今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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プロミス #38


pill, originally uploaded by the amazing rollerina.

 電話を切って40分ほど待つと、玄関のドアがそっと開いた。
「祐二くん、いる?」
 おねえさんの声だ。
 葉子を起こさないよう、そっと玄関に行くと、おねえさんの後ろに人影が見えた。
ーあっ。
「わたしひとりじゃ難しそうな気がしたから」
ー祐二くん、知ってるよね。
 おねえさんの声が直接響いてきた。
「はじめまして」
「こちらこそ、やっかいをおかけします」
 おねえさんの横から一歩入ってきたその彼は、以前、カフェでおねえさんの肩越しに観察したことのある顔だった。
ー続いてたんだ。
 妙なことで、おれは安心した。

 彼氏は手に黒い底の深い革のカバンを持っていた。
「ドクターなの」
 おねえさんは小声でそう言うと、おれの後をついて、葉子とあーくんがいる部屋へ入った。

 葉子が薄目を開けている。意識が戻ろうとしているのか。
 彼氏は葉子、あーくんを一瞥すると、部屋の中をさっと見渡した。朦朧とした葉子の表情、お尻の辺りが染まったように濡れているあーくん、そして、流しのナイフが彼氏の目にも、おねえさんの目にも印象強く残ったのは間違いない。
 彼氏はあーくんの側に膝を落とした。
ーこの傷だったら、大丈夫だな。
 彼氏の声におれはほっとした。
「祐二くん、でいいかな」
 おれは彼氏に頷いた。
「きみの友だちの治療はするとして、彼女のことはどうしたい」
 おれよりも先にあーくんが口をひらいた。
「ハコには夢を見ていたと思わせたいんだけど」
 あーくんが真剣に言っている。
「おれがこのままだまっていれば、何事もなかったことにできるよね」
 あーくんの視線が彼氏からおれに向いた。
「ハコは何も知らない、全部が夢だった、怖い夢だったって思わせたいんだ」
ーいいよね、ゆうちゃん。
「できますか」
 おれは彼氏とおねえさんに頭をさげた。

「由香、ぼくの車からもうひとつのカバン取ってきて。後ろのシートにおいてあるから」
「どうするの」
「彼女はまだ朦朧としている。目が覚めきってないはずだから、少し薬を飲んで寝てもらおう」
「それで」
「部屋をきれいに片づけて、一旦みんな帰ろう」
 彼氏はおれの顔を見た。
「4時間後くらいかな。祐二くんはここに電話をして、彼女を起こす」
 おれは頷いた。
「何か理由をつけて、彼女に会いに来る。それで様子がおかしかったら、また連絡をくれ。曖昧な状態だったら、すべては夢なんだと、祐二くんから言い聞かせる。それで、どう」

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-04-28 15:01 | プロミス

きみのもしもし #12

 陽射しに誘われて、ひとり海岸通りを歩いていた。
ーずるいよ。
 きみからのメール
ー「どこでもドア」があればすぐそこにいけるのに。一緒にお散歩できるのに。
 そうだね。

 ぼくはベンチに座り、ケイタイを耳に当てた。
「もしもし」
 きみも
「もしもし」

 近くのカフェでひと休みをしていると、きみから笑顔いっぱいのメールが届いた。
ーいっしょだね。
 隣にいないはずのきみを感じた。
 春の陽射しは優しくぼくらを包む。
ー今度はちゃんと誘うからさ。
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by hello_ken1 | 2007-04-28 00:57 | きみのもしもし

きみものもしもし #11

 信号待ちの車の中からきみに電話をしてみた。
「いけないのよ」
「確かにね」
 この信号待ちは長い、少しくらいの会話はできる。
「どしたの」
 きみはそっけない。
「どうもしないけど」
 信号が青に変わり、先頭の車が動きだすのがわかる。
 ぼくは「またね」と電話を切った。
 数分後、きみからのメールがケイタイに届く。今度は車を左に寄せて停車させた。
ーありがと。
 タイトルだけのメールだけど、なんだかうれしい気持ちになるものだね。
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by hello_ken1 | 2007-04-22 16:24 | きみのもしもし

プロミス #37


I'll wait 'til you sleep, originally uploaded by swissrolli.

