今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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<   2006年 11月 ( 5 )   > この月の画像一覧

プロミス #16


Foamy Cappuccino, originally uploaded by kenliu.

 呼び出されたカフェには、あーくんともうひとり女性の後ろ姿が遠めに見えた。
 花曇りの今日は、体感温度が低く感じられる。歩道に少しはみ出しているあーくんたちのテーブルには、気の早い遠赤外線の暖房が向けられていた。
「こっちこっち」
 おれを見つけたあーくんは、右手を軽く挙げる。
 もうひとりの女性は、おれの方を振り返ることなく、帽子をかぶったまま頬杖をついていた。
「時間通りだろ」と、おれ。
「ハコも一緒だよ」と、あーくん。
 頬杖をついていた女性はにっこりと振り返ると、手に持っていた銀杏の葉を1枚、おれに差し出した。
「花言葉は」
 きょとんとしているおれに葉子は続けた。
「しとやか。わたしにぴったりでしょ」
 初めて見る帽子姿の葉子は、まったく新しい女性がそこにいるかのように映った。

 差し出されたカプチーノを軽くかき混ぜた葉子は、おれとあーくんの顔を交互に見ている。
「どうしてきみたちは、何回言ってもわたしのこと、ハコって呼ぶのかな」
ーだって、ハコはハコじゃん。
「葉子はようこより、ハコの方が似合ってると思うよ」
 あーくんが葉子の機嫌を取っている。きっと何かある。
ーだって、ハコが本名じゃん。
「それにようこって何となく古いよ。ハコの方が響きに生活感なくて、イケてるよ」
 葉子はカプチーノをまぜるのをやめ、カップを両手で包んだ。
ーん、あーくんの今の言葉、気に入ったのかな。

 たまにあーくんと葉子と3人で会う時は、いつも最後におれが合流する。と言うか、3人で会うなんていつもその場に行かないとわからない。葉子にも声をかけたのか、かけてないのか、なんて気にすることもない。葉子がそこにいればそれはそれで場が明るくなるし、いちゃいけない理由もない。ただ、おれがあーくんと会う時は葉子を呼んだことはなかった。
「転校してった同級生、見つかったんだって」
 葉子がにやついている。意味あり気な視線をおれに投げる。待っている間にあーくんから聞いたのだろう。
「あーくんがインターネットで見つけた」
「連絡とってみたのかな」
 あーくんがため息をついて、葉子に顔を近づけ嘆願の目で見つめる。
「そこでハコさまにご相談です。どうしたらいいんでしょう」
 葉子はあーくんのぽっぺに軽くキスをすると、返す視線でおれを凝視した。
ー祐二はあーくんに何を内緒にしているの。何を心に仕舞っているの。
 聞こえてきた葉子の心の声に、おれは息が止まった。
 あーくんはおれの変化に気づいていた。まだおれとあーくんのふたりの秘密、きっとずっとふたりの秘密、あーくんは相変わらずおれの変化を察知する。
 ゆっくりと葉子はあーくんの両手をつかんで、芝居がかった口調で話しかけた。
「だいたいさぁ、女子大生のわたしをナンパする高校生ふたりが、何を臆病になっているのかなぁ。それともそれは口実で、明はわたしに会いたかったの」

 あーくんとカフェで別れて、葉子とふたり電車に乗っていると、葉子が腕を組んできた。
「転校してった同級生の名前なんだったっけ」
「麗奈」
「ふーん」
 電車の揺れがふたりをもっと密着させる。
「麗奈と何か約束してるでしょ、祐二は。そのこと明に言ってないよね」
ー明は麗奈のことが好き、きっと麗奈は祐二のことが好き。
「着いたよ」
ーわたしは祐二のことが好き。
 おれはポケットにしまっていた銀杏の葉を指で触り、
「降りるよ、ハコ」
ーじゃあ、祐二は誰のことが好きなの。
 聞こえてきた葉子の声を、そっと心に仕舞った。

(続く)
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by hello_ken1 | 2006-11-26 16:00 | プロミス

