今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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プロミス #47


new memo pad, originally uploaded by hello.ken1.

「小早川くん?」

 葉子のマンションで葉子の胸をさわっていると、おれのケイタイが鳴った。無視してもよかったんだが、いつもの着メロなのに、妙に心細さを感じさせる響きに聞こえた。葉子も同じように感じたようで、「出なよ」とおれに告げた。

「はい、そうですけど」
 おれのことを名字で呼ぶ女性はそう多くない。
「泉堂ですが。明の母親です」
 このケイタイにあーくんの母親からかかってくるなんて、今までほとんど記憶がない。おれは少し眉をひそめた。
「明は一緒にいますか」
 おれの知っているあーくんの母親の元気のよい声色ではなく、心配でくずれそうな響きでいっぱいだった。
「探してるんだけど、ケイタイに出てくれないの」
「いえ、一緒じゃないし、今日はまだ会ってませんよ」
「どこか行きそうな心当たりはないかなぁ」
 あーくんがひとりでふらりと立ち寄るような場所は、あのマスターがやっているカフェくらいしか思いつかなかった。
「人に会ってくる、とメモ書きがあって、夕べから連絡がつかないの」
ー人に会ってくる。
 その一言が、一瞬おれの動きを止めた。
ー人って、もしかして。
「他に何か思いつくことってありますか。立ち寄りそうな場所はひとつだけ心当たりがあるんだけど、メモに人って書いてあるんですよね。それ、気になるなぁ」
 母親は躊躇しているようだった。
「先日、病院へ一緒に行ってね、明の病気のことをわたしと明で聞いてきたの」
ーあーくんの病気?
 それからのあーくんの母親のむせび泣くような声がケイタイ越しに聞こえてた。それは溜っていたものが堰を切ったように、とめどなく続いた。
 とにかく途中で言葉を挟むことはせず、母親が落ち着くまで、そのままおれはケイタイを耳に当てていた。ただおれ自身もふらふらと体が宙に浮いているような、現実感のない時間だった。
 ひとしきり母親の溜っていた物が出尽くしたと思われた時、
「心当たりをあたってみて、何か、ちょっとしたことでも分かればすぐ連絡しますね」
 と月並みな台詞で、おれはケイタイを切った。

「誰だったの?」
 ほとんど頷くだけの会話を見ていた葉子の声から、彼女の不安が感じられた。おれは葉子に端的に内容を説明したが、あーくんの病気についてはふれないままにしておいた。
「たぶん」
「たぶん?」
「いや、きっとだな。あーくんは麗奈に会いに行ったんだ。それもひとりでね」
 葉子がわからないといった目をする。
「一緒に行く約束じゃなかったの」
「そのはずだったんだけど」

 おれはもう一度ケイタイを手に取ると、おねえさんの番号を呼びだした。
ーきっとあーくんはおねえさんから麗奈の診療所の場所を聞きだしたんだろうな。
 ケイタイがおねえさんを呼びだしている音が響く。でも、おねえさんはなかなか出ない。
 必要な時につながらないケイタイは、おれの手の中でとてもひんやりとしていた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-06-30 15:29 | プロミス

プロミス #46


Kiss, originally uploaded by urbanphotographer.

 小学校の裏に新しいカフェがオープンしていた。テラスでは、椅子を引いて足を組んでも、となりの客が気にならないほどテーブルとテーブルの間隔が広く、プライベートな話も気兼ねなくできそうだった。

「これからまた病院に行くんだけどね」
 あーくんがそろそろ時間だ、と話題を変えた。
「まだ傷がふさがっていないの」
 心配顔の葉子にあーくんは慌てて言葉を続けた。
「自転車でこけたときに切った傷はもう大丈夫だよ。けど衝撃はあったわけで、そっちの方の再検査かな」
「病院、今日やってんのか」
「おねえさんの彼氏が特別にやってくれるってさ。傷の入院で学校やんじゃったから、平日病院に行ってこれ以上欠席が増えないようにの計らいかな」
「今更出席日数気にしてもしょうがないだろうに」
「母親が気を使うんだよ。日数不足で留年したんじゃ世間体が良くないだろ」
「他の病気が発見されてたりして」
 おれは冗談を口にしながら、小学校の校舎の屋上から階下を一気にかけおりたあーくんがその後、何気ない平坦な場所で崩れるように膝を突いたのを思い出していた。
「よしてよ。明は退院したばかりなのよ」
 葉子は口をとがらせ、まだ心配そうな表情をしている。
「ハコを安心させるためにも、ちょっと行ってくるよ」
「結果はちゃんと教えてよ」

