今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31


<   2007年 03月 ( 5 )   > この月の画像一覧

きみのもしもし #10

ー10分後にどう。
ーサプライズはうれしいけど、急すぎる。
ーどうしよう、また次かな。
ーそんなこと、言ってないよ。
ーそれじゃ・・・
ーあのカフェで待ってて、10分後には行くから。

 きみはきっちり10分後にそのカフェに現れた。
「もしもし」
「やぁ」
「うれしくてもね、ちらかってるのとスッピンは10分じゃ、無理なの」
 そういって微笑むきみの春色のルージュが、ぼくの目をひいた。
[PR]
by hello_ken1 | 2007-03-26 08:59 | きみのもしもし

プロミス #33


My Daily Fix..., originally uploaded by SylV - like Sylvie....

「いらっしゃい」
 ドアを開けると、はれぼったい眼の葉子が立っていた。鼻の先もうっすらと赤くなっている。
「来てくれて、ありがとう」
 玄関口のところまで、香ばしい珈琲豆の香りが届いている。そんな香りをかぐ素振りをおれは見せたのだろう、葉子が言葉を続けた。そこには本来の話題を避けたい思いもあったのかも知れない。
「まだ珈琲はいれてないよ。今、豆を挽いたところだから、わたしに香りがついてきたみたい」
ーいい香りだね。
 おれは葉子に無言で頷いた。

 広めのワンルームの葉子の部屋は、陽当たりがよく、今日も柔らかい陽射しが朝から差し込んでいたのだろう、ほんのりと暖かい空気がふたりを優しく包む。
 いつもなら、部屋に入ると、テーブルではなくベッドに腰かけ、葉子とキスをする。照れ笑いで見つめ合いながらキスをする。葉子のベッドは何事も知らないように、いつもとおんなじように、柔らかそうな柄のカバーでそこにいる。おれはほんの少しだけ間を置いて、テーブルの方に腰かけた。
ーやっぱり今日はそっちなんだね。
 葉子の声が心の奥で聞こえた。

「今、珈琲いれるから」
 葉子が一生懸命微笑んでいる。
 赤いケトルに水を入れ、コンロに火をつける葉子。今日は珈琲メーカーを使わないようだ。
「祐二、ケイタイ鳴ってない?」
 確かにおれのケイタイが上着のポケットで震えていた。
 おれのポケットの中のバイブの響きに気づくなんて、葉子が緊張しているのがわかる。
ーあーくんからだ。
 おれはケイタイのディスプレーでそれを確認すると、留守電に切り替わるまでバイブを放置した。
「出なくていいの?」
 おれはゆっくりと首を横に振った。
ーいいんだよ。今はハコとの時間だから。

 葉子はテーブルにドリッパーとサーバを持ってくると、ペーパーをセットし全体にお湯をかけた。
ーこうするといいのよ。美味しくはいるの。
 この一年の間に、何回この時間を共有したんだろう。サーバを温め、豆を蒸らし、出終わった珈琲がカップに注がれ、おれの目の前に差し出される。ゆっくりと落ち着ける時間だ。

「何杯、飲んでくれたのかなぁ」
 珈琲を口に運びながら、葉子がこの一年を思い出すように、おれに聞いてくる。
「つき合い始めてすぐに、ここに呼んだんだもんね」
 沈黙を避けるように、おれから聞きたくない話題がでないように、葉子は言葉を続ける。
 おれの好みに合わせて、香ばしい香りの珈琲を少しだけ苦めに入れてくれる、それは今日も変わらない。今日違うのはそれを口にするふたりの笑顔の質、以前は何の曇りもない笑顔で珈琲を飲んでいた。
「祐二は優しいから」
ーそこが好きなんだけど。
「だから、わたしまで傷つかないようにしようとするよね」
ーうれしいんだけどさ。
「ちょっと前はやった歌とかでさ、優しい嘘とか、あたたかい嘘とか、聞いたことない?」
ー嘘はうそなんだよね。
 おれは珈琲を口にし、葉子も一呼吸おいた。

「麗奈のほうに行っていいよ」
 突然切り出す麗奈の話題。
ーいっちゃやだよ。
「でも、」
ーでもね。
「麗奈と祐二の気持ちが通じ合うまでは、祐二はハコの側にいてよ」
 おれは葉子から視線をそらした。
「もしかしたら、麗奈と祐二には何も起こんないかも知れないじゃん」
ーだって麗奈とつきあう約束なんてしてないんでしょ、だったら。
 視線を戻すと、葉子は涙もふかず、まっすぐにおれを見つめていた。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2007-03-25 14:46 | プロミス

プロミス #32


Flowers to remember, originally uploaded by sergiosdaily.

