今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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カテゴリ:そのひと( 50 )

そのひととそのひとの娘からの贈りもの


A Love Letter, originally uploaded by Amber... Bamberboo.

 ジグソーパズルのピースが一片、一行の手紙とともに入っていた。
 明るいブルー、それがそのピースの色、単色であり、どこまでも続く海の色なのか、それとも抜けるような空の色なのか、この一片のピースだけでは判断がつかなかった。それともまったく関係のないブルーなのか。
ーこのピース抜きでジグソーパズルに挑戦中。大切に持っているように。お守りだよ。
 そのひとの娘が、ぼくのポケットに入れたそのひとからのメッセージだった。

 そのひとの娘からの手紙には、ただ英語の歌詞が書き写されていた。この原曲はたしか、キャロル・キングだったはず。
ー苦しいときにはわたしの名前を呼んで。すぐにそこに行くから。
 そんな英詩だった。

 きっといろいろな言葉を浮かべては消して、結局ぼくの身を案じるメッセージになっているのだろう。そこに彼女らは精いっぱいの明るい笑顔をこめている。ぼくは手元にあるふたりからの思いを胸にシートに深く身を沈め、まぶたを閉じてみた。
 そこには「どした」ってbig smileではじめて声をかけてきたそのひとがいた。そんなに好きじゃないのよと意地を張っていたそのひとの娘の笑顔が浮かんだ。

 機内備え付けの小さなテーブルに英詩とピースを置くと、ぼくは文庫本に挟んでおいたそのひとの娘のポートレートを取り出した。
「お兄さんの彼女かい」隣のシートの白人のおばさんが人懐っこく尋ねてきた。彼女は優しいしわをたくわえている。
「いや、でも、親友以上かな」少し照れながらぼくは答えてみる。
「もうさみしくなったのかい」おばさんはぼくまで優しくなれるような眼差しをしている。
「まだ早すぎますよね」おばさんはこっくりと頷くと横を通ったキャビンアシスタントに何やら話しかけた。

 ちゃんとキレイにかわいくてセクシーに写っているポートレートのそのひとの娘が微笑んでいる。
 ジグソーパズルの一片のピースがぼくを安心させてくれる。

 ぼくは口元に笑みを覚え、ふたりのメッセージをジャケットの内ポケットに仕舞い直した。

               (そのひと 完)
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by hello_ken1 | 2006-08-06 02:12 | そのひと

そのひとの娘と空港で


ーいつでもどこでもってわけにはいかないけどさ。だけど、きみのことをまず思うんだろうな。

 成田発ではない。羽田から関空経由の飛行機がぼくの乗る便だった。
 見送りはいらないから、と伝えていた。
 そう伝えていたけれど、それ自体も言う事はなかったのかも知れない。
 それを便名まで伝えた時点で、ぼくは彼女たちにもう一度会いたいと言ったことになる。

「何便なの?」
「関空を深夜だよ」
「だから便名は?」

 見送りには行かないと言っていたそのひとの娘が、ぼくよりも先に羽田空港に来ていた。

「わたしたちはもう別れているんだからね」
「そうなんだ」
「そうだよ。あのときからずっとね。だから飛行機が飛び立った後はますますふたりとも自由なんだから」

 あのときって、唐突に今日の日の話をしたときのことなんだろうな、と思った。
 優しい気遣い、かなり甘酸っぱい、それがそのひとの娘が一晩考えた台詞。

「でも、約束だけは守るんだよ。そのくらいは守ってよ」
「落ち着いたら、連絡するって約束、だね」
「うん、ありがとう、覚えてるんだ」

 羽田でのフライトまでにはまだ時間があったけど、そのひとの娘にはそんな時間なんて関係なかったんだと思う。
 フライト時間ぎりぎりまで一緒にいれるほど気丈じゃないのよ、わたしは。そのひとの娘の目がそう物語っていた。

「飛行機の中で読んでよ。わたしとママのふたりの思いがそれぞれ書かれてるから」
「着いてからじゃないんだね」
「着くまで我慢できないでしょ」

 そのひとの娘は軽くぼくの唇にキスをし、封筒をぼくのジャケットのポケットに無造作に突っ込んだ。

「これ以上のキスは、そのさきまで行きたくなるから」

 行き場のない言葉を口にするそのひとの娘の少しよれた笑顔が、ぼくの胸を余計に締めつけた。

「いつでもどこでもってわけには、」

 ぼくの続きの思いは、さっき以上のキスではげしく被われた。
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by hello_ken1 | 2006-07-29 13:00 | そのひと

そのひとと離れるぼくのうたた寝


booth, originally uploaded by hello.ken1.

