今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31


<   2006年 05月 ( 11 )   > この月の画像一覧

そのひとの娘のいちまいのポートレート


, originally uploaded by jallive.

「きみの寂しい気持ちはぼくがみつけて、つつんであげるよ」
 そのひとの娘は下を向いていた。
「だから楽しいときにはぼくに教えておくれ」
 うつむいたまま、顔を横に振っている。
「歯の浮くような台詞だよね」
 そのひとの娘の表情はきれいな黒髪に隠れて見えない。
 ほんとはぼくのほうが寂しがりなんだろうな、だから今、ぼくはカメラを持ってるんだ、そう思いながら、そのひとの娘に声をかける。
「でも、いいじゃん」
 歯の浮くような台詞で、そのひとの娘が笑ってくれるのを期待しているぼくがいる。なにがいいんだろう、ぼくにもよくわからない。
 日曜日の昼下がり、そのひとの娘のポートレートを撮っていると、彼女は突然うつむいてしまった。
「わたしの写真、どうするのかな」
 そのひとの娘は一生懸命の笑顔をぼくに向けた。
[PR]
by hello_ken1 | 2006-05-30 00:54 | そのひと

黄緑色の手の女の子 #10


Merrygoround, originally uploaded by Karl O'Brien.

 ぼくは完全に、この女の子との出会いを思い出した。
 でも忘れていたわけではない。昨日までぼくが持っていた思い出の記憶と違う、記憶がどこがで違っている。
 観覧車から戻ると、タバコを吸っている父親といつも笑顔の母親が、ぼくを暖かく迎えてくれた。観覧車の中から自分と同じ歳くらいの女の子は見えたが、単に目に留まっただけで、観覧車から降りると、もう気持ちは大好きなメリーゴーランドに移っていた。そしてぼくは両親にメリーゴーランドをせがみ、閉園間近の遊園地のメリーゴーランドに一人で乗せてもらい、素直にはしゃいでいた。
 今考えると確かに記憶がおかしいのかも知れない。遊園地の閉園間近に観覧車を降り、係の人に無理を言って、メリーゴーランドに乗せてもらう。毎回決まっていた。何処の遊園地に行こうと幼いながらに決めていた行動。
ー確かにこの記憶は何処かが違う。
 そう感じながらも、もうひとつの疑問がぼくの脳裏をかすめた。
ーこの女の子があの時の女の子とは限らないじゃないか。
 目の前に立っている女の子の目に、また涙がたまり始めていた。
「まだ自分の記憶を疑うの。わたしにはあなたが思っていることは聞こえるのよ」
 女の子はそう言うと目に涙をためたまま、部屋の奥の小さな椅子にちょこんと座った。

「お店のおばあちゃんはもういなくなっちゃったわ。あなたにとっても会いたがってた。あなたに会いたくって、あなたとわたしをもう一度会わせたくって。何回もあなたの日をつくろうとしたのよ」
 女の子は小さな椅子の上で、膝を抱えて話しだした。
「そうかも知れないね、でもさっきも聞いたんだけどさ、ぼくの日ってなんなの」
「あなたの日はあなたの日よ。でもわたしの日でもあるの。あなたは何となく電車から降りたと思ってるかも知れないけど、約束を果たしに来たのよ」

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2006-05-29 00:32 | 黄緑色の手の女の子

きみのもしもし #4

 今日はきみのもしもしが聞けないみたい。
 ぼくの携帯電話は充電をすませ、ここにあるし、アンテナも三本しっかり立っている。
 でもきみのもしもしを今夜は聞くことはなさそう。
 ぼくは無防備な寝顔で寝息をたてているきみの耳元に顔を寄せた。
「もしもし」
 舌っ足らずのきみの口調を真似てみる。
 そして、二度めのぼくのもしもしで、隣で寝ているきみの口元に微笑みが浮かんだ。
[PR]
by hello_ken1 | 2006-05-28 22:28 | きみのもしもし

そのひとの娘の体温がふれる


Red Rain, originally uploaded by Hans-miwian.

