今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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プロミス #42


zutto zutto issho, originally uploaded by oceanT.

「なんかまだ頭がぼーっとしているの」
 Tシャツに短パン姿の葉子が、おれを部屋に通す。
 数時間前に薬を飲ませて、おねえさんに着替えさせてもらったままの格好が、寝ぼけ眼の表情と相まって、とっても艶っぽい。
「あと三十分だけ寝てもいいかなぁ」
 葉子があくびを飲み込もうとしているのがわかる。まだ薬が残っているのだろう。
「いいよ。気にするなよ。モンブランは冷蔵庫に入れておくね」
「なんだっけ、モンブランって」
ーえっ。
「買ってきたよ。あとで一緒に食べよう」
「目が覚めても、祐二はそばにいるよね」
 最後の方は聞き取れないくらいの声、でも葉子の目はうっすらと開いている。睡魔に完全に吸い込まれる前、残っている少しの意識で葉子がおれを見つめている。

 その眼差しに、そのうっすらと開いた目に、おれはふと違和感を感じた。
ーアイニコナイ。
 葉子の体から、いや、その視線から声が聞こえた気がした。おれはまた心の声にふれたのだろうか。
ーだから会いに来たのに。なのにわたしだと気づかないのはなぜ。
「ハコ、どうした?」
 おれは葉子の顔をのぞき込んだ。
ーきみも明くんと同じ。わたしだと気づかない。
 ほとんど眠っているはずの葉子の口元が、異様につりあがり、笑っている。
 葉子を起こそうと、肩に手を伸ばすと、反対に葉子がおれの手首をつかんだ。指の跡が手首につきそうなくらい強いつかみかただった。
「安心していいよ、手首を離してくれないか、ハコ」
ーまだ間違えてる。気づかないの。
 葉子はおれの右手首をつかんだまま、自分の左胸に押し当てた。
ー柔らかいのはいつも祐二くんが触っていたハコの肉体。
「麗奈?」
ーでも今、ハコの心はわたしが借りて、祐二くんに話しかけているのよ。
 昼間のショックが葉子に麗奈を演じさせているのか。それとも本当に麗奈なのか。おれは今の自分の心臓の鼓動が、目の前の女性に伝わらなければよいなと思った。
ー明くんは最後まで信じなかった。わたしが麗奈ってことを受け入れなかった。
 あーくんは何を見たんだ、いったい。
ーだから教えてあげたのよ。ハコだったらこんな馬鹿なことはことはしないでしょって。
「あーくんに何をしたんだ」
ー祐二くん、わたしは誰でしょう。
「ハコ、あーくんと何を話したんだ」
 一瞬、ノイズだらけのラジオのように音声が途切れた。
ーどうして、ふたりとも、わたしを信じないの。どうして会いに来てくれないの!

 葉子は寝息を立てている。
 おれは赤く指の形が残っている右手首を見ながら、数分前に聞こえてきた声に考えを巡らせていた。
ーここで本当に何が起こったのだろう。あーくんは何を知っているのだろう。麗奈は大丈夫なのか。ハコは元気に目覚めてくれるだろうか。
 葉子が少し寝返りをうち、こちらに顔を向けてきた。葉子は眠ったまま微笑んでいる。
 おれはそんな葉子のそばにいて、葉子に何よりも微笑んでいて欲しい、それだけははっきり言えると、葉子が目覚めたら、世界中の誰にでもそう言えるとこの子に約束しようと、そう思った。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-05-27 10:29 | プロミス

きみのもしもし #14

「わたしはあなたのいうことをきくでしょ」
ーそうかなぁ。
「だからあなたもわたしのいうことをきくべきよ」
 そういってきみは一方的に電話をきった。
 そしてきっちり五分後のきみからのメール。
ーもしもし。だから今夜はメールもいらないから、早くゆっくりおやすみなさい。
 そう言えばきみはメールにも「もしもし」ってつけるんだよね。
 したったらずのきみの「もしもし」がメールからでも聞こえてきそう。
 もしもし。おやすみなさい。と口ずさんでみる。
 今夜は素直にきみの言うことをきくことにします。
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by hello_ken1 | 2007-05-25 01:27 | きみのもしもし

プロミス #41


at teatime, originally uploaded by yugoQ.

