今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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きみのもしもし #22

 ハッピーバースディと言いそびれてしまった。
 ぼくの誕生日のサプライズへのお返しに、日付が変わったその瞬間、ぼくもきみにおめでとうを言おうと思っていたのに。
ーもしもし。
 どう切り出そうか。
 もしもしとメールを書き始めて、削除した。やはりこんなときはメールじゃだめだ。
 もしもしとケータイにかけてみる。でも、きみが取る前に呼びだしを止める。
 どう切り出そうか。
ーもしもし。誕生日おめでとう。
 今日はまだ6時間残っている。
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by hello_ken1 | 2007-07-28 16:53 | きみのもしもし

プロミス #51


*, originally uploaded by .

 婦長の言った通り、中庭を離れると潮の香りが明の体を包んだ。そして、足元には優しい潮風が吹いていた。
 明の先方は一面の芝生の上にすぐ空が広がっている。その先から風が香りを運んできている。それはその芝の先が行き止まりで、眼下に海が広がっていることを、明に容易に想像させた。
 明は芝生の先にいくつかのベンチがあることを確認すると、今、通ってきた中庭を振り返った。
ーあれ。
 中庭は、いや中庭を囲む診療所をふくめて、霞がかかったようにかすんで見え、またゆらゆらと揺れているようにも感じられた。
ーまたかよ。
 最近この感覚がよく明に起こる。明は単なる夏バテかと思っていたが、どうもそうではないらしい。明はおねえさんの彼氏の診断を思い出した。そのとき、聞き覚えのある声が、肩越しに聞こえた。
「心配事でもありそうね、明くん」
「れいな?」
 聞き覚えのある声に振り返ろうとして明は、膝の力が抜け自分が崩れて行くのを知った。真っ白になる風景に自分を見つめているであろう人影と、頬にはひんやりとした芝生の肌触り、そしてその緑の匂いよりも強い潮の香りが鼻をついた。

「あーくんの意識が消えた、、、」
 葉子の部屋で服を着ながらおれの口からつい言葉が漏れた。
「どういうこと」
「あーくんに何かあったんだ、きっと」
「わかるの?」
「ただ、何かが消えただけ。わかるってほどじゃないけど。でもっと何かあったんだよ」
 心配な眼差しでおれを見つめる葉子の頬を掌に収め、柔らかい唇にキスをした。
「これから行くんでしょ」
「うん、行くよ」
「わたしも一緒に行ったら、だめかな」
 おれは葉子がきっとそう言うだろうと思っていた。
「だめじゃないけど、今回は留守番しててよ」
「ぜったいだめ?」
「何かあったら携帯に連絡するから。もしかしたらいろんなこと頼むことになるかも知れないし。そのときはきっとハコがこっちにいてくれてたほうが、何かと助かると思うんだ」
 頭のどっかで一個の信号が消えたままの状態、信号そのものはあるんだけど、何かが足りない感じ。おれは感触の悪さを抱えたまま、今度は葉子の額にキスをした。
「行ってくる」

ー白い天井、レースのカーテン。
 明はぼんやりとした意識の中で、周りの状況をイメージしてみた。
 体全体は気だるい感じで包まれている。起き上がるにはまだ早い、と体が囁いているのがわかる。視点も定まりそうにない。そんな中、左手に人影を感じていた。人影のイメージは温かく、優しい眼差しが伝わってくる。
「明くんもこのままずっとここに入院しちゃえばいいのに」
ーえっ。
「そうすれば、ずっと一緒にいれるのにな」
 明は残っている意識を耳に集中させた。
「さみしくなくなるのに」
ーそれもいいかも知れないな。
 再び消えゆく意識の中で、明はふとそう思った。
 
(続く)
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by hello_ken1 | 2007-07-28 16:42 | プロミス

きみのもしもし #21

「観に来ない?たっくさん借りたんだ」
ー珍しいね、そんなに沢山借りるなんて。
「もっしもっし、聞こえてるぅ」
ー聞こえてるよ。
「なにを借りたか聞きたい?」
ーいや、着いてからのお楽しみにするよ。
 すごく楽しそうなきみのもしもし。
 何を観るかよりも、そんなきみと一緒に観る、そのことが楽しそうだからさ。
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by hello_ken1 | 2007-07-22 19:37 | きみのもしもし

プロミス #50


Summer Time, originally uploaded by swallowtail.

