今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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<   2006年 08月 ( 5 )   > この月の画像一覧

プロミス #3


Immortality, originally uploaded by *Dario*.

 あーくんが土手に座って河原の方を見ていた。
 おれが何を話しかけてもまったく返事をしてくれなかった。そんなことは今日がはじめてでなく、たまにそんなあーくんを見ることがある。そんなときの場所はどこか決まってはいなく、いつも違う場所で。きっと場所には関係しないんだろう、あーくんはその場その場の風景を通して、まったく別の世界を見ているようだった。
「あーくん、そろそろ帰ろうよ」
 しびれを切らしたおれはいつもの台詞を口にした。いつもだったらあーくんはこの言葉が魔法を解く呪文のように反応し、おれに頷き返す。でも、今日のあーくんはいつもと違っていた。心配になったおれは正面からあーくんをのぞき込んだ。
「ねぇ」
 少しだけ微笑んだあーくんはゆっくりと奇妙なことを口にし始めた。
「いつかきっとぼくはゆうちゃんに何かを頼むことになるんだ」
「なんのこと」
「いろんな風景の向こう側に、たまにね、なにかをやんなきゃいけないぼくがいるんだ」
 あーくんはまた視線を河原に向けた。
「でも、結局なんにもできなくて、でも、そばにゆうちゃんがいて」
 おれはだまって聞いていた。
「たまにそんなんが見えたりするんだ」
 あーくんは立ち上がった。おれも立ち上がり、あーくんの手をつないだ。
「帰ろ。それってさ、ずっとおれら友だちだってことじゃん」
 その頃は、そばにいることが友だちだとは限らないなんて、知る由もなかった。そばにいることが仲良しの証だなんて誰にもわからない。でもきっとあーくんはずっと友だち、それ以外に幼いおれは思いつくことはなかった。

(続く)
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by hello_ken1 | 2006-08-27 10:19 | プロミス

プロミス #2


Schoolboy, originally uploaded by Nana Chen.

「ゆうちゃん、また何か聞こえたの」
 あーくんはおれが遠くの方を見つめていると、心配そうな眼差しで近寄ってきた。
「うん」
「だいじょうぶぅ」
「おれはだいじょうぶだよ。でもね」
 あーくんにそっと耳打ちをした。
「あそこのね、おかあさん、ほんとはあの子、パパの子じゃないんだって」
「どういうことかなぁ」
「おれにもわかんないんだけどね」
 
 公園の北口から手をつないで入ってきた仲のよさそうな母娘は、笑顔で楽しそうに話をしていた。普通に見ているとうらやましいほどの仲のよさだけが伝わってくるようだった。
 でも、おれにはそうじゃない、せっかくの楽しい光景も台無しになるような声が聞こえてきた。内容は理解できなくても、表情とはきっと違う気持ちが聞こえてきた。
ーあんたのパパはね、ろくでなしで、あんたができたとわかったらとんずらしたんだよ。今のパパなんてあんたのことを自分の娘だって信じてるのよねぇ。いやんなっちゃう。このままずっとばれなけりゃいいんだけど。
 母親は笑顔で娘を見つめている。
「あっパパだ」
 娘は母親の手を放すと、南口に姿を見せた父親に向って駆け出した。
ーこのままどっか行っちゃおうかしら。あのひとは優しいんだけど、出世は見込めそうもないしなぁ。

「ゆうちゃん、そんなに嫌な話なの」
 あーくんが手をつないでくる。
「わかんない。でもなんかあの子がかわいそうな気がするんだ」

 いつも何かが聞こえてくるというわけでもなかった。聞きたいと思っても聞けないことの方が多かった。いつも寂しい話ばかり聞こえてくるわけでもなかった。楽しい話もぼちぼちあり、それはそれであーくんとふたりで楽しんだりもした。楽しむのも寂しい気持ちになるのも、不思議とあーくんは気づいてくれた。

 あーくん、泉堂明、小学校一年の時からの同級生、おれはあーくんの幼稚園の頃を知らない。この街にあーくんがいつからいたのかも知らない。あーくんは突然おれの前に現れた。
ーこばやかわ。
「ゆうじって言うんだね」
 朝、教室の机に座っていたら、見知らぬ少年が話しかけてきた。
「そう、こばやかわ、だよ」
「えっ、ゆうじって言うんだよね」
「あれ、今、こばやかわって呼ばなかった」