 雨の中、そのひとの娘と肩を並べて歩いていた。
 雨はときおり強く降り、そのひとの娘の右肩を濡らそうとする。
「わたしは大丈夫、濡れてないから」
 ふたりで入るには少し小さいその傘を、そのひとの娘はそっとぼくの方に傾ける。
「ぼくも大丈夫だよ」
「左肩、濡れてるのわかってるんだから」
 そのひとの娘はくちびるをつきだし、ぼくの言葉を否定する。
「それにわたしの右肩にあるあなたの右手も」
「ぼくの右手は濡れてないよ」
 ぼくは言葉を続ける。
「ぼくの右手が濡れないようにすれば、きみは濡れないはずだから」
 そのひとの娘は立ち止まり、少し考える仕草を見せた。
「じゃ、こうすればいいのね」
 そしてそこから駅までの道、そのひとの娘はぼくの体にしっかりと身を寄せ、そのひとの娘のやわらかい胸がぼくの体をほんの少し熱くした。
[PR]
by hello_ken1 | 2006-05-21 22:58 | そのひと

黄緑色の手の女の子 #9


two girls. cousins. friends., originally uploaded by kittynn.

 その時、観覧車はゆっくりと、ぼくをいちばん高い位置から徐々に地上へと近づけていた。地上では、ぼくの両親が手を振って、ぼくを迎えようとしていた。観覧車に乗るときも、メリーゴーランドに乗るときも、両親が一緒に乗ることはなかった。必ず手を振って、笑顔で迎えてくれた。ぼくとしても気が楽だった。好きなように遠くを眺められ、好きなようにはしゃげた。
「すごいよ、すごいよ。左の街の方には、大きな河が流れてるんだ。すっごく優しそうな河なんだよ」
 ぼくは観覧車から降りて来るなり、母親に向かって言った。
 母親は優しい笑みをあふれんばかりにぼくにそそぎ、父親はぼくを空高く持ち上げてくれた。
「河の表情がわかったのか。偉いなぁ」
 ぼくは父親に誉められた気がして嬉しかった。しかし父親はぼくを地上に降ろしながら言葉を続けた。
「でも次に来たときには、もっと男っぽいものに乗ろうな」
 そう言い終わると、父親はタバコを買いに売店の方へ歩いて行った。
 ぼくは寂しかった。大きな河は本当に素晴らしかったのに。でも母親も、父親に同意していた。その証拠に、優しかった笑みが、ぼくを哀れむような表情に変わっていた。
 ぼくは大きな河をもう一度見たくなった。大きな河を見ることで、自分を慰めてあげたかった。単に寂しかったのかも知れない。
 ぼくは母親の手を振りほどき、走りだした。
 息がきれるほどかけて行ったところに、女の子がうずくまって泣いていた。
 そしてぼくの後ろの方では観覧車が明りを落とし、明日の朝までの休息に入ろうとしていた。

「そう、結局わたしは観覧車には乗れなかった」
 黄緑色の手の女の子の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ぼくが降りたときが、最後だったんだ。閉園時間だったからね」
 女の子は涙を両手の中指で拭き取ると、微笑みをぼくに返してきた。
「二人とも両親には会いたくなくって、」
 女の子の言葉に、ぼくが言葉を続けた。
「公園の中をちっちゃいふたりが手をつないで泣きながら歩いたんだ」

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2006-05-21 02:25 | 黄緑色の手の女の子