「お袋っ」
 背後に立っていたのは、明の母親だった。
ーどうして麗奈ちゃんに会いに来たの?
 振り向いた時はいつもの優しい表情だった母親は、心配そのものの顔になり、ついには鬼の形相となった。
 明が立ち上がって、母親に近づこうとすると、その人影はすうっと引くように消えた。
ー会いに行くとはね。
 今度は自販機の方から声が聞こえた。少し暗い中、目を凝らすと自販機の横でおねえさんが腕を組んでいた。
ーまさかとは思ったけど。相手の都合を考えてもいい歳でしょ。
「でもさ」
 確かに今日来たのは自分の都合かも知れない、と明は思った。
「でも、おれも麗奈もずっと会いたかったんだよ。麗奈だって会いたくておれの前に現れたんだし」
ー明だけじゃないでしょ。おれもずっと会いたかったんだから。相談もなしにひとりで会いに行くなんて、ひどくないか。着く頃になって、それもおれからの連絡でやっと教えてくれるなんて、それでも親友なのか。
「そうじゃないんだ、ゆうちゃん。そんなつもりじゃなかったんだよ」
ー好きだったんでしょ、ずっと。わたしを抱いた時も麗奈を思いながら抱いたんだよね。
 明は目の前の葉子に大きく首を横に振ってみせた。
ー麗奈にちゃんと気持ちを伝えなさいね。約束だからね。
 葉子が明の右頬に軽く唇をつけようとした瞬間、明の頭上で白い光がまばたき、周りの世界がすべてまぶしいくらいの明るさに包まれた。

「省エネ省エネって全部の明りが消える必要なんてないのにね」
 看護婦さんが曲がって行った角のところに、婦長さんらしき女性とさっきの看護婦さんが立っていた。
 その女性は苦笑いしながら、ロビーや廊下の蛍光灯のスイッチを入れ始めた。
「こんにちは」
 まだ現実感を完全に取り戻しきれていない明に、看護婦さんは婦長さんを紹介した。
「あまり人の動きがないと蛍光灯は消える仕組みなのね。でも、きみに人の気配を感じなかったのかな」
 婦長さんは人懐っこい笑顔をしていた。
「とにかく麗奈ちゃんにとってはじめてのお客様、ここに明るいイメージを持ってもらわないと。ただでさえ、病院や診療所独特の雰囲気は苦手でしょ。あなたが通りそうなところの明りは今すべて点灯したから大丈夫よ」
 確かに病院の雰囲気は苦手だが、何に対して大丈夫と婦長さんは言っているのだろう、明はそう思いながら自販機の方向にちらりと目をやると、自販機も同様に販売中の点灯が確認できた。

「何も心配せず、麗奈ちゃんに会いに行っていいのよ」
 婦長さんは優しく言葉を続けた。
「ここから中庭に出て、芝生沿いに左の方にまっすぐ行くと海が見えるわ。ほんの少しよ。見えると言うよりはそこに海があるって感じかな。潮風を感じるはず」
「海ですか」
 明は不思議な気がした。電車を降りてずっとバスに揺られてきた。確かにこのあたりの地理には疎い、でも海がそんな近くにあるなんて思いもよらなかった。
「そう。そして、その海を眺めるように海に向ってベンチがいくつかあるの。その中でも一番見晴らしのいいベンチにきっと麗奈ちゃんは座っているわ」
「案内しましょうか」
 看護婦さんの言葉に明は、大丈夫です、と答えた。
「すぐそこですよね。ここまで来たんだ、ひとりでそのベンチまで行ってみます」
ーそれに、麗奈がずっと生活をしていたこの場所を感じてみたいから。
 明はふたりにちょこんと頭を下げると、中庭へと向った。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-07-22 12:05 | プロミス

きみのもしもし #20

「もしもし」
 ぼくはテレビのリモコンを探している。
「ねえぇえ」
 どこだったっけかな。
「もしもし。リモコン探してるの?だったらきっと新聞紙の下だよ」
 きみは新聞紙を取り払い、埋もれていたリモコンをぼくに手渡す。
 そして微笑みながら、ぼくの空いたワイングラスによく冷えた白を注ぎ足す。
「台風、行っちゃったみたいね」
ーそうだね。
「今夜は居てくれて、ありがとう」
 キッチンからチーズとパンの香ばしい香りがしてきた。
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by hello_ken1 | 2007-07-16 10:14 | きみのもしもし

プロミス #49


, originally uploaded by p0cket-paul..