ー鍵は開けておくね。そんなに遅くならないよね。もう少し横になってるから。
ー体調悪いの?
ー大丈夫だと思うけど、なんとなく体全体がだるいのよね。
ー食べたいものあるかな。
ーモンブラン。
ーどこのがいい?
ーどこのでもいいよ。ちょっとでも早く会いたいから。
ーわかった。でも、鍵はかけときなよ、ぶっそうだから。
ー、、、
ーどうした?
ーおかしいよ、変だよ、やっぱり。
ー、、、
ー優しすぎる。もともと祐二は優しいけど、今のわたしたちの関係だと、これじゃ優しすぎて、友だちになれないよ。
ーそうかな。
ーそうだよ、祐二。
ーモンブラン、おれが食べたいから、じゃだめかな。
ーだめ。
ーそっかぁ。
ーキスして。
ー、、、
ーあっ、困ってる。
ーキスしたら、友だちになれないよ。
ーだって、戻りたいんだもん。彼氏と彼女に戻りたいんだもん。
ー、、、
ー、、、
ーとにかく、横になってろよ。モンブラン、買ってくから。
ーすぐ来てくれるの?
ー自転車飛ばして行くから。
ーモンブラン、つぶさないでよね。
 葉子の少しだけほころんだ口元が見えた気がした。

 きっと少しはつぶれてるよな、そんなことを思いながら、おれは葉子のマンションを見上げる歩道に自転車を止めた。陽は長くなり、オレンジ色の陽射しがガードレールにチェーンをかけた自転車を不思議な黄色に染めあげる。
 モンブランが入った紙箱をこれ以上揺らさないように左手でしっかりと持つと、エントランスのインターフォンで葉子の部屋番号を押した。
 返事がない。
 もう一度、番号を確かめながら、数字をゆっくりと押す。いつも押している番号だから、間違いようはないはずだ。そのことが余計におれを不安にさせる。
 でも、やはり返事がない。
 ポケットからケイタイを取り出し、葉子の番号にかける。呼び出し音がとても長く感じられる。いつまで呼び出しているんだろう。この番号はもはやこの世に存在せず、葉子の存在もなく、ただおれは意味もなく番号を押し続けている、そんな不安に包まれていった。

「もしもし」
 留守電サービスに切り替わった直後だった、寝ぼけた葉子の声がケイタイから聞こえた。どんな声であろうと、葉子の声である限り、それはおれを十二分に安心させる。
「着いたよ、約束のモンブラン」
「ん」
 葉子がベッドから起きあがる音だろう、シーツの擦れ合う音が妙に優しくおれの耳に届いた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-05-20 18:22 | プロミス

きみのもしもし #13

 朝、シャワーを浴びて、バスタオルを頭に乗せて、きみにメールする。
ーはろはろ。今日は母の日だよ。
 ラジオをつけて、パンを焼く。珈琲豆もカンから取り出す。
 ラジオからは世界中の母に捧げる音楽が届けられる。
ーもしもし。これからママに電話するんだ。BGMはあなたのマックに送ったげる。
 マックを立ち上げ、きみからのメールを受信する。
 受け取った音楽ファイルをクリックすると、さっきラジオで流れていたあの曲がかかった。
ーはろはろ。もしかして、ラジオ聴いてるの?
 きっとそうなんだろうな、と勝手に思って、ぼくは焼き上がったパンを頬ばった。
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by hello_ken1 | 2007-05-13 19:56 | きみのもしもし

プロミス #40


42-15299044, originally uploaded by ccpengpeng.

 麗奈は受話器に意識を集中させて、由香の息遣いまでも聞き取ろうとしていた。

「ほんと何もない?」
「何もないわよ」
 精一杯、淡々と答えられたと由香は思った。

「診療所の廊下でね、真っ赤になって倒れる男の子が見えたの。はじめ祐二くんかと思ったんだけど、明くんなの」
「小学校のときの記憶じゃないかな」
「うぅん、そんなことない。高校生くらいの男の子だったもの。高校生になったふたりにまだ会えていないから、確信はないんだけど」
 少し間があった。麗奈の心配そうなため息が聞こえてくるようだった。

「わたしずっと診療所だから、そんなに友だち多くないし。うん、いないって言ったほうがいいかな。だから、見えた男の子は祐二くんか明くんのはずなの」
ー安心させなくちゃ。落ち着かせなくっちゃ。
 由香は言葉を選んでいた。
ーうん。
「そう。きっとふたりに会いたい気持ちと、会った時の不安が入り混じって、そんな光景がレイを包んだんじゃないのかな」

 麗奈は受話器を強く耳に当てていた。
ーおねえさんはいつも優しくわたしをレイって呼んでくれる。変わらない優しい由香ねえさん。
 受話器を持つ手を少し緩めた。

「わたしに聞こえてくる情報って、ママとパパ、それと診療所のスタッフ」
「そうだね」
「診療所に一緒に入っているみんな」
「うん」
 由香は少し胸が締めつけられる思いがしていた。
「そして、由香ねえさんからなの」
 だまって由香は頷いた。