「どうだった。当たってたでしょ」
 線路沿いの自転車置き場のわずかなスペースに、おれが自転車を押し込もうとしていたら、女性の声が聞こえた。
 振り返るとそこには、先日の女性が腕を組んで立っていた。
 逆光がまぶしくて、おれが目を細めていると、その女性はおれのそばに回り込んできた。
「0426、鍵の番号、当たってたでしょ」
 その女性は自慢気に言ってきた。でも、のぞき込むような目線で。
 おれより少し背は低い、肩にかからない程度のストレートな髪型、メッシュっぽく茶色のカラーを髪に入れている、肌の色は白く、唇は健康的なピンク色をしている、ルージュをしているわけではなさそうだ、くるっとした目で、鼻も口も作りは小柄、胸の開いたシャツが胸元を強調している。おれは目のやり場に困った。
「当たってたよ」
 ぶっきらぼうに答えると、おれは視線をそらして、自転車をわずかなスペースにむりやり押し込んだ。
「えっ、えっ、えっ、ほんとに、ほんとに」
 キーの上がった女性の声に、おれはびっくりした。
「ほんと、0426だったの、ね、ね、」
「そうだけど。あの日はおれたちも驚いたよ」
 女性は満面の笑みで、おれに言葉を続けた。
「縁があるわ、間違いない、わたしたち縁があるのよ。だってその数字、わたしの誕生日だもの」

 あっけらかんとしたその女性を見ていると、妙な気恥ずかしさを覚えたので、おれはあまり興味のないそぶりでその場を立ち去ろうとした。
 するとその女性はとことことおれの横についてきた。
「どこいくの」
「学校」
「どこの学校」
「ちょっと先」
「わたしね、あっちの大学なの」
「ふーん、大学生なんだ」
「そうよ。ねぇねぇ、聞いていいかな、祐二くん」
「なんで名前知ってんの」
「この前、言ってたじゃん」
 おれは少し無視をした。
「高校生と大学生って付き合っちゃだめかな」
「はぁ?」
「だって縁があるのよ、わたしたち、とっても、絶対」
「そうは思わないけど。鍵の番号はたまたまでしょ」
 その女性は勝手に腕を組んできた。
「そんなたまたまって、ぜったいないって。それがあったんだから、すごいことだよ、祐二」
「呼び捨て?」
「だって、これからわたしたち付き合うんだもん、普通でしょ、祐二」

 学校に着くまでの間、
「そんなわけないでしょ」
「そんなわけあるわよ」
 の繰り返しだった。

ーハコとそうやって始まったんだなぁ。
 葉子のマンションへ向う道すがら、おれは去年のことを思いだしていた。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2007-03-18 11:45 | プロミス

プロミス #31


 明の頬をなでるものがあった。
 軽く風が吹いただけなのに、花びらが明の周りを舞っていた。
「早すぎだろう」
 明は公園のベンチでひとり、ぽつりとつぶやいた。

ー今日は、会いに来ちゃ、だめだからね。
ー電話も、だめだから。
ーメールもやめて。

 葉子からさっき、明に嘆願するような電話があった。
 たどたどしく、でも、明からの質問を一切受け付けない、そんな意識がその電話から明に伝わってきた。

ーゆうちゃんが会いに来るのか。
ーきちんと話にくるんだね。
ーハコはどうするつもりなの。

 明は出かかった問いかけを全部胸の中にしまい込んだ。

ーわかったよ。今日はやめとく。
ーでも、おれにはいつでも電話してきていいんだよ。

 明は葉子とのさっきの電話を思い出しながら、この時期の桜の開花に、去年までとは違う自分たちの変化を重ねていた。

ーほんと、きみたちふたりは妙なところが似ていて、変に優しいんだから。

 そう言って葉子は電話を切った。その最後の言葉から葉子の葛藤が明に伝わった。

 いくら暖冬とは言え、まだ桜の花びらが散るには早すぎる。それよりも桜が咲いていること自体が間違っている。
 でも、現実は今日のような暖かい日に、そっと風が吹くだけで、桜の花びらが宙を舞っている。
「早すぎるよ」
 明はひらひらと舞う花びらを目で追いながら、葉子との出会いを思い出してみた。
 明と祐二が葉子と出会ったのは、1年前の桜の満開の時期だったから。