「おまえは何をしに行くんだ」
「なにかを成し遂げるためじゃないよ」
「何も海外に行くことはないだろう。スローライフであれば田舎や島ででもできる、沖縄でもいいんじゃないのか」
「スローライフがしたいわけじゃないしさ」
「じゃあ、今の生活に何か不満があるのか」
 ぼくは首を横に振る。
「一度っきりの人生なのに、いつも現状に立ち止まっている自分がいる、そう感じてもう長い。何もしなかったことに後悔しそうな気がしてきてさ」
「それは一時の行き詰まりから来ている現状逃避じゃないのか」
「あぁ否定はしないさ、でも、ここが自分の居場所じゃないって、ますますそう思うようになってきたんだ」
「それで見つかるのか、ここを後にしてその居場所ってやつが」
「わからない。ただここにいても見つからないと思う」
「根無し草になるぞ。それよりもここにいると、ここがその居場所に変わったりはしないのか」
「そうだね、そういうこともあるだろうね。でも、何をもって居場所と言えるのかも今のぼくにはわからないんだ」
「はっはっはっ、わからないことだらけだな。それで旅立ってもいいことはないだろうに」
「そうかも知れないけど、そうじゃないかも知れないよ。ただ、以前見た海岸線が、そこでのひとの笑顔がぼくの心から離れなくなってきているんだ。それが確かに増殖してるんだよね」
 いなくなって十年以上経っている親父が笑っている。目覚めると生前よく耳にした親父の笑い声が耳の奥に残っていた。
ーはっはっはっ、所詮何を言ってもお前の人生だ。
 都合のいい夢の終わり方をしたものだ。うたた寝をしていたソファから身を起こすと、ぼくは荷造りの続きをはじめた。
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by hello_ken1 | 2006-07-23 15:17 | そのひと

そのひとの願掛け


Oceans away, originally uploaded by The Department.

 そのひとはひとりジグソーパズルをしていた。
 昨夜からリビングのウッドフロアはばらまかれたピースでいっぱいだった。はじめは山積みになっていたピースも時間が経つにつれすそ野を広げ、今はただ平たくちらかっている。パズルは完成とは程遠く、ただちらかっていると言う表現が的を射ていた。

「寝てないの?」
「気になるピースが見つからないんだよ」
 どう見ても完成するとは思えないジグソーパズルのそれらのピースがそのひとの前に静かに広がっていた。気になるピースが見つかると一気に完成につきすすむんだよ、そういうもんなんだよ、とそのひとは娘に答えた。
「じゃ、見送り行ってくるね」

 昨夜二人で話して、今日の見送りはそのひとの娘だけと決めていた。
「見送りいらないんだって」
「行ってあげな。ふたりともその方が踏ん切りがつくこともあるんだよ。行った方がいいよ」
 そのひとはよく冷えた白ワインを娘のグラスに注ぎ足しながら、優しく微笑んだ。
「あの子の行くところの風景に似てるかなと思って、会社帰りに買ってきたんだ」
 そう言ってそのひとの娘に見せた箱は3000ピースのジグソーパズルだった。
「無事に着いて、希望がかなうといいな」
「そうなんだよね。だからある意味、願掛けパズル。何十年ぶりだろうね、パズルなんて」
 そのひとは水滴がつき始めてたグラスを口にすると、パズルの箱を軽く振ってみせた。

 リビングから出て行こうとするそのひとの娘にそのひとが声をかけた。
「そうそう、これ手渡しといてくれないかい」
「ママもなの?」
 そのひととそのひとの娘は頷きあった。
 そのひとの娘は渡された封筒を自分の封筒と重ねバッグに仕舞うと、ひとつのピースを探し続けるそのひとを心から愛おしいと思った。
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by hello_ken1 | 2006-07-15 10:41 | そのひと

そのひとの娘とエスカレータで手をつなぐ


escalator, originally uploaded by hello.ken1.