「由香ねえさんがほんとうのことを言ってくれないと、わたし、この世界とつながっていけないの。由香ねえさんがわたしの世界の窓口なの。だからお願い」
 麗奈の声が震えはじめて、由香はそんな麗奈を力の限り抱きしめてあげたい感情に駆られた。
「わかっているわよ」
「由香ねえさん、だったら」
「大丈夫よ。何もないと思うわ」
 こう言うしかないと思った。

「でも、念のため、祐二くんに明日にでも確認しとく。ね。それでいいかな」
 病院で彼氏が明くんの母親にどう説明したか、に合わせる必要がある、せめてそのくらいのつじつまは合わせておかないと。
「ごめんなさい。面倒ばかりかけてるね」
 麗奈が鼻をすする音が聞こえた。
「面倒じゃないよ。そんなことないよ。それより早く遊びにいらっしゃい。実物のふたりに会えるわよ」
 うん、と麗奈の消え入るような声が聞こえた。
「でも、行けるかな」
「自宅に戻れたんだから、来れるわよ。きっと。待ってるわ。約束ね」

 麗奈が遊びに来るのは、明が退院してからの方がいいと思いながら、由香は受話器を置いた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-05-13 19:33 | プロミス

プロミス #39


Waiting for Mama, originally uploaded by manfrommanila.

「ああ、由香ちゃん、おばさんだけど」
 由香が彼氏の病院に明を入院させ、自宅に戻ると電話のベルが鳴っていた。
「今、話せるかしら」
「大丈夫よ。さっきまでちょっとバタバタしてたけど、もう平気」
「麗奈なんだけどね、今、ここにいるの」
 由香の心にほんの少し不安が芽生えた。
「明後日、由香ちゃんとこに麗奈と一緒におじゃまするはずだったじゃない」
ー祐二くんを驚かそうと思っていたけど、さっき伝えるべきだったかな。
「麗奈の調子がね」
ーいや、さっきの状況じゃ、とても言えなかったわ。
「ちょっと落ち着かないのよ」
ーえっ。
「おばさん」
「さっきね、一時帰宅で診療所を出ようとしたらね」
「もしもし、由香ねえさん?」
 いきなり割り込んできたその声は、由香を驚かせた。

 明は病院のベッドで静かに白い天井を見つめていた。レースのカーテンがそっと揺れ、明に心地よい風を届ける。
ーちょっと疲れちゃったな。
 天井に向って、つぶやいてみた。
 疲れたのは、葉子やゆうちゃんに対してではない。自分の母親に対してだった。
 おねえさんの彼氏の説明に合わせて、だまって頷く。それだけでよかったはずが、こんなときに限って普段会話のない分、いろいろいああだこうだと言われる。母親って存在は心配の塊だってのはわかっているつもりでも、いざこの体調のときに言われると、気がめいるものだ。

「そう、自転車で飛ばしていてちょっとよそ見したんでしょう。倒れた先に鋭利なものがあった。こう言っては何ですが、傷は浅いので内臓への損傷はないですし、とてもきれいに切れていましたので、安心してください」
 彼氏はにこやかに明の母親に説明してくれた。
 母親は何度も何度も彼氏に頭を下げお礼を言うと、ベッドに横たわっている明に向って半分怒った顔、半分涙目の顔で、いろいろと小言を言いだした。
 彼氏も男だから、母親の小言ほど苦手なものはないのは分かるのだろう。
「おかあさん、命にはまったく別状はないし、高校生の頃は素直に親御さんの言うことには耳は貸しませんから」
 母親の小言をやんわりと遮ってくれた。
「念のため1週間ほど入院していただきますね」

「レイ?元気なの?久しぶりね」
「うん、元気だったんだけど」
「だけど、どうしたの?」
「由香ねえさんの周りで変なこと起こってなぁい?」
 由香は眉間にしわを寄せた自分に気がついた。
「どうしたの一体。久しぶりの電話でいきなり」
「おねえさんの周りって言うよりね、明くんか祐二くんに何か変わったことなかったかな」

 その頃、おれは葉子に電話をかけていた。
「寝てたの?起こしちゃったかな」
「うぅん、大丈夫よ。それより」
ー何かあったのかな。今のわたしたちの関係で祐二が電話をしてくるなんて。
「何もないけどさ。なんとなく。なーんとなくさ」
ーそうかなぁ。
「あのね。明はどうしてるか分かるぅ」
 葉子の突然の切り出しに、一瞬身構える自分を感じた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-05-05 14:46 | プロミス