今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30


<   2006年 06月 ( 8 )   > この月の画像一覧

黄緑色の手の女の子 #14


Emptiness., originally uploaded by mi :).

「おばあちゃんに染めてもらったこの黄緑色の両手のおかげで、寂しいときに何回となくあなたの声を聞いて救われたわ。確かにいつもあなたの楽しいときの声ばかりじゃなかった。あなたが苦しんでいるときの声も聞くことができたわ。そういう時のあなたの声でもわたしは立ち直ることができたの。あなたにがんばって欲しいと思うことで、わたし自身も救われたのよ」
「でもぼくはあれ以来一度もきみに会っていないし、きみの声も聞いていない」
「そうかもしれない。わたしの勝手な思い込みかも知れない。でも、わたしには聞こえたの。それでわたしは時々、おばあちゃんのこのお店へ足を運んだわ。あなたにまた会えるかも知れないと思って」
 ぼくは無言で聞いていた。
「おばあちゃんはわたしにこう言って聞かせたわ。まだあなたは本当に寂しくはないの。あなたが本当に寂しくなったら、あの男の子は必ずここへやって来るよ。あの子は約束を破るような子じゃないよって」
 女の子は黄緑色の両手にちょっと目をやった。
「幼い頃のあなたはもっと夢を信じてた。わたしもそうだわ。黄緑色の両手を信じてた。どんなにわたしが両手を黄緑色に変えようと、周りの人にはそれが見えなかった。黄緑色の両手がわたしにも本当に色が着いているのか、わからなくなっていったの」
「今のきみの両手は黄緑色だよ」
 でも確かによく見ると、女の子の黄緑色の両手は少しづつその独特な色を失いつつあるようにも見えた。
 女の子はぼくの声を聞き流し、言葉を続けた。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2006-06-24 11:55 | 黄緑色の手の女の子

そのひとからの贈り物


agapanthus, originally uploaded by hello.ken1.

 朝目覚めたときに、もうひとりの自分が楽しそうにささやいた。
—行こうぜ。
 ベッドルームのカーテンの四辺から明るい光がこぼれている。
—もったいないよ、街へ出ようぜ。
—そうだな、試し撮りにもいいかもな。
 ぼくは先日そのひとから譲り受けた年代もののポラロイドカメラに目をやった。

「娘から聞いたよ。早くに教えてくれてもいいじゃないか」
 口で言うほど怒っていないことは容易にわかった。それよりもそのひとは妙な照れ笑いをしている。
「これ持ってってくれないかい。まだ十分に使えるから、わたしが持っているより」
 そう言ってそのひとはトートバックからあるものを取り出した。
「ファインダーから覗くだけでも気持ちが優しくなれる不思議な箱だよ」
 それは年代もののポラロイドカメラだった。
「心にふれるものを撮っておくれ」
 そのひとはそっとぼくにそのポラロイドカメラを差し出した。

 光がもれているカーテンを全開にすると、梅雨の合間を縫った見事な青空が目の前に広がった。
—ほら、呼んでるぜ。
 もうひとりのぼくに言われるまでもなく、確かにその青空は、ぼくとそのひとのポラロイドカメラを呼んでいた。
[PR]
by hello_ken1 | 2006-06-24 11:42 | そのひと

黄緑色の手の女の子 #13


watching traffic, originally uploaded by happymedium.

 ぼくはますます夢を見ているようだった。女の子も不思議そうな顔をしていた。
「この子がぼくの声を聞きたいと思う。この子は黄緑色に変わった自分の両手に向かって話しかける。すると、指輪をしたぼくにこの子の声が聞こえ、どんなに離れていても、声を、心を、交わすことができるんだよ」
「だいじょうぶだよ」
 ぼくはおばあちゃんに元気よく答えた。
「ほんとに寂しいと思ったら、黄緑色の両手なんて必要ないよ」
「どうしてだい」
 おばあちゃんはにこにこしながら、聞いてくれた。
「この子がどうしてもぼくに会いたいって思ったときには、ぼくはおばあちゃんのこのお店にまたやって来るよ。きっとここで会えるから」
 おばあちゃんは女の子とぼくを抱き寄せ、言った。
「そのとおりだね。ぼくの言うとおりかもしれないね。うん、ぼくはその気持ちをいつまでもなくさないようにしておくれ。そして、大人になってその気持ちを忘れる前に、半信半疑でもいいから、また、おばあちゃんを尋ねておいで、いいかい」
 おばあちゃんの身体はとてもやわらかく暖かだった。

