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Midnight Zoo #4
仕事仲間での夜の飲み会は苦手としていた。
お酒が入れば入るほど、説教がくどくなる。上司からは「だからだめんだ」と頭ごなしに言われ、後輩からは「しっかりしてください。お願いしますよ」と言われる。それが昔の表現だと、壊れたレコードみたいに延々と続く。 航はそれがサラリーマンだとは分っている。分っているはずでサラリーマンを続けている。でも避けられるものならば仕事仲間での飲み会は避けたいと思っている自分がいることは、否定しきれていない。 「瑛太、出てこれないか」 馴染みのバーから高校時代の同級生に電話をしてみた。 ーどうしてこいつに電話をしているのだろう。 曽谷瑛太は騒がしい音をバックに答えてくれた。 「いいけど、遅くなるぜ」 複数の女性の声が響いてくる ーえー、だれだれ。おとこのこぉ。 年末のパーティか。 「いつもの店だよな」 そういつもの店、ここだと何も気を使う必要がない。 「とにかく、終ったら行くから。あまり遅くなったら」 そこで電話はとつぜん途切れた。 まぁいいや。 腐れ縁だし、瑛太に対しては何も気兼ねがない。 どうしてほしいとか、どうしなきゃとか、何もない。 互いに自分の都合に合わせて呼び出したり、呼び出されたり。 何度か口論になったことも、殴り合ったこともある。 そんなことをするなんて仕事仲間は誰も知らない。知ってもらう必要もないだろう。 「たまに見かける顔だよね」 カウンターふたつ隣でビールを飲んでいるお兄さんが話しかけてくる。 L字の角に座っている白髪のおじいさんは微笑みながらバーボンを傾けている。 この店で若い女性客がひとりでいるのを見たことはない。 「そうかも知れませんね」 マスターがライムを添えて出してくれたジンのロックで、お兄さんに乾杯の仕草をする。 お兄さんもそれを合図に自分の世界に戻っていく。 おしゃれな若者が集うどの駅からも、そこそこ歩くこのバーは地元の客が半分くらいを占めている。 でもそんな駅同士を結ぶと、このバーはおしゃれスポットのブラックホールに位置するのかも、航は我ながらよく気づいたぞと、口元に微笑みを浮かべて、ジンをなめる。 ーいろんな時間が必要なんだよ。 バーの奥にかかっているスクリーンで往年のミュージシャンが歌っている。 何人かの客の出入り、何組かのカップルの入れ替えがあり、この歌を聴いているのはさっきのお兄さんとおじいさんと航の3人。 そしてお兄さんは携帯片手に表に出て、おじいさんは遅れてきた往年の悪友とふたりで並んで飲みはじめる。 「いい時間だ」 航は瑛太のこともしばし忘れて目をつむる。 バタン。ドアの音。「いらっしゃい」マスターの声。 航の右肩に瑛太の手がかかる。 「まだいたか。呼んで来たぜ」 笑っている瑛太の後ろには桜子が立っていた。 (続く)
by hello_ken1
| 2008-12-14 16:04
| Midnight Zoo
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