黄緑色の手の女の子 #8


「ねぇ、おかあさん、わたし、観覧車に乗りたい」
 女の子は、自分の左手をつかんでいる母親に向かってそう言った。
「展望台に行くと、すっごくすてきなものが見えるよ」
 女の子の右手をつかんでいる父親がそう答え、母親は頷きながら微笑んでいた。
 観覧車に未練が残りつつも、父親にそう言われ、母親に微笑まれると、女の子も少しばかり展望台に期待をもった。
 そこから十分、観覧車からだと二十分の距離のところに展望台の頂上はあった。
 父親は言った。
「右手の向こうの方に見えるのが、お父さんの育った街だ。どうだ、緑が生い茂っていて綺麗だろう」
 父親はひどく自慢げだった。
「そして、左手の方に見えるのが、お母さんの故郷だ。大きな河が町中を豊かにしている」
 父親は母親と顔を見合わせながら、頷きあっていた。
 女の子は確かに綺麗な街並みだと思ったが、それ以上の感情は抱けなかった。今、この女の子の好奇心の対象となっているのは、やはり観覧車だった。女の子はどうしても観覧車に乗りたかった。その気持ちを伝えようと母親の顔を見上げたが、母親もまた、父親と同様に自分らの故郷の光景に浸っていた。
「おかあさん、、、」
 女の子がもう一度自分の気持ちを母親に伝えようとしたとき、遊園地の閉園のアナウンスが無情にも園内にこだました。
「本日のご来園ありがとうございました。そろそろ閉園の時間と、、、」
 そのアナウンスを耳にすると、女の子はいても立ってもいられなくなり右手の父親と左手の母親を振り解き、展望台の元来た道の先にある、展覧車に向かって走りだした。
ー観覧車に乗るんだぁ。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2006-05-14 04:03 | 黄緑色の手の女の子

そのひとの肩にとまったladybird

ladybug / ladybird

「あっ、てんとうむし」
 そのひとの娘はそのひとの肩にとまったてんとうむしをみつけた。何かが飛んできたとは思っていたが、それがまさかてんとうむしだとは。そのひとの娘はてんとうむしが飛んでいるところも、ましてや何かにとまる瞬間も見たことがなかった。
「ママ、右肩にてんとうむし」
 そのひとは小さなてんとうむしを確認すると、うれしそうに目を細めた。
「てんとうむしは愛するひとのところにとんでくるのよ」
「誰の言葉?」
「忘れちゃった」
 そのひとはちょこんと舌を出す。そのひとの娘はそんな無邪気な笑顔のそのひとをファインダーに納めた。
「このてんとうむしは誰の遣いかなぁ」
 肩にとまっているてんとうむしをじっと見つめるそのひとの目は、とても優しげだった。
[PR]
by hello_ken1 | 2006-05-14 03:52 | そのひと

黄緑色の手の女の子 #7


The Children, originally uploaded by kittynn.

「本当に今日はあなたの日なの」
 その部屋の奥の小さな椅子に、女の子は黄緑色の両手を膝に乗せ、ちょこんと座って、微笑んでいた。
「結構、驚ろかせてくれるんだね」
 ぼくは精一杯の言葉で、自分をまた落ちつかせようとしていた。
 そんなぼくの気持ちを知ってか知らずか、女の子は椅子から降り、中央の大きな木のテーブルに沿ってぼくの方に歩み寄ってきた。女の子が近づいて来ると、ぼくはほっと暖かいものを感じた。
ーこの部屋の中に感じた暖かいものは、この女の子だったんだ。
 ぼくはそう思った。
ーきっとこの女の子はぼくにとってプラスの存在なんだ。

「テーブルの上にあるわ。あなたのためになつかしいものが揃っているはずよ」
 女の子はそう言うと、壁ぎわに寄って行った。
 ぼくはテーブルに目をやり、それから部屋全体をゆっくりと見回した。テーブルの上の少しばかり明るめの裸電球。右手の壁にはアンティックな食器棚がおいてある。女の子がよっかかっている左手の壁には、公園に沿った真っ直ぐな並木道の絵が掛けられている。向いの奥の壁にはお店の人が休むためのだろうか、小さい椅子が一つおいてある。さっき女の子が座っていたものだ。でも、お店の人はいない。
 ひと通り見渡すと、ぼくは何気もなく女の子の方に視線を移し、こう呟いていた。
「ぼく、ここ、知ってる。見覚えがある、、、お店のおばあちゃんは何処にいるの、、、あれ?何で知ってるんだ、この店を」
 いつの間にか女の子はぼくの前に立っていた。その女の子は大きな瞳に一杯の涙をためて、立っていた。
「まだ、思い出さないの」
 消えいるような声で、女の子はぼくにつぶやいた。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2006-05-07 02:47 | 黄緑色の手の女の子

そのひとの娘とこれからの関係


coffee cup, originally uploaded by watanabekanako.

