今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31


<   2006年 10月 ( 6 )   > この月の画像一覧

プロミス #12


, originally uploaded by ISphoto.

 葉子が隣で寝息をたてている。
「ねぇ、ハコ、起きないと一限遅刻しちゃうよ」
 葉子は口元に笑みを浮かべる。
「今、ハコって言ったでしょ」
「いぃや」
「ようこって呼んでよね」
 おれはベッドの中からトランクスを見つけようと、右足をもぞもぞと動かす。
「だって本名、ハコじゃん」
「何回言えば分かるの、祐二は。その本名がいやだからようこって呼んでって言ってるんじゃん」
「だから、遅刻するよ。午前中の講義は単位とりづらいんだろ」
「高校一年の祐二に心配されたくはないなぁ」
 そう言うとパジャマも下着もつけていない葉子は、おれの上に乗っかってきた。
「二限めからにするから、も一回しよ、ね」

 結局、葉子は午前中の講義をすべてバスして、午後の講義までさぼらないようにと大学の学食に向った。
「ぎりぎりまで祐二といると、一日このまま何回もしそうだから」
 上京してきて一人暮らしをしている葉子のこの部屋で、おれは学生服を身にまとう。昨日から試験勉強であーくんの家に泊まり込んで勉強をしているはずのおれ。毎回あーくんは快くアリバイ作りに加勢してくれる。これだから幼なじみの悪友は心強い。
ーこのまま早退で家に帰るけど、何かあるかな
 おれはあーくんに携帯メールを送ってみた。あーくんは学校に行っているはずなのに、返信がやたらと速い。
ーなんにも
ーへんしんはやいじゃん
ー体育、さぼり、屋上。ハコは
ーだいがく行った
 そう言えば、あーくんも葉子のことをハコと呼ぶ。あーくんもおれも、葉子はやっぱりようこじゃなくて本名のハコの方が似合っているし、かわいいと思っている。

 葉子のマンションのエントランスから通りを見ると、秋の陽射しがおれの自転車を包んでいた。
ーここは駐車禁止です。
 ハコの字だ。自転車のカゴに封筒が入っていた。
ー次はいつ泊まりに来れるのかな。
 大学一年生のハコが高校一年のおれを誘ってる。
ー約束はいらないけど、また来てね。
 ハコははじめての夜に、約束でおれをしばることはしたくないと言った。だからハコとおれは何の約束もしない。そんな関係でふたりして、夏そして秋を迎えようとしている。

 おれは葉子からの手紙をポケットに入れると、自転車のキーロックの番号をまわした。0426。四桁の数字、葉子とおれの出会いの数字。そして葉子の誕生日の数字。
ー妙なところで縁があるんだよな。
 さっきまでの吐息を漏らす葉子の口元を思い出しながら、おれは自転車を歩道のガードレールから引き離した。
「ゆうちゃん、まだハコんち?」
 そのとき、あーくんがはちきれんばかりの電話をかけてきた。
「ちょうど出たとこ」
「ちょっといつものとこに寄り道してよ」
「いいけど、どしたの」
「やっとわかったんだよ」
 あーくんが興奮している。
「えっ」
「そう」
「ほんとに」
「うん」
 おれは自転車の向きを変えると、力の限りペダルを踏み込んだ。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2006-10-30 00:11 | プロミス

プロミス #11


Shinkansen, originally uploaded by j_photo.

「ほんとはね」
 麗奈が寂しげな笑みを浮かべている。
 あーくんはホーム側、麗奈は7号目の車両のドアのところに立っていた。
 息を切らしたおれはどうにか間に合ったようだ。
ーテレビのワンシーンみたいだな。
 第三者的な見方をしているおれを感じた。
「ほんとはね」
 麗奈は同じ言葉を繰り返しただけのはずだった。
ーずっとふたりと同じクラスになりたかったの。
 あーくんの視線がおれに向いた。
ーふたりと友だちになって、一緒に遊んで欲しかったの。
 麗奈とおれの視線が合った。
「あきらくん、ゆうじくん、また会えるよね」
 麗奈は続きじゃない言葉を続けた。あーくんは小さく「うん」と頷くだけだった。
 ホームのベルが鳴り、新幹線のドアが独特の音をたてて閉まった。その瞬間、麗奈はもう手の届かない存在に見えた。
「来てくれて、ありがとう」
 麗奈の唇がそう動いている。きっとそう動いている。本当にテレビドラマみたいだ。
 でもあーくんもおれもそんなドラマみたいに、麗奈の姿を追ってホーム伝いに新幹線を追うことはしなかった。
 きっと麗奈は新幹線が完全にホームから離れ終わるころには、両親の待つ座席に戻って新しい街のことを話しはじめることだろう。

