今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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2010年 01月 02日 ( 5 )

きみのもしもし #130

 正月深夜、右手がとっても冷たいことに気がついた。
 テレビはターンオフ、遠くで除夜の鐘が鳴っている。
「きみの手は温かかったね。柔らかかったし」
 そんなことを思い出し、オンザロックのジンを喉に流し込む。
ーもしもし、お尻の下に手をいれると温かいよ。
 鐘の音の合間に、きみの声が聞こえてきそう。
「確かに温かいね」
 そしてまたグラスにジンを注ぐ。
ー新年早々、そのくらいにしといたら。
 いないはずのきみの声が聞こえる。
 ぼくは少し人恋しくなっているのかな。
 冷たいグラスを明かりに照らし、きみの笑顔を思い出してみた。
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by hello_ken1 | 2010-01-02 16:00 | きみのもしもし

Midnight Zoo #33

 桜子とのクリスマスの夜をすごした翌夜、航はひとり、初めて訪れるバーでグラスを傾けていた。
「何にいたしましょう」
「ジンは何がありますか」
 航は若いけど落ち着いた感じのするバーテンダーから勧められたジェネバをロックでもらった。

ーメリークリスマス。
 さっきまで口を少し開き吐息を漏らしていた桜子が、耳元でささやく。
ーメリークリスマス。
 うなじに唇をつけ、クリスマスの言葉を返す。
 桜子はまた吐息を漏らした後、くすぐったいと笑って航と向き合った。
ー何かいいことがあったみたいだね。
ーあのね。晴香さん、まだ治ってないの。もうひとりの晴香さんはまだいるんだって。
ーそれはいいことなの?
ーわからないけど、今のところふたりでうまくやっているみたいよ。何があったんだろうね。
 航は「わからないな」と答え、シーツに潜って桜子の右の乳首をかるく噛んだ。

 カウンターに8名が座れるだけのこのバーは天井も高く照明も薄暗い。背中側の通路もちょうど人が1人歩いて邪魔にならないほどの幅が確保されている。繁華街からも外れ、看板もなく、この場所を目指さないとたどり着けない、そんなお店だった。そして終電を途中下車しここに来た航は、航以外のお客もいなくひとり静かな時間に包まれていた。

 来てみたかったんでしょ。
 たまたまネットで見つけてね。この時間だったら入りやすいかなって。
 わざわざ終電途中下車する?
 タイミングってそんなもんさ。
 計画性がないのよ。
 言葉を音にすることなく、いつの間にか隣りにちょこんと座っている晴香と言葉を交わす。
 晴香は頬杖をつき、じっと航を見つめている。目を凝らすと晴香の身体越しに隣の椅子が透けて見える。
 航はグラスを傾けるたびに、そっとそんな晴香の存在を確認する。
 晴香さんときみがうまくやりはじめていると桜子から聞いたよ。
 そうね。だってひとつの身体なんだし。うばいあって、もしわたしが消えるようだともうそばにも来れないし。でもね。
 ん。
 航のそばにいたいのは、わたしだけじゃないのよ。晴香の方がきっと昔から航のそばにいたいと思ってたんだから。
 グラスを口元に運ぼうとした航の手が止まった。
 昔の晴香さんのことは記憶にないよ。
 だと思う。
 残りのジンを喉に通すと、航はここにいる晴香とじっと視線を重ねた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2010-01-02 15:59 | Midnight Zoo

きみのもしもし #129

「ここにいつもひとりで来てたんだ」
「そうだね」
 気泡のない氷の入ったグラスを傾ける。注がれているのはジンとライム。
 きみは厚い一枚の椋でできたバーのカウンターを手でなぞる。
「手触りいいよ」
 少しだけ先に酔っているぼくがきみの手に触れる。
「こっちもね」
「もしもし」
 そしてきみはぼくの耳元にささやきかける。
「キスしたいね」
 遅れてきたきみの頼んだカクテルが、きみの前にそっと置かれた。
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by hello_ken1 | 2010-01-02 15:59 | きみのもしもし