「ゴールデンウィークは何してるの」
 ぼくの部屋での会話は、そのひとの娘の質問からはじまった。
「身辺整理かな」
「そうだよね。そろそろ準備しないとね」
「おかあさん、元気?」
 先日、携帯から送られてきたそのひとの写真の笑い顔を、ふと思い出した。
 そのひとの娘は大きく頷いて明るく答えてくれた。
「でもつきあってたことも、別れてたことも知らないよ。ママがあなたを紹介したんだから、が今の口癖」
「別れてたんだっけ」
 確信を持った表情で今度も大きく頷いた。和やかな笑顔だ。
「ねぇ久しぶりにベッド、どお?」
 そのひとの娘はその笑顔からさらりとストレートに気持ちを口にする。
「ぼくもそうおもってたところ」
「気持ちがシンクロしてるね」

 ぼくらは飲みかけの珈琲をそっとテーブルに戻し、それは互いのこれからの関係をさぐるかのように、ゆっくりとくちびるを重ねた。
[PR]
by hello_ken1 | 2006-05-06 04:13 | そのひと

陽射し


FatCat 1986 - 2004, originally uploaded by Кevin.

 階段に腰掛けて、暖かい陽射しを浴びいてたあの頃。隣に座っていた子の存在は感じられなかった。泥んこになった顔のまま、暖かな陽射しに包まれて、ほっとしていたぼく。季節はいつだったのだろう。真夏ではなかったとしか思い出せない。

 ポケットのメモを開いてみる。「午後7時、要TEL」
 店の古びた柱時計に目をやる。22時を少しまわっている。携帯電話のアンテナは圏外だ。カウンターの端に置かれた電話からあの子に電話をかけると、約束の時間に遅れたぼくの声は留守番サービスが聞き留めてくれた。

「なぁ、春だったっけ。そんな気もするんだ」
「この前、軽井沢に行ったのは去年の私の誕生日よ。夏。話、聞いてるの?」
 そうか、今、ぼくらは軽井沢に行く日程を決めてるんだ。
「電話で決めるはずだったのに、時間に遅れるから。このところ忙しいのに合間をぬってきたのよ」
 休みをつくっては二人で軽井沢に行く。テニスをするわけでもなく、サイクリングポイントは回り飽きている。ただなんとなく遠出のドライブ。シーズンオフを狙って静かな散歩のために。
 もう、あの子とのつきあいも長くなる。長いつきあいの間で、どちらから言うともなしによく軽井沢には行くようになった。
「あなたが時間に遅れるから今日一日時間をさいたのよ。ぼんやりサンに会いに来たんじゃないの。これでも今日は楽しみにしてきたんだから。久しぶりだもの」
 この通りも往来が激しくなってきた。少し静かすぎたけど、はじめは小粋な喫茶店だと思っていたのに。歩道を歩く人たちの色も騒がしい。緑ももっとあったはずだ。不自然な色が多すぎる。そういえばコーヒーの味も違っている。
「・・・どうしたの・・・行くのもう・・・やめにする・・・?」
 心配顔でぼくをみているあの子が前に座っている。そういえばあのとき隣に座っていた子の名前さえ思い出せない。それとも誰もいなかったのだろうか。
「・・・久しぶりだよ、会うの・・・」
 ぼくの前にきみがいる。
「行こう」
「えっ?」
「軽井沢、今から」

 ポケットから車のキーを出す。いつのまにか陽射しが優しくなっている。暖かく、優しい陽射し。
「もう春だね。今から、本当に、・・・行くの?」
 そうだ、この位の陽射しだった。

 首都高速を走っていると、窓からの陽射しがきみをすっぽりと包んだ。
「ねぇ、小さい頃さ、一緒に陽なたぼっこしなかったっけ」
 きみは不思議そうに首をかしげ、陽射しに包まれた笑顔をぼくに向けた。
[PR]
by hello_ken1 | 2006-05-03 09:31 | another story