今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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<   2005年 06月 ( 14 )   > この月の画像一覧

きみだろ、食べたいのは



Tokyo Subway circa 2000, originally uploaded by Wolftrouble.

つかまろうとした吊革には、一瞬早く機敏そうな肌の色の右手が伸びていた。
この急停車でつかまるものがなくなったぼくは、膝を曲げてバランスをとろうとする。
それでも急停車のGは容赦なくぼくの傾いたカラダを進行方向に押しつける。
「すみません」
ぼくを意図もせず支えることになった機敏そうな右手の女性に小声で伝える。
その右手と同様、彼女はシャープな輪郭の、そして夏を先取りしたような肌の色をしていた。
「大丈夫ですか」
満員電車の中、彼女の唇がそう動いた。
ぼくは体勢を立て直し、もう一度彼女に視線を戻す。
彼女がつかんでいたはずの吊革はフリーとなり、ぼくの前で優しく軽く揺れている。
「どうぞ」
左手でとなりの吊革をつかみ直した彼女の仕草は、ぼくのかつての彼女に似ている気がした。

「少しも好きじゃないわ」
「つきあえばすぐに分かるよ」
ぼくは当時の口説き文句を思い出した。
そしていつしか彼女は猫のように寝ころび月をみて、
「ねぇ甘いもの食べたいでしょ」
と、よく口にするようになった。
最後の日は、襟もとの大きく開いた七分袖の黒のTシャツを着ていたっけ。
そんな思い出もいつしか忘れていた。
そうだ、そのときのぼくの決り文句は、
「きみだろ、食べたいのは」
だったはずだ。
そして笑顔で話すふたりが確かにそこにいた。

「ありがとう」
ぼくは吊革をゆずってくれた彼女にお礼を言った。
でもその言葉はかつての彼女へ伝えることのできなかった言葉、それを今ようやく口にできたような気がした。
かつての彼女に伝えたくて、でも言えなかった言葉、大切な思い出と一緒にそれすら忘れていたぼくがここにいる。
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by hello_ken1 | 2005-06-25 19:13 | EndlessGoodTime

影踏み


Shadows on stucco, originally uploaded by LBELL.


きみの影をふめたなら、

きみの心をひきとめておけますか。


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by hello_ken1 | 2005-06-20 18:49 | EndlessGoodTime

サクランボのマーク



Notebook, originally uploaded by londondan.

山吹色のシステム手帳を何度となく確かめ、ときおりゴールドの細いボールペンで何かを書きこむ。
ひととり書き終えると、きみは陽射しの差し込むテーブルに手帳を静かに置いた。
珈琲をひとくちすする。
美味しいときみは目を細め、意味あり気に微笑んだ。
ぼくはそんなきみの表情に気づかないふりをし、読みかけの雑誌に目を落とす。
きみはもうひとくち珈琲をくちにする。
「ねっ、軽井沢行こうよ」
きみの右手がすっとぼくの雑誌を取り上げた。
その手の薬指にあるピンクの小さなバラの指輪が、きみの楽しい気持ちを物語っているよう。
「今からかい」
逆光線の中、笑顔のきみが首を横に振る。
「秋になったらね。寒くならないうちに」
差し出されたきみのシステム手帳には、サクランボのマークが9月の週末にみっつほどついていた。
ぼくも珈琲をくちに運ぶと、きみの書き込んだサクランボのマークを中指でつつく。
「いいよ。でも何でサクランボのマークなの」
「今、サクランボの季節でしょ。その頃に決めたっていうしるし」
そう言ってちょこんと舌を出すきみは、さっそく9月の軽井沢での予定をぼくに話し始めた。
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by hello_ken1 | 2005-06-20 09:54 | EndlessGoodTime

赤いバッグ



ImportantToMatchYourPurse&Boots, originally uploaded by nikky.

地下鉄の乗り継ぎの通路をふたりして歩いていると、となりを早足で抜いていく女性がいた。
「あっあれ!」
すばやく指さす今日のきみの指先は、うすいブルーのベースにそれより少しだけ濃い空色の星がプロットされている。
きみはその指でぼくの右肩をゆする。
「あれよ、あれ」
「目をつけてたのよねぇ。みんな買っちゃうのかな」
何のことだろう。そんな気持ちできみの目をのぞき込むぼくに気づいて、きみがことばを続ける。
「誕生日まで待っていると売り切れちゃうよね、ね、ね」
前方に行ってしまった女性の右手にバッグが見える。もう離れすぎていて、赤い色、それだけが確認できる。
もう一度、きみの目をのぞきこむ。
おねだりするまなざしで、きみもぼくの目をのぞきこむ。
「ねっこれからあの赤いバック、見に行かない?」
言い出したら聞かないきみは、たしかに少しだけ歩調を早めて、地下鉄から上がる階段へとぼくの右腕を引っ張った。
-大丈夫、まだなくなりはしないよ。
ぼくはきみの後ろ髪にそうつぶやいた。
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by hello_ken1 | 2005-06-20 09:53 | EndlessGoodTime

ピンクのかさ



drops2, originally uploaded by codfisch.