 カフェに残った葉子とおれは、見つめ合っていた。はにかんでいる葉子の瞳に、おれが映っているのがわかる。
ー抱かれたいなぁ。
 葉子の声が聞こえた。
ー乱暴にでもいいから、抱かれたいなぁ。
 葉子の足がおれの足に触れた。
「どうしよっか」とおれ。
「どうしたい」と葉子。
 おれは屋上でのあーくんの言葉を思いだした。
ーハコと寄りを戻してくれないか。
 あーくんに言われるまでもなく、おれの気持ちは固まっていた。
「もう一度さ」
ーえっ。
「もう一度、はじめからやり直さないか」
ー友だちから?
ー違うよ。
「つきあおうよ」
 不安げな葉子の瞳がおれを見つめていた。
「いいの?」
「つきあいたいんだ、ハコと」

 おれは葉子ともう一度彼氏と彼女の関係をはじめようとしている。
 でも、それを続けるためにも、もっともっと葉子を安心させるためにも、あーくんと一緒に麗奈に会いに行かなくちゃ、と心に決めていた。おれたちはずっと麗奈に会おうとしていたし、麗奈もおれたちとの再会を待ち焦がれている。そして、あの頃の麗奈の笑顔を、おれたちの麗奈を取り戻すためにも。

「ハコ」
「ん」
 テーブルをはさんで、おれと葉子は唇を重ねた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-06-24 07:21 | プロミス

きみのもしもし #17

ー今夜の月もきれいだね。
 雲の切れ間から姿を現した三日月を見上げて、そう思った。
 ベランダのテーブルにはキャンドル。右手にはよく冷えた白ワイン。
「もしもし」
「ん」
「お月さま、三日月だけど、綺麗だよ」
「そうだね。ぼくも今見てるんだ」
「わたしも見てる」
 見渡せる街も心なしか、静かに月を楽しんでいるように思えた。
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by hello_ken1 | 2007-06-24 07:13 | きみのもしもし

プロミス #45


good morning. :D how u r ?, originally uploaded by hello.ken1.

 おれは退院したばかりのあーくんと小学校の屋上へ来ていた。
 校庭では葉子がゆっくりとブランコを漕いでいる。

「変わってないね、昔のまんま」
 あーくんが屋上の柵に腕を載せ、静かに口を開いた。
「まさか、屋上のドアの鍵が開きっぱなしまで、昔のまんまだなんてね」
 ふたりして苦笑した。
「不用心だけど、平和だって事じゃないかな。ここから飛び降り自殺したやつなんて聞いたことないもんな」
 あーくんは柵から身を乗り出す仕草をしてみせた。

「結局、麗奈はまた診療所に戻ったそうだよ。おねえさんがそう言ってた」
「麗奈に何が起こったんだろうね」
「でも、おれたちが思っている以上に麗奈はおれたちのことを思っていたんだよ」
「かなりね」
「おれたちはどうだったんだろう」

 あーくんが空を見上げた。おれもあーくんの視線を追うように柵に背をもたれ、空を見上げた。空にはうっすらと雲がかかっていたが、その薄さ加減が空の青色を優しくさせていた。

「もうちょっとだったんだよ。あと一歩で」
「そうだよね。ずっと誰も教えてくれなかったところから、手かがりまでつかんだんだもんな」

 それでも間に合わなかった思い、それでも届かなかった気持ち、今日の心地よい屋上の風だけがせめてもの救いのように感じられた。

「ハコはもう忘れてるよ。忘れてると言うより、ほんとに何も知らないって感じ。あえて言うなら、怖い夢を見たって記憶かな」
「自分がおれを刺したって言う夢かい」
「いや、誰かがあーくんを刺したのをそばで立ちすくんで見ていたって夢だな」
 あーくんはほっと胸を撫で下ろしたようだった。

 そして、ばつの悪そうな顔つきで校庭の葉子に目をやった。
「今日もおれがハコを呼んだんだけどさ」
「以前のようにね」
「今更おれがこんなことを言うのも何々だけど」
「よりを戻せって、言いたいんだろ」