きみのもしもし #8

 きみが帰ったこの部屋にのこされたぼく一人。
 きみがいなくなった分、温度の下がったこの部屋で、ぼくは小さく口ずさむ。
「もしもし」
 誰の返事もありゃしない、それでもぼくはきみの口調を真似て、もう一回口ずさむ。
「もっしもっし」
 さっきまで、足で触り合っていたきみとぼく。そんなベッドが少しだけ温かい。
ーさてと、もう一杯、珈琲でも入れようかな。
 キッチンで珈琲豆を挽いていると、携帯電話がぼくを呼んだ。
 きみはバス停に着いたんだな、容易にきみの行動は想像できる。
ーもっしもっし。
 携帯を取る前から、きみの声がぼくには聞こえる気がした。
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by hello_ken1 | 2006-11-23 12:08 | きみのもしもし

プロミス #15


orange cotton candy cloud, originally uploaded by irinsmith.

 麗奈がおれたちの学校からいなくなって、しばらくの間、おれとあーくんはいつも校舎の屋上で雲ばかりを眺めていた。
 ふたりして屋上の入口の上にあがり、寝転がるとそこには抜けるような青空に白い雲が浮かんでいる。不思議といつも同じ形の雲だった気がする。
「なんで先生は教えてくれないだろう」
 あーくんはよくそう言っていた。
 確かに担任の先生は、
「担任じゃないからよくわからないわ」
「確認しといてあげるね」
 その繰り返しだった。
 そんなもんなのかな、とあきらめかけていたおれと違い、あーくんは麗奈の担任にも聞きに行っていた。
 麗奈の担任は、
「心配しなくても大丈夫、彼女がきみたちと連絡をとりたくなったら、きっと連絡はくるよ。あせらず待っててあげなさい」
 麗奈の担任は優しくあーくんの肩に手をかけたと言う。
 それでもあーくんは麗奈からの連絡を待つ傍ら、麗奈のクラスメートの女子にも連絡先を聞いたりしていた。
「きっと先生たちは知っているんだよ」
「何か事情があるんだろうね」
「麗奈の声、ゆうちゃんに聞こえてこないの」
 あーくんは、人の心の声がおれに聞こえてくることを知っている。いつもじゃないことは十分に知っているはずなのに。
「ゆうちゃんの意思ではなくて、勝手に聞こえてくるんだよね」
「それに、姿が見えないと聞こえてこないよ」
「そうなんだよね」
 おれたちはまた雲を見ていた。

「何考えてるの」
 ハコはおれを上目づかいに見ている。くちびるをツンととんがらせて、見ている。
「何にも」
「気合い、入ってないぞ」
 ハコは毛布にもぐり、おれの胸にキスをする。くすぐったいキスをする。

「ゆうじくんたち、いろいろ聞きまわってるんだって」
 ある日、隣のお姉さんと下校の途中で一緒になった。
「なんのこと」
「隅に置けないなあ。新幹線で見送った女の子のことよ」
「麗奈」
「そんな名前だったっけ。ちょっとしたうわさだよ」
「そんなことないよ」
 耳たぶが熱くなるのを感じた。
「正直だね」
 隣のお姉さんは美人だし、背が高い。お化粧ははやりで薄めなんだろうけど、お化粧なんて必要ないくらいきれいだと思う。そんなお姉さんと歩いているだけで、同級生からは明日ひやかされるんだろうな。
「そっと教えてあげるから、」
 横に並んで歩いていたお姉さんは、おれの前にまわりこみ、おれの目線の高さに自分の目線を合わせた。
「ちょっとね、心が疲れてお休みが必要みたいよ。もし連絡先がわかってもそっとしておいてあげたほうがいいかも。ううん、ずっとじゃないわ。ほんのもう少しだけね。きっと元気になったらその麗奈ちゃんの方から、連絡してくるから。絶対、連絡してくるから」
 おれはお姉さんの目を見ながらきょとんとしていた。なんで知っているの、なんでそんなこと知っているの、おれたちが聞きまわっているのを知っているのはなんとなくわかるけど、なんで麗奈のことまで知っているの。
ーそれよりも、人とお話しもできなくなっているみたい。
 お姉さんの声が聞こえた。お姉さんが口にしていない心の声が聞こえた。

