今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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夏の終わりに。




diving kitty -10.0-, originally uploaded by z-rahen.

白い猫が勢いよく塀から飛び降りた。流れるような動きは柔らかい。
その動きは、朝の透明な空気の中で鳴き始めた蝉の声を止めることもない。
きみは飛び降りた白い猫の行き先を興味深げに見ていた。

「猫、飼おうかな」

留守番させるのがかわいそう、と今までペットは何一つ飼わなかったきみ。
ひんやりとした早朝の公園のベンチで、きみは白い猫から視線を外さずに、猫を飼いたいと口にする。
優雅な足取りで真向かいのベンチの下に入った白い猫は身繕いを始めた。

「わたしの癖とかをね、覚えさせるの」きみはクスリと口元で笑い、言葉を続けた。
「そして、わたしのコピーになってもらうの」

白い猫はベンチの下で、もう飛ぶことのできない蝉を見つけたようだ。

「朝あなたが優しくわたしの名前を呼ぶと、その子があなたのシーツに潜り込んできて、あなたの鼻の頭をなめるのよ」
「ねっわたしみたいでしょ」きみは微笑みながら白い猫を見つめ直した。

七日目をすぎてまだ地上に思いを残す蝉を、白い猫は前足でじゃれている。
時折大きな音を立てる蝉に、びくんと身を構える。

「地面の中の七年間で何思ってたのかなぁ」きみの視線は蝉に移りぽつりとつぶやく。
「出てきたら七日間って知ってて鳴いてたのかなぁ」

飛べない蝉はいきなり白い猫の手をすり抜け、小さな円を地面に描きながら、ベンチの下から飛び出してきた。
白い猫はベンチの下で身構えたまま、じっと蝉を見つめ続ける。

ぼくらを含むそんな光景に、夏の終わりの朝日がゆっくりと照りつけ始めた。
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by hello_ken1 | 2005-08-27 03:39 | EndlessGoodTime

わかってるよ




June 000373, originally uploaded by Treehugger.

その子の手は、ぼくの手をすり抜けた。
「つなげないわ」
「目をつぶろう」
すると瞳の奥にその子の透き通るような色白の手とぼくの手が浮かんできた。恐る恐る手を差し伸べるぼくら。瞳の中でそんなぼくらの手が触れ合ったとき、ぼくはほんのりとした温かさを感じた。

「ギュッと」
その子は不安そうな笑顔で、そうぼくに伝えてくる。
ぼくはその子の不安を取り除こうと、温かさを感じるその手をギュッと握ってみた。でも瞼を閉じた世界では思うように力をこめられない。
力をこめようとすればするほど、触れ合ったときの温かさとは裏腹に、ぬるりとしたひんやり感が伝わってきた。
消え入りそうなになっている手の向こう側で、その子が寂しげに首を横に振っているのが見える。

ぼくはひんやりとしたその子の手を感じながら、力をこめるのをやめた。
「こうじゃないよね」
ぼくは心の中で、気持ちの中で、ギュッとつかむ意識をしてみた。するとぼくらの周りは急に明るくなり、その子の手はやはり温かく、そしてホッとしているその子の顔が感じ取れた。

「ありがとう」
「久しぶりだね」
「覚えててくれたんだ」

ぼくは少しの間、その子を見つめたあと、うつむき加減に首を横に振った。
「じゃあ、どういう風の吹き回し?」
「この前、ぼくんちに来たから」ぼくはこの言葉を飲み込んだ。
この子は台風の好きな彼女じゃない。だってこの子は台風が来ると怖がって布団に潜り込んでたじゃないか。
そんなことさえ忘れていた自分が情けなかった。

「でもね、きっかけは何であれ、誰かが会いに来てくれるって」
ぼくはその子がもっとギュッと握ってきているのを感じた。
「どうしようもなく嬉しいよ。泣き出しちゃいたいくらい、嬉しいよ」
その子は少しばかり震えている。その震えがぼくの心に痛かった。

「ここにずっといてくれるの?」
「ごめん、それはできない」
「へへ、うん、わかっているよ、それくらい」
「えっ」
「寂しくったって、わかってるよ。住んでる世界が違うってことくらい」

そのとき、ぼくは足元に絡みつくような霊気を感じた。
「それに、あなたの後ろにもうひとりの霊がいるもの。こんにちは」

きっと台風が好きだった彼女だな、ぼくはそう思った。ついてきていたのか、ぼくは少しバツの悪さを彼女に対して感じた。
そして、その子はそれ以上、ぼくに何も言葉をかけてこなかった。

どのくらい時間が経ったのだろう。きっとその間、ふたりの霊は触れ合っていたのだろう。ふたつの霊気がゆっくりやさしく絡み合うのが感じられたから。
「ありがとう」
急にその子の笑顔が辺り一面に咲いた気がした。足下の霊気が引いていくのも感じた。
「一番にわたしを思い出してくれて、ありがとう。ほんとにうれしかったんだからね」