「ねぇ、そこの高校生の男子、早く自転車どけてくんないかなぁ。悪いけど、急いでるのよね」
 駐輪場、そう言えば聞こえはいいが、単に横一列にすき間のないほど大量の自転車を並べているだけの線路沿いの自転車置き場、そこで明と祐二は突然、背後から声をかけられた。
「おねえさん、ちょっと待っててよ。今、出すからさ」と明。
ーあのとき、ハコは小さくため息をついていたなぁ。
「あーくんさぁ、チェーンロックの暗証番号何番にしたっけ」と祐二。
「自分の番号、もしかして、忘れたのゆうちゃん?」
「変えたばっかりだからさ」
「もしもし、きみたち。ほんとにその自転車、きみたちの」
ー不審がってたなぁ。もうちょいで警察呼ぶような感じだったもん。あれからほぼ季節もひとまわりってことか。
「おれんだよ、これは。ここに名前入ってんだろ。小早川祐二。鍵の番号をちょっとど忘れしただけじゃん」
「おー怖い。わたしに逆ギレされてもねぇ」
「おねえさんの自転車、どれ?先に出してあげるからさ」
「そうね、そうしてくれると助かるわ。自転車泥棒さんたちにかかわり合いたくないし」
ーあのあと、ハコが去り際に言い残した番号がなぜか正解だったんだよなぁ。
「小早川祐二くん、0426なんて番号かもよ」

 明は暖かい陽射しにつつまれた公園のベンチで桜の木を見上げ、携帯のメモリーから祐二の番号を呼びだした。
「散っちゃうには、早すぎるよな、ゆうちゃん」

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2007-03-11 15:15 | プロミス

プロミス #30


Cellular, originally uploaded by Basto.

 葉子から電話があった。
「会えない?」
ー会いたいよ、祐二。
ーいいよ。
 葉子の気持ちが聞こえた気がして、おれは心の中でそうつぶやいた。でも、
ーおれの気持ちはどこにあるんだろう。そんなことはわかっているはずなのに。
 おれはそんなことを同時に思う。
「元気?」
 何も答えないおれに、葉子は消え入りそうな声で、でも気持ちを振り絞って聞いてくる。
 おれは作り笑顔の声でかわしそうと、丸い声色で尋ね返す。
「そっちはどうなの?」
ー質問に質問で返さないで。もっと明るい話題に仕向けてよ。お願いだから、ほんとの笑い声を聞かせてよ。
「元気よ」
ー祐二、わたしはうまく笑えないよ。でも、さみしいって言えない。だって、、、
ーハコがさみしいときにはいつでもおれがそばにいてあげる、そう思いながらいつもハコを抱いていたんだよな。
 そんな今までのふたりの関係が、おれの背中を押してくれた気がした。
「会おう」
ーうん。でも。
「今から会おう」
「いいのかな」
ーほんとにいいのかな。会うともう電話もできなくなんないかな。最後になっちゃわないかな。
「別れるかも知れないね」
「うん」
ーやだ。そんなのやだ。嘘でもいいから、そんなこと言っちゃやだ。
「でも、わかんないんだ、正直に言うとね」
「知ってるんだよね。だからだよね」
ー明から聞いたんだよね。
ーあーくんからは聞いたけど、まだ半信半疑なんだ。それよりおれが今一番誰に会いたいか。
「ハコのこと好きだよ」
「、、、ありがと」
「大好きだよ」
ーそれでもだめなんだよね。
ーそれでも麗奈のことが頭から離れないんだ。
「会うと、仲直りできるかな。以前みたいに笑ってキスできるかな」
 おれはやっぱりうまく笑顔でかわせない。
「だめなんだよね、祐二」
 葉子の声が聞こえない。
「会いに行くよ。今から」
「会いたいけど。とっても会いたいけど」
ーやっぱり会ったら終わっちゃうじゃない。
 こんなにも葉子の気持ちが聞こえてくるのもはじめてだった。どうして聞こえてくるんだろう。こんなときこそ、聞こえないほうがいいのに。こんなときこそ、ケイタイから聞こえてくる声だけでいいのに。どうして今夜に限ってケイタイからの声、心の声、すべての葉子の声を感じることができるんだろう。こんなのフェアじゃない。
「終わらないよ」
「えっ」
 おれはきっと嘘をついてるんだろうな。
ーでも、会いに行くよ。
 優柔不断なおれがいる。
「待ってる。珈琲入れて待ってるね」
 ケータイ越しに涙をふく葉子の姿が見えた気がした。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2007-03-04 00:12 | プロミス