 あーくんとおれは新幹線のホームにあるベンチに腰掛けて、ぼんやりと次の新幹線の動きを見ていた。
「お父さんの転勤なんだってね」
 あーくんが口をひらいた。
「ほんとにそうなのかな」
 あーくんは言葉を続けた。
「ゆうちゃんはちょっと前から知ってたんだよね」
 でも微笑んでいる。あーくんはおれを責めてはいない。
「ぼくら、ちゃんと笑顔で見送れたかな」
 お姉さんが大きな声で言った言葉はとても大事なことだったんだと、あーくんもおれも感じていた。
「ゆうちゃん、聞こえたんでしょ、麗奈の声」
 あーくんの眼差しは少し心配そうだけど、口元はいつものようにいたずらっぽく微笑んでいた。
「寂しい声じゃなかったよね。悲しい声じゃなかったよね、ね、そうだよね、ゆうちゃん」

 駅前の横断歩道でまた信号待ちにひっかかったおれは、新幹線の駅の先をじっと見ているあーくんに話しかけた。
「麗奈はね、もっと早くぼくたちと知り合って、遊びたかったって。そう心の中で言ってたよ」
 あーくんはおれの言葉に振り返ることもなく、「そうだよね」とつぶやいた。

 信号待ちから開放されて、ふたりで車道に踏み出すと、あーくんが少し元気に話しかけてきた。
「麗奈がぼくたちのことを忘れないうちに」
「忘れないうちに」
「うん、忘れないうちに、遊びに行ってやろうぜ」
 きっとそれができたとき、神社の境内での麗奈とおれの約束も一緒に果たせるんだろうな、とおれは思った。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2006-10-21 22:04 | プロミス

きみのもしもし #7

 番号非通知の電話が鳴った。
「、、、」
「、、、」
「もしもし」
「もしもし」
 普段は非通知だと電話は取らないことにしている。
 でも、今夜は電話に出てみた。
「もしもし」
 もう十分わかっているよ。
「どうして非通知なのかな」
「サプライズよ」
 そう言ってきみはハッピーバースディ、と言葉を続けた。
 時計の針は00:00を回ったところだった。
[PR]
by hello_ken1 | 2006-10-15 15:25 | きみのもしもし

プロミス #10


, originally uploaded by Peta Z.

「ちゃんと笑顔で見送るんだよ」
 隣のお姉さんは車から降りると、周りの人が驚いて振り返るくらいの大きな声で、おれらを送り出した。お姉さんは右手を大きく振っている。
 おれが信号の手前でお姉さんに手を振り返している間に、あーくんは信号を渡り終えていた。
ーあっ。
 あーくんは早く早くと信号の向こう側で手招きをしている。四車線もある車道は信号が変わると同時に往来する車の列で埋め尽くされた。あーくんが何か言っている。おれは車の途切れを伺っていたが、信号を無視して渡れるほどに途切れることはなかった。じれったいほど色の変わらない信号、おれの頭の中で時計の秒針が反響を残して1秒1秒を刻んでいる。
「先、行っちゃってよ」
 同じ言葉を何回か繰り返して、信号の向こう側のあーくんに伝えた。あーくんが申し訳なさそうな顔で、きびすを返して駅に向って行った。
ー申し訳ないのは、おれのほうだよ、あーくん。
 一緒に信号を渡れなかったこと、そして何より今日まで今日のことを伝えられなかったこと、少しでもその気持ちが軽くなるように、あーくんだけでも間に合うことを祈った。