 葉子のマンションのドアを開けると、部屋の奥には目を見開いたまま視点の定まっていない葉子が壁にもたれていた。力なく座り込んでいる葉子の生気のない様子に、おれは手のひらが冷たくなるのを感じた。

「ゆうちゃん」
 玄関を上がり、部屋へ一歩近づいたところで、あーくんの声が聞こえた。覇気のない響きだった。ゆっくりと部屋に入いると、死角になっていたあーくんの足が見えた。

「早かったね。さんきゅ」
 左手にあーくんが座り込んでいた。あーくんは口元で薄く微笑むと、葉子を見るようにおれに告げた。
 微笑みながらも、あーくんはケイタイを左手で指が白くなるくらい強く握り締めている。葉子に目をやると、葉子も手にしているものがあった。
ーナイフ?

「何があった」
「たいしたことじゃないんだ。大騒ぎするなよ、ゆうちゃん」
 あーくんにもう一度問い正そうと振り返ると、おれはあーくんのおしりの辺りに目を奪われた。ジーンズが濡れたように染みている。

「あーくん」
「だからまだ大丈夫だって。それよりハコのナイフを。ゆーちゃん、頼む」
 あーくんが強くそのことをおれに求めている。
 おれは葉子に近づくと、ナイフを手にしている左手に触れた。葉子の手は小刻みに震えていた。
ーそう言えばハコは左利きだったな。
 冷静なおれがいる。不思議な感覚だった。

 震えている葉子の左手は、思いのほか、強くナイフを握り締めていた。でも葉子の視点はまだ定まっていない。
「ハコ」
 反応がない。
「ハコ、左手をおれに貸してくれないか」
 葉子がゆっくりとおれに顔を向ける。
「何もないよ。大丈夫だから」
 おれは葉子の頬に右手を添えた。
 いきなり葉子は窓ガラスを粉々に打ち砕くかのような叫びをあげた。
 おれは理性でそう動いたのではなく、反射的に葉子を抱きしめた。強く強く、葉子がおれのからだで我に返るよう、両腕で葉子を力の限り抱きしめた。ほんの一瞬の沈黙だったのだろうか、それとも深くて先の見えないほど長い沈黙だったんだろうか。沈黙の後、葉子がおれの胸の中で、小さく小さくなっていくのが感じられた。おれは葉子に頬擦りをした。
「ねっ大丈夫だろう。手を離すよ」
 葉子の耳元でささやいてみた。

 葉子はおびえた目のまま、頬を濡らし始めた。おれは葉子の鼻先に軽くキスをし、左手に手を添えた。
 ゆっくりと左手の指を一本ずつ開き、四本目の薬指を開いたところで、葉子が持っていたナイフをおれの手に移しかえた。そのとき、葉子の肩の力が抜けるがわかった。葉子は静かに目を閉じていた。

 壁に体重を預けている葉子のかすかな寝息を確認すると、おれは受け取ったナイフを流しに置いた。
「立てるか、あーくん」
「正直、辛いかな」
「とにかく止血はしないとね」
 おれは少し悩んで、でも、相談できるのはひとりしかいないと思った。
「助けを呼ぶよ」
「ふー、しょうがないね」

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-04-22 15:47 | プロミス

プロミス #36


Genie, originally uploaded by ukjc07.

 いつもの喫茶店で、おれはマスターと話していた。

「何だかうまく歯車が噛み合わないなぁ」
「噛み合っているのかも、な」

 葉子と別れて、何気に立ち寄ったこの店。
 入口のドアを開けた時、立ち寄れるところがあるのっていいなぁ、と感じた。
 マスターは
「いらっしゃい。久しぶりだね」
 それだけ口にして、夜の営業に向けて準備にとりかかろうとしていた。
「今日は天気よかったから、喉が渇いてるだろう」
 注文を聞くかわりに、
「悪いけど、冷蔵庫にあるもの何でも飲んでいいから、自分でやってくれるか」
 なぜかマスターの笑顔がうれしかった。

