今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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EGT 完結です

パズル小説「EndlessGoodTime(EGT)」は「Cat in Bag」を持って完結とします。
支離滅裂なパズルにお付き合いいただき、ありがとうございました。

一気にぼくとしての3週間分を書き上げたので、パズル小説は2週間お休みしようと思います。次回作のタイトルはとりあえず「Old Fashioned Love Style」かな。内容は何にも考えていませんけど。引き続きこのblogにて。

この空いた2週間でEGTは全体を通して見直すつもりです。つじつまが合わない箇所やぼくとして完全に手を抜いた気持ちの強い「台風が好きな彼女」のしめくくりを悩みます。
すると新作はもっと先かな。
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by hello_ken1 | 2005-09-19 03:36 | info

Cat in Bag

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今、東京のぼくの部屋には、きみの残していった真っ赤なバッグと真っ赤なスニーカー、そして軽井沢で撮ったふたりの写真が残っている。
「いつもそばにいれるわけじゃないから」
きみはそう言ってたくさんの写真をぼくに撮らせた。でき上がった写真をよく見ると、きみの身の回りには必ず赤い色があった。バッグやスニーカーだけじゃなく、Tシャツ、カーディガン、サングラス、マニキュア、等々。
そして、きみが残した赤いバッグには一通の手紙が入っていた。その手紙にもきみからとわかるように真っ赤なキスマークがついている。
こんな唇だったっけ、ぼくはつい苦笑する。
「わたしたちが知りあった日はいつでしょう。わたしがいなくなって初めてのその日は家にいましょうね」
今にもきみがここに現れる、そんな錯覚さえ起こさせるような語り口の手紙、そして今日がその日だ。きみはこの手紙で何を伝えようとしているんだろう。ぼくはその答えに気づこうと朝から赤いバッグを見つめ続けている。

「お届け物です」
お昼を少し回ったくらいに、インターフォンが鳴った。インターフォンのその言葉にドアを開けると、お兄さんが小さなケージを持ってそこに立っていた。
「気をつけてください」
ぼくに手渡したケージの小さな扉が何の拍子かに開き、小さな茶色の塊が部屋の奥に駆け込んでいった。
「先月からご予約の小猫です。ご予約されたのはこの方ですね。受け取りのサインいただけますか」
そこにはきみの名前が書かれていた。
「メッセージも預かっています」

空のケージと封筒を受け取り、リビングに戻ると、窓側に並べた赤いバッグとスニーカーの間にその茶色い子はちょこんとすわっていた。首には革の首輪をしている。もちろん色は赤。
−いろんな小猫をね、考えたの。わたしはどんな小猫かなって。どう、普通っぽくてかわいいでしょ。きっとあなたも気に入ると思うの。
−この子はきみってことかい。じゃあ、新しい彼女ができたらどうするんだ。
−大丈夫、その彼女さんにも次の彼女さんにも気に入られるようにふるまうから。
−おいおい、この先、ぼくは何人の彼女と付き合うんだい。
−何人でもいいのよ。きっとあなたはこの小猫を誰からプレゼントされたか忘れるから。
−そんな。
−そういう魔法なの。
手紙を通してのいないはずのきみとの会話。いつの間に茶色のこの子はぼくの足下で丸くなっている。
「きっとこの子は明日の朝、ぼくの鼻の頭をなめるんだろうな」
ゆっくりとぼくはその子を抱きあげた。
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by hello_ken1 | 2005-09-19 03:10 | EndlessGoodTime

coffee




coffee anyone?, originally uploaded by _rebekka.

「どんな子がいいかなぁ」
ぼくの足下に背中をこすりつけてくるネコ。その白と銀色の毛並みにレンズを向けるぼくに、きみは尋ねてくる。きみはカフェのテーブルに両肘をついている。
「あなたのそばには、ほんとにどんなネコが似あうのかなぁって考えてみたの」
きみはいたずらっぽく微笑んだ。
「ほんとはもう決めてるけどね」