「学校さぼりの釣果はどうだった」
 平日なのに今日はなぜか家にいる父親が、うれしそうに近づいてきた。
「おー、結構なもんだな。パパがさばいてみようかな」
 クーラーボックスを開けると、父親は満足げにキッチンに向った。
「ぼく、学校さぼったんだけど」
「いいんじゃないか。釣りに行くってちゃんと言って行ったんだから。パパも今日はさぼりだし。何か問題でもあるのか」
ーいや。
 おれは首を横に振った。
 学校をさぼったことにおれは罪悪感は感じなかったけれど、せっかくあーくんと二人きりになれたのに、せっかく伝えられる時間をあーくんがつくってくれたのに、おれは何も口にすることはできなかった。
「まー、りっぱねぇ。祐二くんは釣りの天才かな」
 母親は父親と仲むつまじく、魚をさばく用意をし始めた。
 おれが釣りの道具を洗いにバスルームに向っていると、
「そうだ、祐二くん。女の子から電話あったわよ。あーくんと釣りに行ってますってつい言っちゃった。電話してあげてね」
 母親が屈託のない元気な声で言ってきた。

 おれが母親から手渡された番号に電話をすると、家人ではなくその女の子が直接出てきた。呼び出し音を二回と鳴らさないうちに、その女の子は電話に出てきた。
「あのね、ほんとは今日の夕方なんだ」
「これから家をでるの」
「見送りには来てもらいたくなかったんだけど」
「でもねでもね」
「来てくれないかな」
「やっぱり、見送りに来てくれないかな」
 その子が受話器を一生懸命にぎりしめて、一生懸命おれにお願いしている、その気持ちが十分に伝わってくる口調だった。
 おれはすぐにあーくんに電話をかけると、用件も言わずにとにかく家をでるように伝えた。
「電話で説明なんてできないよ。途中で話すから、とにかくいつもの道でうちに来てよ」

「いってきまーす」
 慌てて家を出たおれの目に隣のお姉さんが映った。
「どうしたの、祐二くん、慌ててるね」
ーうん。
 無言で大きく頷くおれがいた。
「どこまでいくの」
「時間ないんだ」
 お姉さんは少し考えるようなそぶりをみせた。
「急いでるから、ごめんなさい」
 お姉さんに頭を下げると、おれはあーくんと落ち合うためにダッシュでお姉さんを後にした。
「祐二くん、そんなに急いでるんだったら、わたしが車に乗っけてあげるよ」
 振り返ると、お姉さんが優しく微笑みながら、右手の親指を立てていた。

 四車線の車の往来がなくなった。駅前の歩道用の信号が青に変わり、渡っていいよっの音楽が流れ出した。
ーあーくんはホーム分かったかな。ちゃんと会えたかな。おれも間に合ってよ。

「見送り行くよ」
「ぜったい間に合うから」
「あーくんも一緒に連れてく」
「約束するよ」
 その言葉にうれしそうに電話を切った麗奈のことを考えながら、おれは新幹線のホームへと向った。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2006-10-15 13:21 | プロミス

プロミス #9


Maddy-girl, originally uploaded by kittynn.

 あーくんが歩いている。
 あーくんって誰なんだろう。
 ふと、あーくんを見ていて思う。
 ねぇ、あーくん、きみは誰なの。ねぇ、あーくん、きみはどこから来たの。ねぇ。
 あーくんの声だけ、心の声、あーくんのだけ、聞こえてこない。
 ずっと友だちだよね。あーくん、こっちを向いてよ。友だちだよね。

「ゆうちゃん、」
ーえっ。
「ゆうちゃんってば、」
ーあれ。

 おれはここで我にかえった。でも、
 先週から麗奈のことがずっと心に引っかかっていた。

「すごい汗だよ、ゆーちゃん」
 あーくんがおれをのぞき込んでいる。あーくんがおれのことを心配してくれている。
ーごめんね、あーくん、そんなに心配してくれているのに、友だちなのに。

「ママ、どうしよう」
「女の子のことね」
「うん」
「ママもね、まだまだ女の子なの」
「え」
「祐二くんは男の子」
「うん、そうだよ」
「だったら、女の子に相談しちゃ、だめだよ、祐二くん」
「えっ」
「男の子として考えなさい。それが女の子のことを大事に思うことにつながるからね」

ーあーくん、どうすればいいのかな、どうあーくんに伝えればいいのかな。
「ゆうちゃん、どうしたの、大丈夫」
「ううん、ちょっと、ぼーとしてた」
「だけならいいんだけど。最近、よく上の空だよ」
ーそうかも。
「ゆうちゃん、明日さぁ、釣りでもいかない。学校、さぼっちゃおうぜ」

ーあーくんに伝えなきゃ。麗奈と約束したんだ。もう日がないよ、あーくん。
「あーくん、あーくんはどこから来たの」
ーおれは何を言ってるんだろう。
 あーくんは心配そうに、またおれの顔をのぞきこんだ。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2006-10-09 00:57 | プロミス

プロミス #8


love fortune slip, originally uploaded by hello.ken1.