 このあと、女の子とぼくはおばあちゃんのお店をあとにした。
 T字路まで向かうと、女の子の両手はすでに元通りの白い両手に戻っていた。
 そしてT字路の先には女の子の両親とぼくの両親が立っていた。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2006-06-18 11:25 | 黄緑色の手の女の子

そのひとの娘の温かい指先


sunshine, originally uploaded by hello.ken1.

 以前から心に決めていたことだった。
 会社に入って5年間はがむしゃらに働いて5年経ったらその先をまじめに考えだす。そして、それから3年後を目処に行動に移す。その行動に移す時期が目の前にきている。
 やっと話し出せたと思ったら、それからは堰を切ったように言葉が次々と口をついた。さっきまでなかなか言い出せなかったのが嘘みたいだった。
 そのひとの娘はそんなぼくの話をきょとんとして聞いていた。
「と言うことで日本を離れようと思う」
 そのひとの娘がゆっくりとまばたきをひとつし、静かにぼくを見つめ直した。
「もしかしたら」
 言葉を続けるそのひとの娘。
「ほんともしかしたら、そんなに好きじゃなかったのは、わたしじゃなくて、あなたの方だったのかも」
 ぼくは以前に言われた、そんなに好きじゃないと言うそのひとの娘の言葉を思い出した。すっかり忘れていた言葉だった。
「そんなことないよ」
 ぼくはカフェのテーブル越しにそのひとの娘の指をさわった。
—そうだね、そんなやりとりもあったね。
 そのひとの娘の指先は微熱があるのかと思うほど温かかった。
[PR]
by hello_ken1 | 2006-06-18 11:23 | そのひと

黄緑色の手の女の子 #12


Handshake, originally uploaded by Bench7.

 どのくらい時間が経ったのだろうか、ぼくは時間を忘れて、おばあちゃんが女の子の両手を爪の先まで黄緑色に染めるのを見ていた。
「だいじょうぶだよ。この部屋を出たら色は消えるから」
 少しばかり不安そうな表情の女の子に、おばあちゃんは不思議なことを口にした。
「もし寂しくなって、誰かの声を聞きたくなったら、こう言うんだよ。いいかい」
 女の子はおばあちゃんの一言一句を聞き逃さないように、おばあちゃんの目をじっと見つめていた。
「両手を合わせて」
 おばあちゃんは女の子の手をとり、言葉を続けた。
「黄緑色になぁれ」
 一瞬きょとんとした女の子に、おばあちゃんは優しい微笑みを向けた。
「そして心の中で一生懸命思うんだよ。誰の声を聞きたいか、その人の顔や行動を思い出しながらね」
 女の子は黄緑色に塗られた自分の両手を、しばらくの間、穴が開くほどしげしげと見ていたかと思うと、急に顔をあげ、にっこり大きくうなずいた。
 おばあちゃんもゆっくり、大きくうなずき返し、女の子の笑顔を確認すると、また、ぼくの方に振り返った。
「男の子の手にはこれは塗ったあげられないのさ」
 ぼくの心を読んでいるかのようなおばあちゃんの言葉に、正直言ってがっかりした。両手が爪の先まで黄緑色に染まるのはちょっと気が引けるけれども、寂しいときに、聞きたい人の声が聞こえるなんて素晴らしいと思った。
「ぼくには、どれか一つお気に入りの小物をあげるから、それで我慢をおし」
 ぼくはさっきと同じように答えた。
「男の子はね、飾りものなんてしないんだよ」
 今度はおばあちゃんが、がっかりしているようだった。
「うちにある飾りものをしているとね、黄緑色に手を染めた女の子の声を聞くことができるんだよ」

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2006-06-11 15:36 | 黄緑色の手の女の子

そのひとの娘とカタツムリ


Hydrangea Vintage, originally uploaded by zizzybaloobah.