「ビールでもいいわけ?」
「いいよ、祐二が飲みたい心境ならな。無理しなきゃ、いいんだよ」
ーそうだよね、無理しなきゃ、いいんだよね。

 おれは冷蔵庫からジンジャエールをとりだすと、タッパに入っているスライスされた檸檬を1枚、グラスに浮かべてみた。
「いい選択だね」
 笑いながらマスターが近寄ってきて、キャップに一杯のジンを注いだ。
ーえっ。
「いいんだよ。このくらいは入れたか、入れてないか、わからないくらいなんだから。美味しいぞ」
 マスターはアイスピックと包丁で器用にアイスボールを作り始めた。

 静かな店内にマスターの氷を削る音だけが聞こえていた。
 おれは二、三口ジンジャエールで喉を潤した。確かに美味い。
 そして、ケイタイの着信履歴をもう一度、確かめてみた。あーくんから3回かかってきている。葉子の部屋についたとき、葉子と散歩にでたとき、葉子と握っていた手を離したとき、たぶんそのくらいの時間。そして、その3回目の着信であーくんは留守電を残していた。
ーだめだよ、別れちゃ。
 早足で歩きながら電話をかけているのがわかる。ざっざっざっ、と歩いている音があーくんの声と一緒に留守電に入っている。

「噛み合うってなんだろうね、祐二」
 マスターは手を休めて、ビールを飲みはじめた。
 おれもビールにすればよかったと思うくらい、美味しそうにマスターはビールを飲む。
「祐二は噛み合わないって、よくないことだと思ってんだろ」
「噛み合わない時も、噛み合わないことを気にする必要はないんだよ」
「それはスピードを落とせってことだけだから」
「スピードを落とすと、実は噛み合っていたってわかるから。不思議とな」
 独り言のようにマスターは言葉を重ねた。

 ケイタイが鳴った。あーくんからの4回目の電話だ。

「自分のスピードで、目の前のものをひとつずつ片づけて行く。あせんなくてもいいんだよ」
 マスターは視線でケイタイに出るように、おれに言った。

 かかってきたケイタイから、息遣いの荒いあーくんの声が聞こえてきた。
「今、どこ?ゆうちゃん」

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-04-15 17:54 | プロミス

プロミス #35


Spiraled Canopy, originally uploaded by jogales.

 麗奈は診療所を出ようとした時に、記憶の奥に残していた声が聞こえた気がした。
「ママ、何か言った?」
 振り返ると母親は診療所のスタッフに挨拶をしていた。
 父親は迎えに来た表の車の脇に立っている。

ー今の声は何?
 麗奈は自分に違う症状が出始めたんじゃないかと、手のひらが少し冷たくなるのを感じた。
 由香からの連絡だと、近いうちに祐二から電話がかかってくるはずだった。
 それを聞いてから、ずっと楽しみにしていたのに、一時帰宅の今日までナースステーションに電話の取り次ぎで呼ばれることはなかった。

「やっぱりかかってこないのかなぁ」
 麗奈は毎日、洗面やトイレに行くたびに鏡に映る自分の姿を見て、何度となくため息をついた。
「約束したわけじゃないけど」
 境内での、そして新幹線のホームでの祐二の顔を思い出してみた。
「もう少し待ってみよう」

 数日前、担当の先生から一時帰宅の許可が出たものの、もしかして祐二から電話があるとすれ違いになって、もう二度と連絡を取ってくれないようなさみしい気持ちに、麗奈は包まれ始めていた。
 だから、うれしいはずの一時帰宅も、今回に限っては後ろ髪を引かれる思いを断ち切ることができないでいた。

ーでも、やっぱり変。
 明るい診療所の廊下なのに、いつもなら療養している患者さんが数人でもいるはずなのに、ひとりもいないなんて。
 診療所の車止めのところにいる父親はタバコを吸っている、でも。 
 母親はスタッフに笑顔でふるまっている、でも。
 みんな、動きが止まっている。
 えっ、なに?
 誰?
 この声は祐二くん?
 ちがう。
 明くんだ。