山のふもとから遠くに、一日順延になった花火大会の色鮮やかな打ち上げ花火が見えた。

「五尺玉が上がったんだってよ、すごいね、山の方から見えただろ」
いきなりの大雨で花火大会が今日に順延になり、それで実家での滞在も一日延びたと喜んでいるお袋が聞いてきた。
「うん、きれいに見えたよ」
あれがきっとそうだったんだとぼくはなんとなく納得し、お袋にもビールをついであげた。

その夜遅く、ぼくの携帯が鳴った。
「会えた?」
「うん、まぁ」
「よかったね。じゃあ気をつけて帰ってきてね」
「うん」
「来月は軽井沢行く約束だったでしょ」
きみは安心したようで、でも何度も何度も戻る日を確認してやっと電話を切った。
台所ではお袋が土産にと手作りの漬物を詰めていた。
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by hello_ken1 | 2005-08-20 16:39 | EndlessGoodTime

夢の記憶




fresh air, originally uploaded by Queenthings.

きみは夢を見ていたと言う。

「でも、本当は夢じゃなかったのかもね」、後できみは首を横に振りながら、ぼくにそう言った。

記憶ははっきりしている、でもそのときのきみの周りの情景は輪郭もおぼろげで、色もはっきりしていない。

きみが寝苦しくて目が覚めると、台風が好きだった彼女がベッドサイドに座っていた。
重さもないのだろう、ベッドに体重がかかっている様子もない。
その彼女はきみと目が合うと、ちょこりと頭を下げ、唐突に、でも静かにゆっくりと話し出した。
唇は動いていない、きっと心に直接語りかけているのだろうと、きみは妙に落ち着いて聞いていたという。

「わたしみたいなもう誰も会いに来てくれない霊は、わたしだけじゃないの」
「あなたの彼氏は、誰しも持っている、心の片隅にいつしか無意識に追いやっていた思いに触れただけ」
「でも、だからと言って、あのひとが、あなたの大切なひとが、わたしとの約束を守らなかったとは全然思わない」
「会いに来ようとしてくれた。現実のあなたが躊躇して止めようとしても、そうしようとしたし、今まさにそうしている」
そして
「ごめんね。心配かけて」
と彼女は言葉を締めくくった。

ゆっくりとした話の中でも、確かにここで一息ついたのが、感じ取れた。
そしてひとつひっかかる言葉がきみの心に残っていた。
−霊はわたしだけじゃない。
その言葉だけが、唯一きみを不安にさせた。

「ねぇ、もしかして、あのひとがあなたに会いに行っている場所は、あなたの場所じゃないのね」
台風が好きだった彼女は微動だにせず、きみをみつめている。
「あなただと思い込んで、ちがう霊に会いに行っているのね、そうなんでしょ」
綺麗な姿勢で横に座っていた彼女は、少し間を置いて、小さく頷いた。何となく申し訳なさそうな表情で。
「でも、わたしが間違いなく送り届けるから。待ってて。心配ないから。約束する」

きみの記憶はここまでで、次に目が覚めたときにはすずめの声が聞こえてきた。
ベッドルームの窓は半分開き、白いレースのカーテンの揺れが静かな夏の朝を演出している。
せみ時雨もまだ始まらない時間だった。

「あの彼女はわたしとの約束を守ったみたいね」
少しだけひんやりとした両手で、きみはぼくの頬をやさしく包んだ。
−キスして。
ちょっと不安そうなまなざしのきみが、声にならない言葉をぼくに伝えた。
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by hello_ken1 | 2005-08-20 10:36 | EndlessGoodTime

花火の音がふたりをつつむ




FireWorks, originally uploaded by hello.ken1.

「10年くらい前にさ、すごい台風がこの辺りを直撃したんだよね」
午前中に実家に帰り着いたぼくは、台所から響くお袋の包丁の音を聞きながら、尋ねてみた。
「かなりの災害だったんだよね」

「どうしてあなたの田舎なの」
浴衣姿のきみはあの晩、不思議そうだった。
「台風が好きだった彼女がそう言ったの?」
まるで納得していない口調のきみは、裾をちょっと直しベランダのイスに腰掛ける。
「あなたがなんとなく思い込んでるだけでしょ」
ぼくを見つめるきみの目はしょうがないわね、と言っていた。

「連絡もなしにいきなり帰ってきて、ほんとよくわかんない息子だねぇ」
香りのいいみそ汁とつやのよいほくほくのご飯がテーブルに出された。
「今更あんな忌まわしい話を思い出して、どうするの」
お袋はおかずを取りに台所に戻った。
「急に帰ってきても、ご馳走はないよ」
そんなことを口にするが、一人暮らしのお袋の声は少しばかり明るく聞こえた。
「そうそう、今夜は花火大会だよ。家にいるんだろう」
数年ぶりにいきなり帰省したぼくの前に、焼き立てのシャケと自家製の梅干しと漬物が並んだ。