「あのとき、あーくんには言ってないんだよな」
 ハコが毛布の中から顔を上げてきた。
「やっぱり何か別のこと考えてる」
 おれは薄く笑い、ハコに頷く。
「うん」
「失礼しちゃうなぁ、って言いたいけど、そんな顔じゃないね、今の祐二は」
「いろいろあるんだよ、この歳になると」
「なーんだか、まだ高校1年生のくせに」
 ハコの優しい笑顔がおれを和ませる。
「でも、いいんだ。メールの約束どおり今、ここに来てくれてるから」
 ハコの部屋から窓ガラス越しに青空が見える。雲も浮かんでいる。おれは小学校の屋上であーくんと一緒に見ていた雲を思い出していた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2006-11-19 02:05 | プロミス

プロミス #14


, originally uploaded by elizz.

 ドアを開けると、あーくんがお店のカウンターの中にいた。店長の姿は見当たらない。
 おれがカウンター越しにあーくんの前に立つと、画面に没頭していたあーくんが顔を上げた。
「見つけたよ」
 あーくんはにっこりと微笑んで、視線をディスプレーに向ける。
 お世辞にも明るいとは言いがたいこの喫茶店には、おれたちが高校を卒業するころには一般的になっているInternet Cafeの走りとなるべくネットにつながるパソコンが一台、カウンターの中に置いてあった。
「冗談だろ」
「ほんとさ」
 目が活き活きと輝いているあーくん、そんなあーくんが視線を向けるディスプレーを見てみようと、おれもカウンターの中に足を入れた。
「友だちの紹介がないと会員になれないがサイトあってさ」
 あーくんはディスプレーを指さした。

「ねぇ、ようこ、高校生の彼とはどこまでいってるの」
 午後の講義までの間、ランチをとりながらひとり時間をつぶしていた葉子に、同級生が話しかけてきた。
ーうざいなぁ。
 葉子はわざときょとんとした表情で、同級生に振りかえる。
「うわさなんだから。今日も午前中デートだったんでしょ」
ーほっといてほしいのよねぇ。
「ねぇねぇ、高校生だと、ようこが何でもリードするわけ」
ー同級生ってだけじゃ、親友にはなりえないよ。
「高校生は平日の午前中なんて学校でしょ。だからそんな時間にデートは無理。それに」
 葉子は、それに続く言葉を口にするのをためらった。それに高校生は同い年の範囲でしょ、なんてこの同級生に言ってみたところで、何になるんだろう。
「それになぁに、ようこ」
 葉子はひと呼吸おいた。
「清らかなお付き合いなんだから、リードってことはないんじゃない」
「ほんとにぃ。じゃあ、みんな言いたい放題うわさしてるってことぉ」
 つまらなそうな表情の同級生と一緒に、葉子は午後の講義へ向った。
 退屈な講義、うわさ話ばかりの同級生、そんな学生生活をふきとばしてくれるのは祐二。歩きながら葉子は、祐二のことを考えるだけで、鼓動が早くなるのを感じた。
ーメール来ないかなぁ。

「やっと紹介してくれるひとを見つけて、サイト中ずっと探してたんだけど」
 あーくんが指さすディスプレーから、忘れ始めていた笑顔が思い起こされた。
 それでもおれはあーくんに確認をとらずにはいられなかった。
「名前ちがうじゃん」
「ニックネームでもインターネットネームでもなんでもいいんだよ」
「出身地なんかもおれ、知らないし」
「おれも知らないよ」
 と、あーくん。
「でもさ、確かに」
「でしょ」
 あーくんがこのサイトの中で探し当てたこの子の自己紹介の欄には、おれとあーくんにしか分からないことが書かれていた。
ー小学校のときにやり残したことがあります。かけっこのコーナーワークをうまくなりたかった。
ー新幹線のホームでお別れするのはきらいです。だってもう誰も会いに来てくれなくなるから。
ーもっともっと自由にかけまわりたかった。きみたちに友だちになって欲しいのに臆病でした。
ー好きな人には好きと言いたかった。
ーこれからはそうしよう思います。そんな高校1年生のわたしです。
 この子はこのサイトに登録したときから、おれたちに「早く探し当ててよ」と信号を出し続けている、おれとあーくんにとって疑う余地はなかった。
「結局さ」
「会いに行ってないよな」
 その女の子に約束をしたわけじゃない。どうしてもそれを約束と言うんだったら、それはおれとあーくんの間の約束。
 おれとあーくんはパソコンのディスクの回転音に包まれながら、ふたりして麗奈のプロフィールをじっと見つめていた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2006-11-11 19:42 | プロミス

プロミス #13


wall, originally uploaded by oceanT.