夏の終わりの公園の朝、七日間の使命を終えようとしていた蝉に臆病な戦闘モードで身構えたネコの記憶が、きみによみがえっているのか。

「ねぇ、手をつないで」
テーブル越しにそっとつないできたきみの左手はほんの少しひんやりとしていた。
「寒いの?」
「もうここは秋だもの。ちょっとね」
きみは入れ立ての温かいコーヒーを一口飲んだ。
となりのイスにかけておいたぼくのジャケットをきみに手渡す。
「今夜の夕食まで体調は維持しないとね。せっかく予約とったし」
きみの顔に笑顔が広がる、楽しみにしているのが素直に伝わってくる。
「どんなコースがあるの」
「二種類かな。でも、魚も肉も食べられるコースの方を頼んどいた」
きみはひとまわり大きいジャケットを肩にかけ、空を見上げた。確かに雲は秋の形に変わっている。
「ありがとう。こうしてずっとそばにいれるといいのにね」
きみはこの言葉の意味をレストランで静かに話し始めた。

よく思い出してみると、あの雨の日に病院に検査に行って以来、きみは不可解な言葉をよく口にするようになっていた。
「伝えたいことがあるの」
コース料理も終わり、デザートのコーヒーを目の前に、きみは静かに、そしてまっすぐにぼくを見つめた。
「いつかって誰にもわからないけど、そろそろかなって気がするの。少しずつ辛くなってきているのは事実だから」
からみつく寂しさ、それはぼくの予想を越え、心を冷たく締めつけた。
「わたし、今はあなたに頼ります」
その言葉にぼくは自分を戒めた。
「ずっときみのヒーローでいるから」
「うん、でもね。いつかはわたしを頼ってね。それが忘れないってことだから。いなくなっても頼りにしてね。それってとってもうれしいことだから」
そこにはぼくよりもずっとずっと大人のきみがいた。泣き崩れてもいいくらいの怖さをぐっと噛みしめているきみがいた。
「あなたがそんな顔しちゃだめでしょ」
すでにヒーロー失格になりそうなぼくを、きみが作り笑いで支えようとする。
「笑って。あなたの笑顔がわたしの勇気になるんだから」
きみはゆっくりとコーヒーに口をつけた。

真っ暗な道を走るレストランからホテルへの帰りのタクシーの中できみが聞いてくる。
「いい?」
きみの肩が震えている。ぼくはうなずき、きみの肩を支える。
ホテルに着くまでの永遠とも思える数十分の時間の中で、きみのむせび泣きは、ぼくに自分の無力さを再認識させ、そして、ぼくのきみへの強い思いをも再認識させた。
タクシーを降りたぼくらふたりを満月の柔らかい明かりが包む。
「化粧、変じゃない?」
「誰ももとの顔を知らないから、大丈夫だよ」
ぼくは涙が乾ききっていないきみの頬にキスをした。ぼくの首に両手を回すきみに少しだけ笑顔が戻っている気がした。
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by hello_ken1 | 2005-09-19 02:55 | EndlessGoodTime

寝息




misty, originally uploaded by algo.

森の静けさの中に早起き鳥たちのさえずりが聞こえる。
カーテンを半分開け、森へと続く裏庭を眺めると、そこはまだ薄い朝靄が残っていた。少しずつ緑を増してきている木々からは朝露がぽつり、またひとつぽつりと庭の芝生に落ちる。
長い夜が明け、今日が始まろうとしている。

でも、きみはまだ目覚めない。

耳をすますとエアコンのかすかな音だけが聞こえてくる。
そして、向かいの部屋だろう、早朝の散歩に出ていく老夫婦のまわりを気遣うような話し声が聞こえる。会話の内容までは聞き取れない静かな声、老夫婦の声であることだけはなんとなく感じる。そう、昨夜遅くに廊下で視線が合い軽く会釈をした老夫婦だろう。あのとき彼らはぼくらの真向かいのドアへ消えて行った。

部屋の生活音、廊下の会話は耳に届くのに、この窓側からは、きみの寝息は聞こえない。

「明日の朝、散歩に行こうよ」
昨夜、きみは眠りに落ちながら、ゆっくりぼくにそう言った。
「今日は疲れたんだね、いいよ、先にゆっくりおやすみ」
すでに半分眠りに落ちているきみの耳元でささやいてみる。
「きみが目を覚ました時間で考えよう、ね」
「うん、でも」
「でも、なに」
「うん、ちゃんと起こしてね」
ぼくは眠りに落ちていくそんなきみの髪に軽く触れてみた。きみの存在を感じさせないほど柔らかい髪だった。

小鳥のさえずり、エアコンの音、そして老夫婦の声が次第に遠ざかる。ふたりは朝露の残るホテル裏の散歩路に足を運ぶんだろう。仲良く手をつないでゆっくり歩く老夫婦の姿が想像できた。

