今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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黄緑色の手の女の子 #19 ( the last )


Penny Lane 2, originally uploaded by ohnothimagen.

「やっぱり、このお酒、苦い」
 ぼくはそんなきみを見て、つい微笑んでしまう。やっぱり、きみの行動はときどき読めないや。
 きみは微笑んでいるぼくに向かって、言った。
「ねぇ、もう、指輪はずしていいよ。わたしは寂しくなんかならないから。今のあなたの気持ちが変わらない限り、あの女の子の両手、そう、わたしの両手は、黄緑色なんかにはなりはしないから」

「もう少し、指輪、しておくよ」
「わたしはここにいるのよ。あなたも側にいてくれる。わたしはもう寂しくないわ」
「でも、この指輪、実は結構気に入ってるんだ」
 きみはぼくの腕に、うっすらと笑いながら、すがってきた。
「ほんとは、わたし、男の人が指輪するの嫌いなの。だから、はずして。ねっ」
 ほんとうにきみは、あのときの女の子なんだろうか。ぼくの心がざわめいた。指輪も少し反応した気がした。
「おねがい」
「じゃぁ、こうしよう、きみがタバコをやめたら、はずしてもいいよ」
 店を出た後、きみとぼくは、こんな会話をしながら、長い並木道を駅の方に向かって歩いた。
 並木道沿いにある公園では、かつてメリーゴーランドがあった所に造られた噴水が虹色に映し出されていた。そのすこし奥には、遊園地時代から唯一残っている観覧車があるはずだ。
「今度、観覧車乗りにこようか」
「うん、いいよ。でもどこにあるのかなぁ」
 きみは不思議そうに、でも、にっこり大きく頷いた。
 そして、並木道の先には、だんだんと駅の明りが見えてきた。

                                                       完
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by hello_ken1 | 2006-07-29 13:16 | 黄緑色の手の女の子

そのひとの娘と空港で


ーいつでもどこでもってわけにはいかないけどさ。だけど、きみのことをまず思うんだろうな。

 成田発ではない。羽田から関空経由の飛行機がぼくの乗る便だった。
 見送りはいらないから、と伝えていた。
 そう伝えていたけれど、それ自体も言う事はなかったのかも知れない。
 それを便名まで伝えた時点で、ぼくは彼女たちにもう一度会いたいと言ったことになる。

「何便なの?」
「関空を深夜だよ」
「だから便名は?」

 見送りには行かないと言っていたそのひとの娘が、ぼくよりも先に羽田空港に来ていた。

「わたしたちはもう別れているんだからね」
「そうなんだ」
「そうだよ。あのときからずっとね。だから飛行機が飛び立った後はますますふたりとも自由なんだから」

 あのときって、唐突に今日の日の話をしたときのことなんだろうな、と思った。
 優しい気遣い、かなり甘酸っぱい、それがそのひとの娘が一晩考えた台詞。

「でも、約束だけは守るんだよ。そのくらいは守ってよ」
「落ち着いたら、連絡するって約束、だね」
「うん、ありがとう、覚えてるんだ」

 羽田でのフライトまでにはまだ時間があったけど、そのひとの娘にはそんな時間なんて関係なかったんだと思う。
 フライト時間ぎりぎりまで一緒にいれるほど気丈じゃないのよ、わたしは。そのひとの娘の目がそう物語っていた。

「飛行機の中で読んでよ。わたしとママのふたりの思いがそれぞれ書かれてるから」
「着いてからじゃないんだね」
「着くまで我慢できないでしょ」

 そのひとの娘は軽くぼくの唇にキスをし、封筒をぼくのジャケットのポケットに無造作に突っ込んだ。

「これ以上のキスは、そのさきまで行きたくなるから」

 行き場のない言葉を口にするそのひとの娘の少しよれた笑顔が、ぼくの胸を余計に締めつけた。

「いつでもどこでもってわけには、」

 ぼくの続きの思いは、さっき以上のキスではげしく被われた。
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by hello_ken1 | 2006-07-29 13:00 | そのひと

黄緑色の手の女の子 #18


Cheers!, originally uploaded by asmundur.