ーエスカレータに乗る際は、小さいお子様の手を取って、、、
 デパートの館内放送が告げている。
「ねっ、手、つなご」
 下りのエスカレータでぼくの後ろに立っているそのひとの娘が、耳元で囁いた。
「誰が小さいお子様なんだかね」
 振り向いて、そのひとの娘の顔を見上げるぼくの右肩に、そのひとの娘は手をかけてきた。
「ねっ、つなご」

 久しぶりのデパートデート、ジャストルッキング、実際に物は買わないけれど、いろんなショップを見て歩く。
「これも必要よ」
「なくてもどうにかなるだろ」
「じゃあ、これは」
「うーん、悩ましいな」
 海外旅行に物を持って行ったことがない。必要なものは現地で調達する、それを基本としていた。郷に入れば郷に従え、古の人はいい言葉を残している。現地には現地に合ったものがそろっている。
「携帯はどうするの。あっちでも今のが使えるの」
「いや、使えるかも知れないけど、いったん解約するよ。休止にもしない」
 そのひとの娘はぽつりと言った。
「つながりを絶つんだ」
ー携帯はね、つながっているようでつながってないんだよ。
ーでも、つながってなさそうでつながっていると感じてさせてくれる意味のあるものかも。
「落ち着いたら連絡するからさ」

 少し言葉数が少なくなったそのひとの娘が言っている、手を差し出して言っている。
「エスカレータでは、小さいお子様の手をつなぐんだよ」
 ぼくがつないだそのひとの娘の手は、ぼくが思っていた以上に温かかった。
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by hello_ken1 | 2006-07-08 13:28 | そのひと

そのひととそのひとの娘と雨上がりの夜空

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 そのひとの娘のいない生活を考えた事がなかった。
 気づけば、そばにいてくれた。そばで笑顔を向けてくれた。ふたりでいつもキスをしていたように思う。

 そんなに好きでもなかったのにつきあいを続けていたのは、ぼくの方、それともそのひとの娘の方。結局、ふたりとも相手の重荷になるのがいやで、そんな言葉を使ったけれど、あれだけいつもキスをしてたんだ、ふたりとも相手が必要だったはず。

 そのひとのいない日常を想像したことがなかった。
 振り向くと元気で笑っていた。そして、なんにも心配ないんだよ、いつもそんな表情でいてくれた。

 いつしか魅かれていたそのひと。そのひとの言葉を聞いていると温かいものを感じていた。それはそのひとの愛情、危うく写っていたぼくを一歩引いて見守るような愛情。

 そんなふたりに、そんなふたりと。

 日本を離れるだけなのに、会いたくなったらメールを送ればいい、電話をすればいい、会いに戻ればいい、そんな簡単なことなのに。

 雨上がりの夜空は、座ることのできないベンチは、姿の見えない猫の鳴き声は、ベランダでいつしか物思いにふけるぼくを少しだけ弱気にさせる。

 ぼくは氷を浮かせたジンをテーブルに置き、そして、ひとつ大きな深呼吸をした。
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by hello_ken1 | 2006-07-01 19:00 | そのひと

そのひとからの贈り物


agapanthus, originally uploaded by hello.ken1.

 朝目覚めたときに、もうひとりの自分が楽しそうにささやいた。
—行こうぜ。
 ベッドルームのカーテンの四辺から明るい光がこぼれている。
—もったいないよ、街へ出ようぜ。
—そうだな、試し撮りにもいいかもな。
 ぼくは先日そのひとから譲り受けた年代もののポラロイドカメラに目をやった。

「娘から聞いたよ。早くに教えてくれてもいいじゃないか」
 口で言うほど怒っていないことは容易にわかった。それよりもそのひとは妙な照れ笑いをしている。
「これ持ってってくれないかい。まだ十分に使えるから、わたしが持っているより」
 そう言ってそのひとはトートバックからあるものを取り出した。
「ファインダーから覗くだけでも気持ちが優しくなれる不思議な箱だよ」
 それは年代もののポラロイドカメラだった。
「心にふれるものを撮っておくれ」
 そのひとはそっとぼくにそのポラロイドカメラを差し出した。