 明は診療所の門をくぐり、建物の入口の前に立っていた。入口のガラスドアに自分の姿が映っている。その自分に向って明は自分の意思を確かめるように話かけた。
「お前はひとりで、ゆうちゃんにも声をかけず、何しに来たんだ?」
 ガラスの中の明は答えようとしながらも、答えるのをためらっているようにも映っている。
「みんな心配してるんだぞ」
 明はガラスの中の自分に向って少しきつめに言った。
ーわかってるよ。そのくらい。
 すねた子供のような返事だった。
 ドアのガラス越しには看護婦さんが不信気な表情で、こちらに歩いてくるのが見える。
ーでもさ、会いたい、今すぐに抱きしめてもらいたいって思ったんだ。
「麗奈のためじゃなくて、自分のため?」
ー否定はしないけど、会いたかったのは、ずっと会いたかったのは本当だよ。それがとっても強く後押しされた感じ。
「気づいたら、もうここまで来てるんだもんな。会おう、麗奈に。ここまで来て躊躇してる場合じゃないよ」
 明は自分自身を励ました。
 そのとき、看護婦さんが内側から押しボタン式のガラスの自動ドアを開けてくれた。
「どうかしましたか?」

「面会時間になれば、それは会えるんだけど」
 麗奈に会いに来たことを告げた明に、ドアを開けてくれた看護婦さんが、それでも少し悩んでいた。
「入院以来はじめてなのよね、麗奈ちゃんの面会に誰か来るのって」
ーやっぱり誰も来ていなかったんだ。いや、それとも治療のため誰とも会わせられなかったのか。
「ちょっと前も、外泊許可が出たんだけど」
 そこで看護婦さんは言葉を続けるのを止め、とりあえずまず婦長さんに相談してくるからと言って、明をロビーへと案内した。
「ジュースとかはあっちに自販機があるからね」
 その場を離れようとする看護婦さんに明は笑顔で話しかけた。
「もしかしたら外泊許可が出た頃かも知れない。麗奈が現れて、会いに来いって、会いに来て欲しいって、ぼくに言ったんだ」
 看護婦さんは明らかに顔を曇らせた。その表情に明はあわてて言葉を続けた。
「いえ、夢なんだけど。麗奈がぼくの夢に現れて、そう言ったんだ」
 半信半疑で、でも少しは安心したように看護婦さんはナースステーションに行ってくると明に告げた。

 看護婦さんが廊下の角を曲がった後、明は緊張からか、ロビーの椅子に深く腰を下ろした。
 そして、そのときため息をついたのを知った。
 何に対するため息なんだろう、自分でも分からなかった。やっとここにたどり着いた安堵感か、ここまで来れたのに自分に残された時間が読めない不安からか、葉子に刺された傷から来るものか、ゆうちゃんもいなくこれから会えるだろう麗奈に何を話題にすればよいのか、ここまで来れたのに何でため息なんてついたんだろう。
 物静かなこのロビーで明は視点も定まらず、今入ってきた入口のガラスドアを漠然と見ていた。

「不思議な診療所だな」
 いつまで待っても看護婦さんが戻ってこない中、このロビーに人影が現れないことに、明は気づいた。そういえば、廊下の先は日が差し込まないのか、このロビーと違い、薄暗く、いや薄暗いよりも暗く天井の明りさえ点いていない。このロビーすらよく見ると電灯は点いていない。中庭から差し込む明るさで十分なのかもしれないが。看護婦さんが言っていたロビーの端にある自販機はどうも電気が通っていないようにも見える。
 そう思い始めると、この診療所自体に息遣いが、生命感が感じられなく、明は今、自分がどこにいるのかすら分からなくなりつつあった。
「墓地?」
 自分でも不思議な言葉が口をついたときだった。
「こんにちは」
 背後から声が聞こえた。
 
(続く)
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by hello_ken1 | 2007-07-15 11:21 | プロミス

プロミス #48


., originally uploaded by honey/syrup.