「でも、話は通じない。そこでその女の子は思うのよ。自分は本当に寂しいんじゃないんだと。甘えているのかも知れないって。それで、女の子は、そのうち大人になって、もうあなたに頼らなくなるの」
「どうしたんだい、きみは。ぼくに指輪をはずせって言いたいの」
 きみはウエイターが運んできたぼくのおかわりを受け取って、ぼくの前に置いた。
「夢の世界の女の子に、きみは嫉妬しているのかい」
 ぼくの言葉は多少なりともきつくなっていた。きみは急に寂しそうな目をし、ぼくを見つめる。
「わたしのこと、好き?」
 その目があまりに寂しそうなので、ぼくは驚いた。
「好きだけど、どうしたの急に。指輪をはずすようにほのめかしたり、そうかと思うと、そんな目をする」
「わたしの考えていること、わかる?」
「ときどき判るような気がする」
「それだけ?」
 それだけと問いただされても、困る。本当にときどきならよく判るのが、正直なところだから。
「いつもわたしのことを考えて。ねぇ、もっともっとよく判り合いたいと思ってる?」
 それは確かに思っている。もっともっと相手のことが互いによく判り合えれば、どんなに素晴らしいだろうと。
「思ってるよ。安心していいよ。きみに寂しい思いはさせないつもりだ」
 突然、きみはぼくのグラスを自分の口に運んだ。

(続く)
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by hello_ken1 | 2006-07-23 15:19 | 黄緑色の手の女の子

そのひとと離れるぼくのうたた寝


booth, originally uploaded by hello.ken1.

「おまえは何をしに行くんだ」
「なにかを成し遂げるためじゃないよ」
「何も海外に行くことはないだろう。スローライフであれば田舎や島ででもできる、沖縄でもいいんじゃないのか」
「スローライフがしたいわけじゃないしさ」
「じゃあ、今の生活に何か不満があるのか」
 ぼくは首を横に振る。
「一度っきりの人生なのに、いつも現状に立ち止まっている自分がいる、そう感じてもう長い。何もしなかったことに後悔しそうな気がしてきてさ」
「それは一時の行き詰まりから来ている現状逃避じゃないのか」
「あぁ否定はしないさ、でも、ここが自分の居場所じゃないって、ますますそう思うようになってきたんだ」
「それで見つかるのか、ここを後にしてその居場所ってやつが」
「わからない。ただここにいても見つからないと思う」
「根無し草になるぞ。それよりもここにいると、ここがその居場所に変わったりはしないのか」
「そうだね、そういうこともあるだろうね。でも、何をもって居場所と言えるのかも今のぼくにはわからないんだ」
「はっはっはっ、わからないことだらけだな。それで旅立ってもいいことはないだろうに」
「そうかも知れないけど、そうじゃないかも知れないよ。ただ、以前見た海岸線が、そこでのひとの笑顔がぼくの心から離れなくなってきているんだ。それが確かに増殖してるんだよね」
 いなくなって十年以上経っている親父が笑っている。目覚めると生前よく耳にした親父の笑い声が耳の奥に残っていた。
ーはっはっはっ、所詮何を言ってもお前の人生だ。
 都合のいい夢の終わり方をしたものだ。うたた寝をしていたソファから身を起こすと、ぼくは荷造りの続きをはじめた。
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by hello_ken1 | 2006-07-23 15:17 | そのひと

黄緑色の手の女の子 #17


me, originally uploaded by strochka.

 きみは、次のタバコに火を着け、気持ち良さそうに一口吸うと、言葉を続けた。
「その女の子とは、その後どうしたの」
「お店を出たら、もういなくなっていたよ」
 ぼくは氷だけになったグラスを、掌でころがしながら答えた。
「その女の子が言ったとおり、指輪はぼくの左の人差指にぴったりだったよ。そして、その子がぼくに指輪をはめたその瞬間、その子の黄緑色の両手はみるみるうちに、元の白い手に戻っていったんだ」
「その子はもう寂しくなくなったのね」
 きみはそう言って、お店のウエイターに向かってゼスチャーで、ぼくの分のおかわりを頼んだ。
「そう、もう、その子にとってぼくは必要なくなったのかも知れない。お店を出て振り向いたら、その子も、入口の大きな木のドアも、なくなっていたんだ」
 きみはタバコを灰皿に戻した。そして、ぼくの指輪を見つめていた。
「あなたが指輪をためらわずにしたから、本当に寂しいときには、必ず声が聞け、話ができると思って、安心したんじゃないの」
「ぼくもそう思うよ」
 確かにぼくもそう思った。
「でも、もう、はずしちゃってもいいのよね」
「どうして」
「はずしても、その子には、あなたがはずしていることなんかわからないじゃない」
「でも、寂しくなったら、話しかけて来るだろう」
 無神経なきみの言葉に、ぼくはいささかむっとした。

(続く)
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by hello_ken1 | 2006-07-15 10:56 | 黄緑色の手の女の子

そのひとの願掛け


Oceans away, originally uploaded by The Department.