 おれはあーくんの心の声だけは今まで一度も聞いたことがないし、そのわけはわかっていなかった。もともとあーくん以外の人の心の声が何故聞こえてくるのかもよく分かっていない。
ーあーくんの心の声は聞く必要がないんだ。だって、おれはあーくんの思っていること、考えていることがわかるんだもん。おれとあーくんはそのくらい親友なんだから。だから聞こえてこなかったんだ。
 おれこそ今更ながらに、こんなに長くあーくんと付き合ってきたのに、ようやく謎が一つ解けた気がした。

「うん、よく分かったね。そうなんだ。ハコとよりを戻してくれないかな」
 おれたちふたりの視線を感じたのか、校庭にいる葉子がブランコに乗ったまま手を振っている。大きく大きく手を振っている。
ーそろそろ、降りてこないのかなぁ。
 葉子の心の声が聞こえた。

「ねぁ、あーくん。昔よく似た光景があったね」
「ブランコじゃないけど、校庭には笑顔の麗奈がいた」
「戻れるかな」
「戻ろうよ」
 おれとあーくんは頷き合うと、よーいどんっで、屋上を後に競争で階下を駆け降り、校庭へ向った。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-06-17 13:45 | プロミス

きみのもしもし #16

「もしもし」
「。。。」
「もしもし」

「知ってるよ」
ーうん?
「今日がこれから暑くなるのも」
「、、、」
「今日がやっぱり会えなくなったのも」
―うん。
「でも それが今日。そんな日もあるよね」

 ごめん、と一言、ぼくはケイタイをテーブルに置いた。
ー今日、もしもしって言ったのは、ぼくだけだったね。
 なぜかそんなことが気になった。
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by hello_ken1 | 2007-06-17 10:18 | きみのもしもし

プロミス #44


fallen and forgotten..., originally uploaded by jojoro.

「おかあさん、正直、信じがたいとは思いますが、」
「先生、止めてください。ひとりっこなんですよ」
 明の母親と由香の彼氏をとりまく空気は、すでに流れを止めていた。
 休日の診察室で、母親と彼氏が静かに言葉を交わしている。
 今にも壊れそうな母親、できるだけ事実を正確に伝えようとする彼氏、すでに言葉は行き詰まりかけていた。

「セカンドオピニオンってご存知ですか」
「言葉くらいは」
「もう少しわたしの方で検査してみますが、もし結果にご納得いかないようであれば遠慮なく言ってください」
「あとどのくらいあのこは」
「詳しくはこの後の検査でわかると思います」
「先生の今の考えでいいんです。あのこは、明は、あとどのくらい笑顔でいれますか」
「それがわかるためにも、このまま検査をさせてください」

 明の母親は診察室を出ると、携帯電話を取りだし、フランスに単身赴任している夫に電話をしてみた。
ーいつも肝心な時にあなたは電話にでないんだから。
 母親は夫の留守番電話に、メッセージに気づいたら折り返し電話をくれるように伝言を残した。

 個人病院と言えども、それなりの広めのロビーで母親はひとり、つながらない携帯電話を持ったままソファーに腰かけていた。病院の診療は休みのため、ロビーの電灯は半分が消えている。少し薄く暗い中で、母親は何を見るともなしに、足先のその先の床を見ていた。床はきちんと清掃されているようで、電灯の明かりを反射している。
ーこの病院はちゃんとしているのねぇ。床もきれいだし。
 母親は何かにすがりたい気持ちで一杯だった。

「おはようございます」
 反射的に涙をぬぐい、母親が顔をあげると、由香が立っていた。
「お早いですね。もう明くんも起きてますよ」
「あなたは」
「明くんの友だちの祐二くんの友だちです。明くんのお母様ですよね」
「あっ、明の入院のときに先生に口を効いていただいた」
「はい、あの先生とも知り合いですから」

 母親はこの女性にいっそのこと今の気持ちを聞いてもらおう、聞いてもらって少しでも気を楽にしてもらおうと思ったが、その気持ちはすべて飲み込むことにした。

「失礼ですが、あの先生は優秀なんですよね」
「優秀かどうかはよくわかりません。でも、患者さんのために一生懸命になるひとですよ。まだまだ若いので頼りなく映るかも知れないけど、経験が足りない分はその一生懸命さで十分おぎなっていると思います。だってわたしとのデートより患者さんとの会話をとるひとですから」
 由香の苦笑は、明の母親に十分な安心感を与えた。
「そう、優秀な先生と言うより、いい先生じゃないかな」
「わたし、いい先生が明の担当でよかったです」
「それは先生に言ってあげてください。よろこびますよ。あっ、ちょっとごめんなさい」
 由香の携帯がふたりの会話に割り込んできた。
「うわさをすれば何とやらです。ランチのお誘いかな。先生がわたしに会いたいそうです。ゆっくりデートもできないみたい」