 その瞬間、麗奈の目の前の光景は渦を巻きだした。
 麗奈はあわてて目を閉じ、診療所の廊下に座り込んでしまった。
 麗奈の頭の中に、時間が逆回転するフラッシュバックが数カット、飛び込んできた。

「大丈夫、麗奈」
 麗奈を揺らす温かい手、そっと目を開けると、母親が自分を支えていた。
 こっちに向って走ってくる父親の姿も見えた。
ーママ。
 唇はどうにか動くものの、声になっていないのが、麗奈にも分かった。
「いいのよ。安心しなさい。パパもいるから。ちょっとソファーに座ろうね。久しぶりの帰宅だから緊張しちゃったのよね」
ーこんなことは今まで一度もなかったよ。
 麗奈は母親にそうも伝えたかった。
 意識をしてゆっくりと呼吸をしながら、父親の手につかまりソファーに腰を下ろした。ソファーのひんやりとした感触は、麗奈を少しだけ落ち着かせた。

 麗奈は母親に肩を包まれながら、数カットのフラッシュバックを1枚ずつ、ゆっくり呼び戻してみた。
 そのすべてのカットに明が映っていた。小学生の時、見送ってもらって以来だが面影はあった。
ーあぁ、明くんだ。
 懐かしく思えた麗奈が、逆回転での最後のカット、たぶん一番最初のカットを記憶から呼び戻した時、麗奈の足下は再び急に勢いよく、渦を巻き始めた。

「ママっ」
 麗奈にはもはや母親しか見えなかった。
「ママっ、明くんが」

 最後に麗奈が呼び戻した記憶のカットは、明が見えないくらい真っ赤に染まっていた。

(続く) 
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by hello_ken1 | 2007-04-08 14:46 | プロミス

プロミス #34


Prunus spachiana, originally uploaded by kaycat.

「ねぇ、最後の桜かな」
「そうだね」

 おれは葉子が組んできた腕をそのままに、ゆっくりと桜並木に沿って歩いていた。

「今日がきっと満開なんだ」
「うん」

 葉子は頬を、おれの腕につけてきた。柔らかいぬくもりがおれを一瞬、勘違いさせる。

「ばかなことしちゃったね、わたし」
「否定はしないけど、ハコだけのせいじゃないでしょ」

 葉子がおれの腕をぐっと力をいれてつかんでくる。

「せめて否定してよ」
「そっか」

 葉子がそう言って、笑っている。
 おれも、そんな葉子の口元をみて、笑顔になるのを感じる。

 満開の桜は、そよ風でもはらはらと花びらを風に乗せる。
 そして、桜並木は桜の淡い香りで満ちあふれている。

「祐二は明とうまくやっていけるの?」
「どうだろう。わかんないけど、これだけは果たさなきゃって約束がひとつだけあるから」
「ふーん」
 葉子が唇をとがらせる。
「それって、麗奈のことでしょ」
 葉子がやきもちをやいている。
「そうだよ」
 おれの腕をつかむ葉子の力が少し弱くなるのが分かる。

「しょうがないなぁ、きみたちは」
 少し大人びた表情で、葉子がおれの顔を見る。
「あの頃の約束には、勝てないのかなぁ。ねぇ祐二」

 確かに、麗奈とあーくんとおれが、直接約束したわけじゃない。
 新幹線のホームで麗奈を見送った後の、あーくんとおれの約束だ。
ー会いに行こうぜ。
 小学生の時のたったひとことの約束。

「でも、なんとなく感じてたんだけど、明は祐二のために麗奈を探してるんじゃないかって」
「えっ」
「麗奈と祐二って、明に何か隠してない?」

 おれは麗奈に神社の境内に呼び出されたあの日のことが脳裏をよぎった。
 葉子は最後のデートを楽しもうと、ますますぴったりとおれに体をつけてくる。

「いいの、そんなことは。今日はわたしだけの祐二なんだもんね」
 そして、もうひとつ、葉子の声がおれに響いてきた。
ー明さえいなかったらなぁ。

 おれは葉子の肩に回そうとしていた手をとめた。
ー今、明さえいなければ、わたしと祐二は続けることができるのに。
 葉子はおれに薄く微笑んでいた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-04-01 18:22 | プロミス