きみのもしもし #128

ーん。
ーどしたの。
ーん、会いたいね。
ーそだね、会いたいね。
ーあっ。
ーえ。なに?
 急にメールが途切れて、すぐさまきみから電話があった。
「あのね、聞かせて」
「なにを?」
「さっきの」
 ぼくは少し照れていた。
「あぁ、うん、まぁ、いいよ、だから、えっと、、、会いたいね」
「ふふふ、もしもし、わたしもっ」
 きみは明るく元気にそう言った。
 会いたいね、それはシンプルだけどいい言葉だね。
 ぼくはきみに何か温かいものを気づかせてもらった気がした。
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by hello_ken1 | 2010-01-02 15:58 | きみのもしもし

Midnight Zoo #32

 その日の夜も、3人はまたこのバーに来ていた。
 誰かが誰かを誘う、そんな集まり方じゃなく、ふらりとそのカウンターに座っているといつしか2人が並んでいて、気づくと3人で談笑している、そんな集まり方だった。
 たまには桜子とひなのは事前にメールのやりとりをして落ち会うこともあったが、晴香と予定してここで会うことはなかった。
「ねぇねぇ、あの口紅どうだった」
「ありがとうね。でもやっぱりあの色は桜子さんの色だって改めて感じたわ」
「そうなんだ」
「うぅん、大丈夫。だってきっかけのひとつだもの。まずは口紅でわたしなりの色を探してみる」
「なになに。わたしその話、知らない」
 2人のやりとりに、残り少なくなったホワイトレディをくいっと飲み干したひなのが割り込んできた。
「口紅がどうしたの」
「覚えてないんでしょ、ひなのちゃんは」
 ひなのはすぼめた唇を少しつきだし、マスターにホワイトレディのおかわりを頼んだ。
ーバリエーションで、サイドカーではいかがですか。
「あっ、わたしにもおかわりください。わたしはこのまま変えずにドライマンハッタンで」
「あの夜もそれだったね。えーっとわたしはトム・コリンズ。今夜はのみすぎないように」
 マスターは口元に少し笑みを浮かべながらやさしく頷き、3人のための仕事にとりかかった。
「あれから何回ここで会ったんだろうね」
「季節もクリスマスかぁ」
「まだ続いてる?」
 桜子のその言葉に、晴香は自分に起きている夜の現象を、ひなのは瑛太との関係を連想した。
「続いてるよ」
 そしてハモるようにふたりが答えたのには、桜子もふたりにも笑いを誘った。

 噛み合わない話も、そのズレや隙間をマスターのカクテルが上手に埋めてくれ、3人はそれぞれにそれぞれの話を都合の良いように解釈しながら、和気あいあいと時間はすぎていった。
ーもうひとりの晴香さんはどうしてるの。
 ひなのがカウンターに少しだけ頼りながらレストルームに行ったとき、桜子は晴香に顔を寄せそっと聞いてみた。
ーわたしが寝入るとまだ夜遊びしてるみたいよ。
 その言葉の響きには軽やかさが含まれていたが、晴香の視線は桜子から静かにカクテルグラスに移った。
ーひとつの身体を奪い合うことはもう心配ないの?
ーどうだろう。今のところは上手にシェアできるようになった気がするけど。
ー何があったの。聞いてもいいかな。
 晴香は桜子の問いかけに、胸の奥にチクリとするものを感じた。
 桜子は毎回心配してくれている。でもまだうまく説明できない。説明をひとつ間違うと、せっかくこうやって知り合いに、友だちになれたのに、すべてが壊れてしまうかも知れないから。
 わたしの分身はかなりの回数であなたの恋人に会いに行っているのよ、晴香はそんな言葉をドライマンハッタンで飲み込んだ。
ーひとつだけ言えることはね、ふたりとも消えたくなくって身体はひとつしかないってこと。それを独り占めしたかったんだけど、結局ふたりはひとりなんだからお互いの気持ちも言い分もわかっちゃうのよね。
「ふーん、そうなんだ」
 ひなのが戻ってくるのが視界に入った桜子は普段の話し方で話を締めくくった。
「なになに」
 ひなのは、よいしょっとカウンターに戻り、その戻り方はまた3人を談笑に戻した。

(続く)
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by hello_ken1 | 2010-01-02 15:57 | Midnight Zoo