 光がもれているカーテンを全開にすると、梅雨の合間を縫った見事な青空が目の前に広がった。
—ほら、呼んでるぜ。
 もうひとりのぼくに言われるまでもなく、確かにその青空は、ぼくとそのひとのポラロイドカメラを呼んでいた。
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by hello_ken1 | 2006-06-24 11:42 | そのひと

そのひとの娘の温かい指先


sunshine, originally uploaded by hello.ken1.

 以前から心に決めていたことだった。
 会社に入って5年間はがむしゃらに働いて5年経ったらその先をまじめに考えだす。そして、それから3年後を目処に行動に移す。その行動に移す時期が目の前にきている。
 やっと話し出せたと思ったら、それからは堰を切ったように言葉が次々と口をついた。さっきまでなかなか言い出せなかったのが嘘みたいだった。
 そのひとの娘はそんなぼくの話をきょとんとして聞いていた。
「と言うことで日本を離れようと思う」
 そのひとの娘がゆっくりとまばたきをひとつし、静かにぼくを見つめ直した。
「もしかしたら」
 言葉を続けるそのひとの娘。
「ほんともしかしたら、そんなに好きじゃなかったのは、わたしじゃなくて、あなたの方だったのかも」
 ぼくは以前に言われた、そんなに好きじゃないと言うそのひとの娘の言葉を思い出した。すっかり忘れていた言葉だった。
「そんなことないよ」
 ぼくはカフェのテーブル越しにそのひとの娘の指をさわった。
—そうだね、そんなやりとりもあったね。
 そのひとの娘の指先は微熱があるのかと思うほど温かかった。
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by hello_ken1 | 2006-06-18 11:23 | そのひと

そのひとの娘とカタツムリ


Hydrangea Vintage, originally uploaded by zizzybaloobah.

 そのひとの娘は、明るいけれどもこれから雨を呼ぶであろう空を見上げた。
ー紫陽花の季節になるんだ。出会って何度目の季節かな。
 季節ごとのいろんな自然の色が、ここから彼の部屋までの歩道にあふれている。紫陽花もそのひとつ、必ず毎年濃い水色の花をつける。それは気持ちが沈みがちになる梅雨の毎日での心の寄りどころ。
ー最近、見ないなぁ。
 彼とつきあいだして始めてのこの季節に、ここでカタツムリを見つけた記憶がある。そのひとの娘は手にとってみようとは思わないが、ただ紫陽花にカタツムリがいない梅雨時期も何か物足りない気がしていた。
ーあっ。
 紫陽花を濡らし始めた雨粒の先に、そのひとの娘は小さなカタツムリを見つけた。
ーいいことあるかな。
 そのひとの娘は携帯のカメラにカタツムリを収めた。
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by hello_ken1 | 2006-06-11 01:22 | そのひと

そのひとの娘の笑顔の写真


julieta003, originally uploaded by fer.cipriani.

 今更だけど、言いあぐねていた。
—来月の中旬には発とうと思ってるんだ。
 でも、伝えたいことは、本当に伝えたいことはなんだろう。
—月並みだけどさ。
 何が月並みなんだろう。
—今までありがとう。
—うん、楽しかった。
—さみしくなるよ。
 ほんと月並みすぎる言葉ばかりが浮かんでは消える。
「写真」
 そのひとの娘がポツリと口にする。
「ちゃんと撮れてた?」
「うん、キレイに撮れてた」
「かわいく撮れてた?」
「もちろん」
「セクシー?」
「今までで一番」
 そのひとの娘はふきだした。
「ちゃんとキレイにかわいくてセクシー、すごいね」
 うれしそうに笑うそのひとの娘の表情は、まさに写真のそれだった。
 少し気持ちのほぐれたぼくは、その写真をはさんでいた手帳をカバンから取り出した。
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by hello_ken1 | 2006-06-03 13:07 | そのひと