 そのひとはひとりジグソーパズルをしていた。
 昨夜からリビングのウッドフロアはばらまかれたピースでいっぱいだった。はじめは山積みになっていたピースも時間が経つにつれすそ野を広げ、今はただ平たくちらかっている。パズルは完成とは程遠く、ただちらかっていると言う表現が的を射ていた。

「寝てないの?」
「気になるピースが見つからないんだよ」
 どう見ても完成するとは思えないジグソーパズルのそれらのピースがそのひとの前に静かに広がっていた。気になるピースが見つかると一気に完成につきすすむんだよ、そういうもんなんだよ、とそのひとは娘に答えた。
「じゃ、見送り行ってくるね」

 昨夜二人で話して、今日の見送りはそのひとの娘だけと決めていた。
「見送りいらないんだって」
「行ってあげな。ふたりともその方が踏ん切りがつくこともあるんだよ。行った方がいいよ」
 そのひとはよく冷えた白ワインを娘のグラスに注ぎ足しながら、優しく微笑んだ。
「あの子の行くところの風景に似てるかなと思って、会社帰りに買ってきたんだ」
 そう言ってそのひとの娘に見せた箱は3000ピースのジグソーパズルだった。
「無事に着いて、希望がかなうといいな」
「そうなんだよね。だからある意味、願掛けパズル。何十年ぶりだろうね、パズルなんて」
 そのひとは水滴がつき始めてたグラスを口にすると、パズルの箱を軽く振ってみせた。

 リビングから出て行こうとするそのひとの娘にそのひとが声をかけた。
「そうそう、これ手渡しといてくれないかい」
「ママもなの?」
 そのひととそのひとの娘は頷きあった。
 そのひとの娘は渡された封筒を自分の封筒と重ねバッグに仕舞うと、ひとつのピースを探し続けるそのひとを心から愛おしいと思った。
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by hello_ken1 | 2006-07-15 10:41 | そのひと

そのひとの娘とエスカレータで手をつなぐ


escalator, originally uploaded by hello.ken1.

ーエスカレータに乗る際は、小さいお子様の手を取って、、、
 デパートの館内放送が告げている。
「ねっ、手、つなご」
 下りのエスカレータでぼくの後ろに立っているそのひとの娘が、耳元で囁いた。
「誰が小さいお子様なんだかね」
 振り向いて、そのひとの娘の顔を見上げるぼくの右肩に、そのひとの娘は手をかけてきた。
「ねっ、つなご」

 久しぶりのデパートデート、ジャストルッキング、実際に物は買わないけれど、いろんなショップを見て歩く。
「これも必要よ」
「なくてもどうにかなるだろ」
「じゃあ、これは」
「うーん、悩ましいな」
 海外旅行に物を持って行ったことがない。必要なものは現地で調達する、それを基本としていた。郷に入れば郷に従え、古の人はいい言葉を残している。現地には現地に合ったものがそろっている。
「携帯はどうするの。あっちでも今のが使えるの」
「いや、使えるかも知れないけど、いったん解約するよ。休止にもしない」
 そのひとの娘はぽつりと言った。
「つながりを絶つんだ」
ー携帯はね、つながっているようでつながってないんだよ。
ーでも、つながってなさそうでつながっていると感じてさせてくれる意味のあるものかも。
「落ち着いたら連絡するからさ」

 少し言葉数が少なくなったそのひとの娘が言っている、手を差し出して言っている。
「エスカレータでは、小さいお子様の手をつなぐんだよ」
 ぼくがつないだそのひとの娘の手は、ぼくが思っていた以上に温かかった。
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by hello_ken1 | 2006-07-08 13:28 | そのひと