「麗奈とおねえさんが知り合いだって知った時に、おれが麗奈の連絡先を聞けば良かったんだよね」
 ようやく電話に出てくれたおねえさんに、おれはぽろりとそう言った。
「でも、そのときは、教えてあげたかどうかは、わからないわよ」
 おねえさんの口調から当惑気味なのが感じ取れる。
「明くんは、自分に時間があるのか、ないのか、それが分からないから、だから知っていたら教えて欲しいって言ってきたの。それが何を意味しているのか、教えてはくれなかったけど。祐二くんは知ってるんでしょ」
 おれはあーくんがおねえさんに言った言葉の意味を知っている。
 でも、それをおねえさんに伝えるかどうか躊躇しているのが伝わったのだろう、おねえさんは執拗に聞きだそうとはしなかった。
「祐二くんも明くんも、レイの友だちだよね」
「そうだよ。小学校の時、やっと話しかけられたと思ったら、麗奈はいなくなっちゃったけど。あのときからおれとあーくんは麗奈のことを忘れたことはないよ。どうにかして会いに行こうとしてたんだもの。誰も麗奈の行き先を教えてくれない中でね」
「そうだよね。そうだったよね。わたしも、しばらくそっとしといてあげたほうがいいって、祐二くんに言ったんだものね」
「そして麗奈が、おれたちが会いに来ないって伝えに来たんだよ、この前ね」
「えっ」
「伝えに来てたんだよ。その結果、あーくんが怪我をした。信じないと思うけどさ」

 おねえさんが教えてくれた麗奈が入っている診療所の連絡先は、葉子が指にポールペンでメモってくれていた。
「これ、どこ」
「九州の田舎の方だってさ」
「どうするの」
「あーくんはおねえさんから麗奈の入院先を教えてもらったわけだから、きっとそこに向っている。それがわかっただけでも安心だよね」
 葉子にそう言ってはみたものの、行き場所が分かったことと、あーくんの体調が問題ないかってことは、まったくの別であることに違いはない。
「ちゃんと行き着けてるかなぁ」
 葉子は普通に道中を心配している。
「心配するなよ。今からケイタイかけるからさ」

 こちらからかけても母親同様出てくれなかったあーくんのケイタイも、その直後にあーくんから折り返しでかかってきた。
「バスの中だったから出れなかった、わりぃ」
「おれはいいけど、母親からのは無視してんだろ」
「まぁな」
 少しだけ沈黙があった。
「もうすぐ診療所に着く。麗奈に会いに来たんだ」
「なんで一人で行ったりしたの。一緒に行こうってずっと約束してたじゃん。何となくわからなくもないけど」
「分かってくれるんだ。ありがとう」
 そして、あーくんがぽつりと言葉を続けた。
「お袋から聞いたのか、おれのこと」
 それにどう答えようかと、ちょっと思案した瞬間に、葉子がおれからケイタイを取り上げた。
「明くん、聞こえる?」
「ああ、ハコか」
「いいこと。祐二との約束やぶってまでひとりで行ったんだったら、ちゃんと伝えるんだよ。麗奈のこと好きなんだったら、ちゃんと伝えるんだよ。わかってる?」
 葉子の表情が少し明るくなり、口元に笑みが浮かんだ。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-07-08 15:09 | プロミス

きみのもしもし #19

「七夕には会えそうもないんだね」
 きみがもしもしに続けて、そう言った。
「去年もそう、今年もそうなんだけど、やっぱり天の川が見えないと会えないのかな」
ーそんなことはないんだけどさ。
「もっしもっし、大丈夫だよ」
 そんなきみのもしもしは、いつも以上に舌っ足らずに聞こえた。
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by hello_ken1 | 2007-07-08 02:34 | きみのもしもし

きみのもしもし #18

 寝苦しい夜、窓を開けてみる。風もなく、風鈴はチリンとも鳴らない。
ーエアコンは苦手なの。
 以前きみがそう言ったのを思い出した。
 じゃあ今夜は扇風機だなと、コンセントをさそうとしたら、きみのもしもし。
「今日ね、団扇を買ったの」
 嬉しそうなきみの声、間違いなくはしゃいでいる。
「とっても綺麗なの、ほんとに綺麗なのよ」
ー今夜の蒸し暑さは、きみの団扇で涼みたいな。
 きみのもしもしは、ぼくにそんなことを思わせる。
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by hello_ken1 | 2007-07-01 20:13 | きみのもしもし