 そのひとの娘は、明るいけれどもこれから雨を呼ぶであろう空を見上げた。
ー紫陽花の季節になるんだ。出会って何度目の季節かな。
 季節ごとのいろんな自然の色が、ここから彼の部屋までの歩道にあふれている。紫陽花もそのひとつ、必ず毎年濃い水色の花をつける。それは気持ちが沈みがちになる梅雨の毎日での心の寄りどころ。
ー最近、見ないなぁ。
 彼とつきあいだして始めてのこの季節に、ここでカタツムリを見つけた記憶がある。そのひとの娘は手にとってみようとは思わないが、ただ紫陽花にカタツムリがいない梅雨時期も何か物足りない気がしていた。
ーあっ。
 紫陽花を濡らし始めた雨粒の先に、そのひとの娘は小さなカタツムリを見つけた。
ーいいことあるかな。
 そのひとの娘は携帯のカメラにカタツムリを収めた。
[PR]
by hello_ken1 | 2006-06-11 01:22 | そのひと

黄緑色の手の女の子 #11

  with this hand, originally uploaded by ~Carolina~
e0007767_1242479.jpg

「まぁ、ちっちゃなお客さんだねぇ」
 女の子とぼくは涙も拭かないで、両親には見つかりたくないと言う気持ちだけで、頑丈そうなドアを押し開けた。
 そのドアは、遊園地に沿った並木道の先にあるT字路の交差点の右手にあった。遊園地から出てしまえば見つからないだろう。でも遊園地から、両親から、はなれるのは心細かった。だから近くの何処かにちょっとの間だけ隠れるつもりだった。
「おやおや、ふたりして泣いていたのかい」
 お店のおばあちゃんは言葉を続けた。
「ちがうもん」
 ぼくは言った。
 おばあちゃんは、そんなぼくを見て、微笑んでいた。
 ぼくらは珍しい飾りものが沢山おいてあるその部屋で、おばあちゃんといろいろな話をした。
 女の子がおばあちゃんとの会話に夢中になると、ぼくは部屋中を見て回った。
「ぼく、お気に入りがあったら、持ってきてごらん。おばあちゃんがつけてあげるからね」
 おばあちゃんは、女の子からぼくの方に顔を向け直し、静かにやさしい笑顔でそう言った。
「うぅん」
 ぼくは首を横に振った。
「どうしてだい」
「男の子は飾りものをしちゃいけないんだよ。飾りものは女の子のするものさ」
「そういうものなのかい。男の子もおしゃれしてもいいと思うよ、おばあちゃんは」
「でも、やっぱり、いい」
 おばあちゃんがつけてくれても、飾りものをして帰ったときの両親の反応が、幼いぼくの首を横に振らせた。
「その子にしてあげれば。女の子に似合いそうなのがあるよ」
 おばあちゃんがにこにこして答えた。
「この子に似合いそうって分かるんだね。きっとお似合いなんだ、ぼくとこの子は。でもね、この子にはおまじないをしてあげることにしたんだよ」
 そう言うと、おばあちゃんは引出しの中から年季の入った筆と黄緑色のインク壷を取り出した。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2006-06-04 11:57 | 黄緑色の手の女の子

そのひとの娘の笑顔の写真


julieta003, originally uploaded by fer.cipriani.

 今更だけど、言いあぐねていた。
—来月の中旬には発とうと思ってるんだ。
 でも、伝えたいことは、本当に伝えたいことはなんだろう。
—月並みだけどさ。
 何が月並みなんだろう。
—今までありがとう。
—うん、楽しかった。
—さみしくなるよ。
 ほんと月並みすぎる言葉ばかりが浮かんでは消える。
「写真」
 そのひとの娘がポツリと口にする。
「ちゃんと撮れてた?」
「うん、キレイに撮れてた」
「かわいく撮れてた?」
「もちろん」
「セクシー?」
「今までで一番」
 そのひとの娘はふきだした。
「ちゃんとキレイにかわいくてセクシー、すごいね」
 うれしそうに笑うそのひとの娘の表情は、まさに写真のそれだった。
 少し気持ちのほぐれたぼくは、その写真をはさんでいた手帳をカバンから取り出した。
[PR]
by hello_ken1 | 2006-06-03 13:07 | そのひと