 緩やかだけれども、長い坂道を上った。
 これだけ長いと、自転車を漕ぐふくらはぎに少し疲れを感じる。この先一気に下り坂になる。下りきったところを右折すると繁華街の細い裏通りを抜けたところ、繁華街の雑踏が始まる前に、あーくんとの約束の場所がある。
ーよく見えるといいな。
 この坂道の頂上から、晴れた日には富士山が見える。高層ビルが建ち並んだせいもあり、以前のように手放しで見えるわけではない。でも、かつて見えていた方角に目を凝らすと、今でも確かに富士山は見て取れる。だから、よく見えると言うよりも、とにかくおれは見つけることができる。そんな日はなんだかうれしくなってしまう。
 富士山が見えれば、富士山が見えれば、きっとあーくんからの知らせは想像以上のもの、そう願掛けをしつつ、坂道の頂上までのもう一漕ぎに力を込めた。

ーあー、久しぶりに見たわ。
ーだっせー。
ーねぇ、あの彼、不器用なんじゃない。
ー最近の学生はそんなこともできなくなったのか。目も当てられん。

 誰も何も口にしていないのに、おれの前をひとが通るたびに、たくさんの冷ややかな声が耳に届いてくる。おれは顔を上げ、誰彼構わず、目つきの悪い視線を勝手に投げつける。そしてその度に、自転車のこの外れたチェーンを元のギアに戻せない自分自身にいらだっているのに、気づかされた。
 最後の一漕ぎの力の込め方がよくなかったのか、サドルから腰を上げ体を左右に揺さぶりながらの漕ぎ方がよくなかったのか、とにかくおれの自転車は坂を上り詰める直前で、チェーンが外れてしまった。
ーうそだろ、おい。
 しかたなく自転車を降り、目前の頂上まで自転車を押して上ったおれは、頂上の平たい道に座り込み、チェーンの取り付けにかかっていた。

ーあの子、あせってるみたいね。
ーみんなの目が気になっちゃってるみたい。
ー一息入れて落ち着いたほうがいいかも。

ー優しい言葉も聞こえてくるもんだ。そうだな、一息入れよう。
 座り込んでいたアスファルトからおれは腰を上げると、自転車をガードレールに立て掛け、自分もガードレールに腰をかけた。そんな落ち着こうとしていたおれの目に、遠くの富士山が見えた。とても小さくてビルの合間にかろうじてだけど、おれには富士山が見えた。
ーあーくんからの連絡はすごくいい知らせだから、あせんなくてもいいよってことかな。
 富士山が見えたことによる前向きな解釈で、おれは目の前のチェーン外れを良い方向としてとらえようとしていた。

 しばらくガードレールに腰を預けたまま、富士山を見ていると不思議なことに気がついた。さっきまで次から次に聞こえてきていた道行く人の心の声がまったく届いてこなくなっていた。歩道を行き交う人の数はそう変わっていない。誰もが何も考えずに歩いているわけでもないだろう。おれの方の意識の問題か、とにかく気になる人の声は一切聞こえてこなくなった。
 ちょっと落ち着きを取り戻したおれは、葉子が自転車のカゴに残した手紙をポケットから取り出し、読み返してみた。
ーそう言えばハコとの出会いもこの自転車だったよな。
 きっと口元は緩んでいたことだろう。何回も葉子の手紙を読み返し、その都度、富士山に目を凝らした。

 件名:約束しよっか
 本文:試験終わったら、すぐ泊まりに行くよ。待ってて、ハコ。ちゃんと連絡するから。

ーハコは約束、いやがるかな。
 そう思いながら葉子に携帯メールを打ち終わると、おれはチェーンが外れたままの自転車にまたがり、一気に坂を下り始めた。頬に当たる心地よい風とともに、加速する自転車に乗っておれはあーくんの待つ場所へと向った。

(続く)
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by hello_ken1 | 2006-11-04 18:03 | プロミス