 軽やかな足取りでロビーを去って行く由香を見送りながら、母親はゆっくりとソファーから立ち上がった。
ー笑顔、笑顔。
 母親はやんちゃだった小さい頃の明を思い出しながら、病室へと向った。
 
(続く)
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by hello_ken1 | 2007-06-10 11:38 | プロミス

きみのもしもし #15

「週末は何をしてるの」
 さっきまではしゃぐように話していたきみの言葉が止まった。
 このケイタイの先には、きみとも、そして誰ともつながっていない様。

「どうしてかなぁ」
 きみの不機嫌そうな、さみしそうな声。
「そんなこと聞かないでほしいな」
 そして、きみは優しく言葉を続ける。
「週末はあなたと一緒にいたいんだから」

ーそうだよね。だから電話をしてるんだよね。
 会えない週末、きみとぼくはもしもしで一日をはじめる。
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by hello_ken1 | 2007-06-10 09:36 | きみのもしもし

プロミス #43


The Waiting, originally uploaded by nailbender.

 明が夢から目覚めると、朝日の差し込む窓側に由香が立っていた。
「おはよう、明くん。よく眠れたかな」
「ああ、おねえさんか。おはようございます。痛み止めが効いたのかな、夢まで見ちゃいましたよ」
 寝ぼけ眼の明は、朝日の逆光で輪郭がぼんやりと映る由香を、不思議な感じで見ていた。
 由香は包まれた光の中から動こうとはしなかった。

「今、何時ですか」
 明のその問いかけに、由香は答える気がないようにうっすらと微笑んでいた。
「まだ早い時間なんですよね」
 由香はだまって頷いた。
「何かありましたか」
 由香は窓枠に背もたれると、静かに明に話しかけた。

「どうして昨日は信じてくれなかったのかな」
 いつもの由香の声と違う、その声色に明は背中に冷たいものを感じた。
「わたしにあそこまでさせなきゃ、信じてくれないのかな」
「、、、麗奈」
「昨日は最後まで信じなかったのに、今日は素直に信じるんだ」
「まだ信じてないよ」
「でも、今、わたしの名前を口にした」
 明は由香が手に何か持っていないかを、視線だけで確認しようとした。
「明くんも祐二くんも信じてくれなかったから、また夕べ、ママを傷つけちゃったじゃないの」
 由香の両手は腰に隠れていた。単に後ろに回しているだけなのか、それとも昨日の葉子みたいに危ないものを持っているのか、明はゆっくりと視線を由香の顔に戻した。
「窓ガラス割っちゃったし、これでまた診療所に戻されるわ」
「おねえさん、麗奈のこと何を知っているんですか」
「だから、わたしが麗奈だって言ってるでしょ」
 上半身を前のめりに、きつい口調で明に吐き捨てた。
「会いに来てくれるとずっと思っていたのに、ずっとずっと待っていたのに、明くんも祐二くんも誰も会いに来てくれない。電話も手紙も全然ない」
「夢を見たんだ」
 隠れていた由香の手もとに朝日の反射で光るものが見えた。
「麗奈とゆっくりと話をしている夢を。何を話しているってわけじゃないんだけどさ、そこにはゆうちゃんもいて、3人が笑顔で輪になっていて」
「そんなわけないじゃない。ずっと待ってたんだもん、ひとりだったんだから」
「そうだよね。でも夢の中じゃ、小学校の時遠くからおれが見ていた麗奈の笑顔がそのままで、屈託もなく笑っているんだ」
「ずっと待ってても来てくれないから、ようやく外出許可がでたのに、ママをガラスの破片で傷つけちゃったから、また診療所に連れ戻されるわ」
「ママは偶然だってわかってくれてるよ」
 明の言葉を遮るように、絞り出す声が続いた。
「ちゃんとわたしに言ってよ。ちゃんと約束してよ、ぜったい会いに来るって、わたしのこと忘れてないって、ずっと忘れないって。約束してよ」

 朝日の差し込む角度が少し変わったのだろう、由香の表情がわかるようになった。そして、由香が右手首につけている銀のブレスレットがその光りを反射していた。
 明は、きょろきょろして落ち着かない由香にそっと話しかけた。
「麗奈の夢を見たよ。早く会いに来いって、麗奈が夢の中で言いに来たんだ」

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-06-03 10:16 | プロミス