黄緑色の手の女の子 #16

 ぼくは中央の大きな木のテーブルに目をやった。確かにおばあちゃんは昔と同じ物を揃えておいたようだ。記憶の戻ったぼくには、一目見ただけでなつかしいものばかりだった。小物はどれもこれもすぐに、そしていつでも身につけられそうな物ばかりだった。
ー小物っていうよりは、ちょっとした装飾品だよな。
 ぼくは思った、そして、気がついた。ぼくが飾り物を身につけたいと強く思うようになったのは、きっと、ここでの出来事を忘れたくないという心の抵抗だったんだ、と。抵抗もやがて、大人の現実主義に踏みつぶされ、抵抗するよりはいっそ何もなかったことにしておいたほうがいい。そして飾り物をしたいという気持ちさえおこらなくなったんだ。
 ぼくはテーブルの上の飾り物を見ながら、つまらない大人になっている自分に歯がゆさを覚えた。歯がゆい自分を感じながら、しばらくの間、じっとテーブルを見つめていた。
「ねぇ、これにしたら」
 女の子はいつの間にかぼくの側に立っていた。そしてテーブルの上からひょいと一つの指輪を取り上げ、ぼくの右手の上に乗せた。その指輪はシルバーで、左手の形をしていた。
「ちょっとしてみてよ」
 女の子は妙にうきうきしている。
「いいけど、はいるかなぁ」
「だいじょうぶよ」
「なんか気味悪くないかな」
「そんなことない。左手の人差指にしてみて。きっとそこにぴったり合うわ」
 ぼくは女の子の確信的な言い方に疑問をもった。
「どうしてって、思ってるんでしょう。でもきっと合うわ」
「合わなかったら?」
「ほかのを捜したげる。けど、きっと合うわ。だから、それにしよっ」
 女の子の顔がとても活き活きとしていた。
 ぼくは女の子の笑顔につられて微笑みながら、その子に指輪をいれてもらった。

(続く)
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by hello_ken1 | 2006-07-08 11:35 | 黄緑色の手の女の子

黄緑色の手の女の子 #15


One Ring, originally uploaded by drp.

「黄緑色に変わらなくなったら、夢を信じられなくなったら、もうあなたには会えないって。わたしはとっても強く感じたの」
「いつでも会えると言う気持ちから、もう会えないかも知れないって気持ちになったんだね」
「あなたが駅を降りても、ここまで並木道を歩いてきても、何も思い出せなかったのは、あなた自身が夢の世界を忘れているからなのよ。でも、もうそういう歳だものね。責めたりはしないわ」
 女の子は寂しそうに笑った。そしてひとつぶの、でも大きな涙をこぼした。
「ぼくはいま、ここにいるよ」
「会えてよかった。ほんとよかった。もう黄緑色に両手が変わらなくても大丈夫よ」
 夢を信じることを忘れていたぼくは、今までの人生を無駄にすごしてきたような気がした。夢を信じていれば、少なくともこの女の子を泣かせることはせずにすんだはずだ。
「ところでおばあちゃんはどうしたんだい」
 ぼくは自分のむなしさを、おばあちゃんの事を聞くことで和らげようとした。
「あなたが当時を思いだし、おばあちゃん、わたし、このお店を思い出せば、自分はわたしたちには必要ないって。このお店に当時と同じ飾りものを列べておくから、あなたが気に入ったものをひとつ持って行きなさいって。どんなに大人になっても当時の事を忘れないようにって。今度は必ず持って行きなさいって」
 ぼくは当時かたくなにおばあちゃんの勧めを断わって、飾りものをもらって帰らなかったのを後悔した。素直に何か手にしていれば、この女の子を寂しがらせることも、自分が寂しがることも、なかったのかも知れない。

(続く)
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by hello_ken1 | 2006-07-01 23:24 | 黄緑色の手の女の子

そのひととそのひとの娘と雨上がりの夜空

e0007767_18545748.jpg

 そのひとの娘のいない生活を考えた事がなかった。
 気づけば、そばにいてくれた。そばで笑顔を向けてくれた。ふたりでいつもキスをしていたように思う。

 そんなに好きでもなかったのにつきあいを続けていたのは、ぼくの方、それともそのひとの娘の方。結局、ふたりとも相手の重荷になるのがいやで、そんな言葉を使ったけれど、あれだけいつもキスをしてたんだ、ふたりとも相手が必要だったはず。

 そのひとのいない日常を想像したことがなかった。
 振り向くと元気で笑っていた。そして、なんにも心配ないんだよ、いつもそんな表情でいてくれた。

 いつしか魅かれていたそのひと。そのひとの言葉を聞いていると温かいものを感じていた。それはそのひとの愛情、危うく写っていたぼくを一歩引いて見守るような愛情。

 そんなふたりに、そんなふたりと。

 日本を離れるだけなのに、会いたくなったらメールを送ればいい、電話をすればいい、会いに戻ればいい、そんな簡単なことなのに。

 雨上がりの夜空は、座ることのできないベンチは、姿の見えない猫の鳴き声は、ベランダでいつしか物思いにふけるぼくを少しだけ弱気にさせる。

 ぼくは氷を浮かせたジンをテーブルに置き、そして、ひとつ大きな深呼吸をした。
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by hello_ken1 | 2006-07-01 19:00 | そのひと