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今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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プロミス #22


colors, originally uploaded by Marsala Florio.

 麗奈はイスに腰掛けて、窓越しに海を見ていた。
 昨日までの冷たい雨は午前中で止み、今は芝生に陽射しが差している。朝凪がそのまま続いているようだ。芝生の向こうに見える海も太陽の光を反射して、麗奈の目を細めさせる。
「気持ちいいね、お散歩しようか」
 麗奈の隣に立った母親は、彼女の肩に手を添えて微笑みかけた。

「お友だちとは連絡取れてるの」
「うん、ネットでやっと見つけてくれたみたい」
「ママにはわからないけど、そのネットっと不思議な世界なのね」

 庭への扉を開けて、潮の香りを鼻先に感じながら、ふたりはゆっくりと海を見渡せるベンチに向った。
ーママの手は温かい。
 いつも手をつないでくれる母親の手をぎゅっと握り返し、麗奈はいつも以上にそう思った。
ーこのママの温かい手だけはわたしから離れたりはしない。
 麗奈は母親が手をつないでくれるのが大好きだった。

「ママにも、そのネットってもの、できるかなぁ」
「できるよ」
「楽しいかなぁ。今度教えてね」
 同い年の友だちのいない麗奈にとって、いつも同級生みたいな口調で話しかけてくるママの優しさはうれしかった。母親からすると以前の麗奈が最近は現れてこないので安心していた。このままずっと今の麗奈のままでいてくれることを望むばかりだった。

「パパ、麗奈を診療所に預けるんですか」
「うん、その方がこれからの麗奈のためだ。もうママも限界だろう。でも麗奈だけを診療所には行かせないよ。おれも会社を辞める。診療所の近くに引っ越して、そこで仕事を見つけて、いつでも麗奈のそばにいれるようにするよ」
 夜になると人が変わったように暴れだす、当時そんな麗奈がそこにはいた。
 医者の診断だと、夜への恐怖心から逃れようと暴れだしている、とのことだった。いつ頃からだろう、何がきっかけになったのだろう、母親も父親も麗奈の夜への恐怖心の原因がわからなかった。はじめはただ駄々をこねている、そんな印象しかなかった。それがいつしか夜になると麗奈は目つきまでもが変わって行った。
 新しく紹介された診療所はその頃住んでいたところからは遠く、ただ母親の実家から離れていなかったことから、麗奈を診療所に預けることに母親も同意した。

 夜の自分を知らない、夜の自分の記憶のない麗奈にとってどうして引っ越しをするのかが、よく分からなかった。
「パパの仕事の都合でね、引っ越すことになったの」
 そう言われて転校した新しい学校は、芝生越しに海の見える診療所だった。ここが学校だよ、と母親から言われたことをずっと麗奈は信じていた。

「先生は、学校の先生じゃなくて、お医者さんなんだよね」
 診療所で母親と父親と一緒に先生と面談をしていたときに、麗奈はぽつんと先生に尋ねてみた。
 年齢の違う子供たちが一緒に授業を受けている。それぞれの子供たちに個室があてがわれ、外出するのにも先生の許可が必要だった。全寮制の進学校かも知れない、麗奈はそう思ったこともあったが、それほど自分も含めてまわりのみんなが優秀には思えなかった。だから麗奈は昨日の面談のときに尋ねてみることにしていた。
「もういいよ。教えて、先生」
 和やかだった空気の色が変わったのを麗奈は感じた。

 母親と並んでベンチに座った麗奈は、顔を母親の左肩に預けた。
「わたし、そんなに大変だったの」
 母親は両手で麗奈の手を包んだ。
「うん、大変だったよ」
「わからないの。記憶がないの」
「いいのよ。安心なさい。もう大丈夫なんだから」
「だから友だち、連絡くれなかったのかなぁ」
「そんなことないよ。絶対ないよ。だってネットで見つけてくれた友だちがいたんでしょ」
 母親は左手を麗奈の肩に回した。
 太陽の光を銀色に反射する海がふたりの前に広がっていた。

(続く)
by hello_ken1 | 2007-01-06 21:46 | プロミス
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