 神社の境内の片隅にあるブランコで、秋の空気を感じていた。

「空は曇天だけど、午後から秋晴れになるから気持ちいいわよ」と母親が微笑んでおれを送り出した。
「デートなんでしょ」
「違うよ、呼び出されただけ」
「どっちにしても女の子を待たせちゃだめよ、祐二くんは紳士なんだからね」
「うん、大丈夫まだ時間あるから。じゃ、いってきまーす」

 ブランコの周りには国定保存木の札がつけられた数本の大樹が、空高くそして空を隠すように枝を広げている。秋の空気は、境内の静けさと大樹が醸し出すかび臭いとも植物のにおいともつかない香りで、少しの緊張感、不安感をおれに与えていた。何か心臓が締めつけられる感じ、おれの背後に妖怪でも居そうな気がしていた。

 ただでさえ、境内なんてそういつも人影があるわけでもないだろうが、ましてやまだ午前中早い時間だから、ときたま犬の散歩をしにおばさんが参道の石畳を通るだけだった。きっとこのまま約束の時間になっても人気はないように思われた。境内のこの片隅にブランコがあるなんて言われなければ気づきもしなかった。みんなに忘れ去られていることを物語るようにブランコも隣の鉄棒もシーソーも塗装ははげ落ち、長いこと補修もされていないのがよくわかる。
 こんな場所を待ち合わせに使うなんて、趣味がよくわからない。でも確かに言ってきた場所はここ、おれは場所が勘違いではないことを確認したくて、かなり早めにこの場所に来たにも関わらず、この境内の雰囲気に怖じ気づいていたのは否定できない。これほど静かで、ひんやりとした厳かな空気は、おれの心臓だけではなく、お腹までも締めつける。

「ただいまー」
 昨日あーくんと河原で遊んで、夕飯時に帰宅すると母親が満面の笑顔でおれを迎えてくれた。いつもだとキッチンから声をかけてくるだけなのに、昨夜は早足で玄関まで出てきた。
「おかえり、祐二くん」
 母親は不気味な笑顔を携えていた。うん、と返事をしカバンを置きに自分の部屋へ行こうとすると、母親はおれの後ろについてきた。
「どしたの」
「祐二くん、彼女いたんだ」
 会話の流れが見えないできょとんとしていると、母親は、いいのよいいのよ、と言いながらキッチンに戻って行った。
「パパ、祐二くん照れてますよ」
「いいことだな。ぼくに似てとてももてると言うことだ」
「あら、パパはわたし以外にはもてなかったんじゃないの」
 母親と父親は比較的大きな声でじゃれあっていた。
「そうそう、祐二くん、女の子から電話あったわよ」
 おれは母親がキッチンから大きな声で伝えてきた内容をまったく理解できないでいた。

 昨夜のことを思い出しながら、おれはブランコをこいでみた。ブランコは塗装がはげているだけではなく、金属同士のすべりも悪く、きしむような音を境内に響かせた。
ーなんだかなぁ。
 大樹の枝のすき間から、曇天の灰色の雲が見える。少しは薄くなってきているのか。雲のすき間はまだできないのか。おれは境内の空気に押しつぶされないように、空を見上げながらブランコをこぎ続けた。昨夜の母親のはしゃぎよう、折り返しの電話の内容、今朝の母親の笑顔、そしてこれから会う子のこと、ブランコは揺れ続けた。

「わたし遅れてないよね」
 突然聞こえてきたその声は、ブランコの揺れを止めるには十分だった。まだまだ約束の時間には早い、早すぎる。なのにその子はもうここにいる。
「うん、まだまだ時間前だよ」
「よかった。わたしから呼び出しといて遅刻はないから、早めに来ちゃった」
 母親が調べてくれた天気予報は少しだけ外れたようだ。その子の頭上から秋の陽射しが降りそそぎはじめた。
「きみ、確か隣のクラスの子だよね」
 その子は、はにかんだ笑顔を見せた。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2006-10-01 12:12 | プロミス