度に、自転車のこの外れたチェーンを元のギアに戻せない自分自身にいらだっているのに、気づかされた。 最後の一漕ぎの力の込め方がよくなかったのか、サドルから腰を上げ体を左右に揺さぶりながらの漕ぎ方がよくなかったのか、とにかくおれの自転車は坂を上り詰める直前で、チェーンが外れてしまった。 ーうそだろ、おい。 しかたなく自転車を降り、目前の頂上まで自転車を押して上ったおれは、頂上の平たい道に座り込み、チェーンの取り付けにかかっていた。 ーあの子、あせってるみたいね。 ーみんなの目が気になっちゃってるみたい。 ー一息入れて落ち着いたほうがいいかも。 ー優しい言葉も聞こえてくるもんだ。そうだな、一息入れよう。 座り込んでいたアスファルトからおれは腰を上げると、自転車をガードレールに立て掛け、自分もガードレールに腰をかけた。そんな落ち着こうとしていたおれの目に、遠くの富士山が見えた。とても小さくてビルの合間にかろうじてだけど、おれには富士山が見えた。 ーあーくんからの連絡はすごくいい知らせだから、あせんなくてもいいよってことかな。 富士山が見えたことによる前向きな解釈で、おれは目の前のチェーン外れを良い方向としてとらえようとしていた。 しばらくガードレールに腰を預けたまま、富士山を見ていると不思議なことに気がついた。さっきまで次から次に聞こえてきていた道行く人の心の声がまったく届いてこなくなっていた。歩道を行き交う人の数はそう変わっていない。誰もが何も考えずに歩いているわけでもないだろう。おれの方の意識の問題か、とにかく気になる人の声は一切聞こえてこなくなった。 ちょっと落ち着きを取り戻したおれは、葉子が自転車のカゴに残した手紙をポケットから取り出し、読み返してみた。 ーそう言えばハコとの出会いもこの自転車だったよな。 きっと口元は緩んでいたことだろう。何回も葉子の手紙を読み返し、その都度、富士山に目を凝らした。 件名:約束しよっか 本文:試験終わったら、すぐ泊まりに行くよ。待ってて、ハコ。ちゃんと連絡するから。 ーハコは約束、いやがるかな。 そう思いながら葉子に携帯メールを打ち終わると、おれはチェーンが外れたままの自転車にまたがり、一気に坂を下り始めた。頬に当たる心地よい風とともに、加速する自転車に乗っておれはあーくんの待つ場所へと向った。 (続く)
by hello_ken1
| 2006-11-04 18:03
| プロミス
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