午後からの雨、お天気キャスターのおねえさんは降り出したら明日いっぱい続くと言っていた。
今夜の彼女は残業の予定。残業が終わって彼女が会社を出る頃には、雨は本降りになっていることだろう。

オフを理由に彼女から頼まれた買い物の帰り道、
フロントガラスのワイパーが降り出した大粒の雨をはじく。
本来ならもう少し明るいはずのこの時間、雲が空を覆い隠し、ほとんど夜のようだ。
赤信号でくるまを止める。
停車とともにワイパーの動きも遅くなり、激しい雨に視界を遮られる間隔がのびる。
そのすき間から、前方のマンション上層階の窓に明かりが灯るのが見えた。
「おっ、帰ってきてんじゃん」
同時に稲光が目に刺さる。
彼女の大好きな光沢のあるピンクのかさ、ほんとうに薄いピンク色、そしてその細いかさを持つ彼女の細いゆび、そんなことを思い出した。
あのピンクのかさは、こんな大粒の雨と雷からもきみを守ってくれたのかなぁ。
−びしょびしょになったんだからぁ。
半泣きの笑い顔をしたきみのそんな言葉が、カーラジオから聞こえてくる気がした。
「もうすぐ着くよ」
ぼくはアクセルを踏み込んだ。
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by hello_ken1 | 2005-06-20 09:52 | EndlessGoodTime

i saw this butterfly in the bus



i saw this butterfly in the bus, originally uploaded by shellfish.

真っ赤なカバンをひざに抱え、降りる駅をうかがっているきみ。そんなきみが一匹の蝶を指さした。
「雨宿りしているだけだよね」
「そうだね」
「誰か降りたら、一緒に降りるのかな」
「雨だぜ」
「じゃあ、ここにいるの」
「一休みだよ」
「晴れたら、飛べるよね」
「飛べるさ」
きみはときおりカバンの中を確認している。なにを何回も確認しているのか、ぼくにはわかっている。
「大丈夫だよ」
「うん」
ぼくらが降りるバス停が近づいてきた。きみはカバンの中の診察券を上着のポケットに移した。
「すぐ出せるからね、こっちのほうが」
きみの肩を抱きかかえ、一緒にシートから立ち上がる。
淡い色をした蝶をもう一度見ようと振り返るぼくら。
「飛べるよね」
きみは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
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by hello_ken1 | 2005-06-20 09:51 | EndlessGoodTime

彼女のゆびさき



coming, originally uploaded by swallowtail.

「おひさしぶり」
そう言って駅のホームで声をかけてきたかつての同僚は、元気そうだった。
−あっ、飲みに行く約束をしてないや。
彼女のすべての指先に透明なマニュキアが光る。その上に、小さな三色の花が咲いていた。明るいブルー、明るいエンジ色、そして明るいグレー。それぞれ五枚の明るい花びらで構成されている。
ゆびさきの花にも負けない彼女の明るい笑顔は相変わらず、ぼくを和ませる。
でも、彼女の左手の薬指にあるはずの指輪は見当たらない。心なしか、手首が細くなっている気もする。ぼくの気のせいなのか、もとからそうだったのか、思い出せない。
間もなく、互いのトラックに逆方向の電車が到着した。
−じゃ、またな。
−連絡ちょうだいね、約束してたよね。
そう言って、彼女はグラスを持ち上げる仕草をし、反対側の電車に乗り込んだ。
ぼくは、車窓ごしに手を振るそんな彼女の名前を思い出せずにいた。
−まいったなぁ。
そして、ぼくの電車も動き始めた。
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by hello_ken1 | 2005-06-20 09:49 | EndlessGoodTime

bar N43 on My BD



bar N43 - 3, originally uploaded by hello.ken1.

N43で飲んでいると、きみの声をtalbyが受けとめた。
静かな夜景と気だるいJAZZ、灯だけで着信を知らせるtalby。きみの声が夜空をこえる。
「おめでとう」
talbyを片手に店のドアを開け、外にでる。
受話器に触れるぼくの息は白い。GWだというのに足下に白い雪が残る。
「ありがとう」
「毎年、今日は別々ね」
「そんなカップルも、」
「好きよ」
きみの笑顔を思い出し、talbyをポケットにしまう。
ー来年の今日こそはきみのそばできみのくちびるを読もう。
目の前にはこばれたマティーニのグラス越しに、また今年も同じことを考えた。
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by hello_ken1 | 2005-06-20 09:48 | EndlessGoodTime

つり革につかまる

吊革をつかんでいる彼女の指先はとても白かった。
きれいなつめのカタチをしている。CMでゆびのモデルをしているのかも知れない。その彼女の爪先まで白かった。
何をそんなに強く握っているのか。何が彼女にそうさせるのか。ぼくにはわからない。
ただ分かっているのは彼女がきっと必要以上に強く吊革につかまっているということ。
窓ガラスに彼女の顔が映る。指先ほどではないが、どちらかといえば美人の部類、ツンとすました感じではなくて、きっと笑顔が優しそうな美人。
そんな顔立ちよりも、ぼくにはゆびの先っぽだけ白くなるまで力を入れているその右手が気にかかる。
どうしてですか。
これが自然なの。
そうかもしれない。そうだよね、きっとそうだ。
ぼくは一人納得し、電車を降りた。
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by hello_ken1 | 2005-06-20 09:47 | EndlessGoodTime

桜はね



thanks, Sakura., originally uploaded by jam343.

冷たい春の小雨。路面には地上におりた無数の桜の花びらがその小道を覆い尽くしている。
咳き込んでいるきみにせき止めを買いに行くまでの散歩道。
暖かくなってきみと散歩に出れるころには、桜の木々はみな葉桜になっているんだろうね。
そんな思いに背中を押され、ポケットから取り出したデジタルカメラで写真を一枚。ピピー。
きみはよろこんでくれるかな。
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by hello_ken1 | 2005-06-20 09:46 | EndlessGoodTime