 そうして明とおれの話は始まった。

(続く)
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by hello_ken1 | 2006-08-20 11:41 | プロミス

プロミス #1

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 あいつはもういない。
 いつもこの季節になると、無邪気に笑うあいつを思い出す。
 普段忘れているわけではないが、そう毎日思い出すこともない。
 たまに木漏れ日射す神社の境内を目にすると、幼い頃一緒に遊んだことを思い出す。
 たまにじれったいほど色の変わらない信号で足止めを食うと、横断歩道の向こう側で手招きをしているあいつを思い出す。
 そのあいつと約束をした夏がまたやってきた。
 今年も約束を果たしていないまま、この季節になってしまった。
 そのうちあいつとどんな約束をしたのかも忘れてしまうかもしれない。
 覚えていても、約束をした理由を思い出せなくなるかも知れない。約束をした日をやりすごすようになるんだろうか。
 そうしないためにも、そうならないためにも、この夏こそ、毎年そんなことを繰り返し思っている俺がいる。
「頼んだぜ」
「おお」
 固く握りあっていた手をあいつは一方的に力を緩めた。そして二度と握り返してくることはなかった。
 今日、あいつが逝ったそんな日がまたやってきた。

 (続く)
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by hello_ken1 | 2006-08-13 21:50 | プロミス

きみのもしもし #5

 雷が鳴っている。
 楽しみにしていた花火大会は流れたし、部屋にとじこもっているんだろうな。
 携帯がようやくつながった。
「もしもし、、、」
 したったらずのきみの声が消え入るようだ。
「怖いんだから」
 不機嫌そうなきみの声。
「、、、そばにいてよ」
 そう言われてもこの雷じゃ、ぼくも外に出られない。
 まだ、雷は鳴っている。
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by hello_ken1 | 2006-08-13 01:57 | きみのもしもし

そのひととそのひとの娘からの贈りもの


A Love Letter, originally uploaded by Amber... Bamberboo.

 ジグソーパズルのピースが一片、一行の手紙とともに入っていた。
 明るいブルー、それがそのピースの色、単色であり、どこまでも続く海の色なのか、それとも抜けるような空の色なのか、この一片のピースだけでは判断がつかなかった。それともまったく関係のないブルーなのか。
ーこのピース抜きでジグソーパズルに挑戦中。大切に持っているように。お守りだよ。
 そのひとの娘が、ぼくのポケットに入れたそのひとからのメッセージだった。

 そのひとの娘からの手紙には、ただ英語の歌詞が書き写されていた。この原曲はたしか、キャロル・キングだったはず。
ー苦しいときにはわたしの名前を呼んで。すぐにそこに行くから。
 そんな英詩だった。

 きっといろいろな言葉を浮かべては消して、結局ぼくの身を案じるメッセージになっているのだろう。そこに彼女らは精いっぱいの明るい笑顔をこめている。ぼくは手元にあるふたりからの思いを胸にシートに深く身を沈め、まぶたを閉じてみた。
 そこには「どした」ってbig smileではじめて声をかけてきたそのひとがいた。そんなに好きじゃないのよと意地を張っていたそのひとの娘の笑顔が浮かんだ。

 機内備え付けの小さなテーブルに英詩とピースを置くと、ぼくは文庫本に挟んでおいたそのひとの娘のポートレートを取り出した。
「お兄さんの彼女かい」隣のシートの白人のおばさんが人懐っこく尋ねてきた。彼女は優しいしわをたくわえている。
「いや、でも、親友以上かな」少し照れながらぼくは答えてみる。
「もうさみしくなったのかい」おばさんはぼくまで優しくなれるような眼差しをしている。
「まだ早すぎますよね」おばさんはこっくりと頷くと横を通ったキャビンアシスタントに何やら話しかけた。

 ちゃんとキレイにかわいくてセクシーに写っているポートレートのそのひとの娘が微笑んでいる。
 ジグソーパズルの一片のピースがぼくを安心させてくれる。

 ぼくは口元に笑みを覚え、ふたりのメッセージをジャケットの内ポケットに仕舞い直した。

               (そのひと 完)
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by hello_ken1 | 2006-08-06 02:12 | そのひと