「田舎に台風が来たんだ。記録的な大きさのやつがさ」
ぼくはベランダから見える川向こうの花火をきみと一緒に眺めた。今夜はこの辺りの花火大会だ。
「そいつが近所の山の木を根こそぎなぎ倒して、数本の大木を山沿いの川まで一気に押し流したって訳」
大きな打ち上げ花火が夜空を飾った。最近の花火は形も色もカラフルになっている。
「10年前のことだし、当時も田舎にはいなくて、ニュースとお袋からの連絡で知ったくらいかな」
そして、高く打ち上げられた花火は大きな音がお腹にまで響いてくる。

「あのときのことかい」
お袋は遅い朝食を取っているぼくの前に座り、食後にと梨を剥き始めた。
「あんたはいなかったし、怖かったわよ」
やはりお袋のみそ汁は具がてんこ盛りだった。元気をつけろと言わんばかりだ。
「その後もあんたはしばらく帰ってこなかったしねぇ」
今更ながら、ばつが悪かった。
「仕事もほどほどにしなさい」
お袋は笑っていた。

「うわー、きれい。やっぱり花火はこうじゃないと、本物じゃないとね」
きみがベランダのイスを寄せ、腕を組んできた。白地に赤い金魚の浴衣、これも夏の風物詩。
「お腹に響いてくる、この音がいいのよねぇ。夏って感じよねぇ」
きみの浴衣姿を横目で見ながら、ぼくもそう思った。
「そして迫ってくるように広がる花火、きれいだよね」
大きな音がぼくらを包む。音と光の時間差が心地よい。
「話し相手も本物がいいよね」
ぼくらふたりは天空を彩るひとときの魔法に魅了された。

「あんたが幼稚園の時に好きだった子」
お袋がフルーツ皿に盛った梨の実をぼくに差し出す。
「あの子が唯一の被害者になったのよねぇ」
自分がむいた梨をひとつ、口に頬張るお袋。
「他の人はみんな一命を取り止めたって言うのにね」

ぼくの記憶が少しだけ蘇り、友だちの彼と一緒にお酒を飲んだ夜の彼女の表情を思い出した。
遠くでは今夜の花火大会を知らせる号砲がなった。
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by hello_ken1 | 2005-08-14 15:26 | EndlessGoodTime

行ってきます




lucky charm, originally uploaded by hello.ken1.

「魔除けじゃないじゃん」
「いいのよ、除けなくても。結果的に運が開ければ」
「だから開運の御守り? 」
きみが買ってきた開運シールが手渡される。
「でも御守りってお札になってたり、金刺繍の布袋だったりしないか?」
あきれた仕草で首を横に振るきみ。
「そんなの無くすでしょう。シールだったらさ、携帯の裏っかわにでも貼っとけば無くさないし」
携帯を渡しなさいと右手を差し出すきみの手は、指は、細くて美しい。いい指の形をしているね。
「それに携帯使うたびに気になるでしょ。気になるってことが大事なのよ」
差し出されたぼくの携帯のどこにそのシールを貼ろうか、きみは思案のしどころって感じの表情をする。
「魔除けも開運も、何事も気持ちが大事なのっ」

今、空港でアイスキャラメルマキアートを飲んでいます。
チェックインカウンターでは「おめでとうございます」と言われたよ。
何でも今日、100人めのチェックインがぼくらしい。記念の携帯ストラップが手渡されたんだ。
これも開運かな、
では行ってきますね。留守番よろしく。
ぼくとしては長めのメール、きみにとってはきっと見当違いのメールかも。

「ほんとに行くんだ」
昨日の夜は、ぼくのマンションより空港に近いきみの部屋に泊まった。
「約束したしね」
「存在しない約束?」
きみは少しうつむき加減に小さい声で言った。
「そうかも知れないね。台風が好きだった彼女との約束。でも確かにぼくは会話もしたし」
「会話じゃなくて、話を聞いた」
ぼくの胸に顔をうずめるきみ。
「もっと言うと声を聞いた、うぅん、声の気配を感じただけかも知れないじゃない」
「そうかも知れないね。きみは正しくて、きっとそうなんだろうね」
−頭では、理屈ではわかっているつもりだよ。
「でもね」と、ぼく。
「うん、でもね」と、きみ。

最終案内を告げるアナウンスが空港のロビーに響く。
−もう行かなくっちゃ。
「メール送信!」
きみへの想いを込めて、送信ボタンをぐっと押す。
−ちゃんと戻ってくるからさ。
きみがぼくの携帯に貼った開運シールに向かって、ぼくはきみへのひとことを口にする。
「心配いらないから」
朝、寝息を立てていたきみもそろそろ目を覚ます頃だろう。
夕べ、ぼくとペアの開運シールを貼ったきみの携帯へ、メールと一緒にぼくの想いも届きますように。
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by hello_ken1 | 2005-08-06 01:27 | EndlessGoodTime