もう一度、きみの寝顔に顔を寄せてみる。
色白のきみの寝顔の口もとに、ほんの少しだけ微笑みが見て取れる。こんなのをやさしい寝顔とでもいうのだろう、きみの寝顔を見ているとぼくの方まで幸せな気分に包まれる。何も心配こともなく、裏山をかけまわっていた幼少時代、きみの寝顔はあの頃のぼくを思い出させる。

ぼくはきみの髪に手を伸ばし、そのまま頬に触れてみる。少しひんやりとしている。
きみの寝息を聞こうと耳をそばだててみる。

でも、ぼくの耳には、エアコンの音しか聞こえてこない。
きみのやさしい笑顔はそのままに、きみの寝息はぼくにはもう聞こえない。
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by hello_ken1 | 2005-09-18 05:40 | EndlessGoodTime

卸したての赤い靴




red sneaker, originally uploaded by james m.

そろそろサクランボの印をつけた週末がやってくる。
夏前のきみからの提案、秋の軽井沢、にうなずいてから、あっと言う間にこの週末を向える気がする。

でも、きみはまだ体調が完全ではないらしく、昨日も病院に寄ってから会社へ行ったという。
「どう、調子は?」
「大丈夫だよ。あなたはちょっと大袈裟なのよ」と、きみはそっぽを向く。

−そうなのかも、いや、きっとそうだね、でもね。
あの日、バスのガラス窓にとまった蝶を見つめるきみの視線、病院の廊下で蝉時雨に包まれた
きみの不安げな顔、その記憶がぼくを多少不安にさせる。

そして、ふときみの足元に目を落とすと、テーブルの下の真新しいスニーカーが目についた。
赤のコンバース、ローカット。きみは軽く足首をクロスさせている。
「黒い靴ひもなんだ」
ただ靴ひもは自分で差し換えたようだ。
きみは嬉しそうに目を細めると、
「うん、ゴールドのラメ入り」
−少し遅めの夏休みに向けて、きみは靴を新調したんだね。
きっと買ってきた日の夜は、鼻歌混じりで靴ひもを差し換え、部屋中を軽やかな足取りで歩いて
みたことだろう。キュッキュッ、フローリングに響くそんな靴音。きみの姿が目に浮かぶ。

−だったら当日か、向こうに着いてから履けばいいのに。
そうぼくが口にする前に、きみの唇が動いた。
「まったくの卸したてって何か気恥ずかしいじゃない。いかにも楽しみにしていましたって感じ」
−だって事実そうなんだから。と言おうとするぼくの返答を待たずに、きみは言葉を続ける。
「これ食べ終わったらさ、夜風に当たりながら少し散歩しない?」

このお店からだと東京タワーを眺めながら、そのままタワーの足元まで散歩ができる。
真新しいスニーカーと今月からライティングが秋用になっている東京タワー、いい組み合わせかもね。
フォークを右手に持ったまま、まっすぐぼくを見つめるきみに、ぼくは大きく頷いた。
「うん、散歩しよ」
「うん」
きみはうれしそうに、残りのパスタにフォークをからめた。
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by hello_ken1 | 2005-09-10 00:30 | EndlessGoodTime

お粥




Qué guapo mi niño, originally uploaded by fluzo.

「好きな音楽は」と今更ながらにきみが聞いてくる。
「知ってるよね」とぼくは答える。

きみは横になったまま、くすりと笑う。目を細め、ちっちゃなえくぼを作る。

−きみはね、ちょっとだけ笑うとえくぼができるんだよ、それも片えくぼがね。
知り合って間もない頃、きみにそんなことを伝えたのを思い出した。

「お粥つくろうか」

夏バテだろう、きみが倒れた。会社に行く途中の電車の中で急にめまいがしたと言う。

「ねえ、あなたのiPodから好きな曲をかけてよ」

きみがまた片方の頬にえくぼをつくる。

ぼくは窓側に置いてあるポータブルなスピーカーにiPodをつないだ。

きみもお気に入りだと言っていた14KaratSoulの甘いアカペラをかける。
すると、秋風がそよりと白いカーテンを揺らした。

−具は梅干しと昆布かな。

えくぼをつくったまま寝息をたて始めてたきみ。
ぼくはえくぼのきみをそのままに、キッチンへと静かに足を運んだ。
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by hello_ken1 | 2005-09-03 09:29 | EndlessGoodTime