今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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プロミス #60


, originally uploaded by only alice.

 おれは街に戻ると、普通に生活を始めた。普通の高校生として、普通の息子として、普通の男の子として。
 
「泉堂は先日旅行先で亡くなったそうだ。ご両親から連絡があった。密葬をすでに済ませているとのことなので」
 担任は迷惑そうな表情で言葉を続けた。教室内のざわめきの中、おれはあーくんの机を静かに見つめていた。
「小早川、お前、知ってたんだろ。いつもつるんでたんだからさ」
 同級生が友だち面して聞いてきた。
「知ってたら、何だって言うのかな」
ーなんだよ、こいつ。
ー昔からそうだよ。
ー相手にするのやめようぜ。
 教室の端の方にそんな声を感じた。
 ほんとの友だちじゃないやつの声は聞こえるって本当なんだな、おれはあーくんや麗奈の言葉を思い出した。

「明くんは残念だったな」
 父親が元気づけようとしてくれた。
「大丈夫よ。明くんはいつも祐二くんのこと、見ていてくれるから」
 母親もとても心配しているのがわかった。
 おれはふたりに、ありがとう、と言った。
「すぐに行かせてくれたから、間に合ったんだ。感謝してるし、ぼくは」
 でも、涙をこらえるのが精一杯だった。
 母親は夕飯はおれの好物だと、父親はビールを冷蔵庫から出しておれにすすめてくれた。
 もう大丈夫だよと、おれはビールを一口飲むと、ふたりにそう伝えた。

 葉子との関係だけが、変わってしまった。
 あーくんとの約束、それはこれからずっと実現させ続けるには難しいことだと感じていた。
 あーくんは麗奈のことが大好きで、麗奈の笑顔を絶やさないように、麗奈の側を選んだ。
 おれはどうだろう。
 おれも麗奈のことが好きだったことには、変わりない。ただ、あーくんほど飛び込める勇気はなかったし、飛び込むことを思いもつかなかった。自分で本当の自分の気持ちに気づかなかったのかも知れない。麗奈のことが好きなくせに、素直に口に出せなくって、葉子と付き合っていたのかも知れない。
 葉子がいつか思っていた気持ち、聞こえてきた響き、
ーじゃあ、祐二は誰のことが好きなの。
 葉子がいなくなってはじめて、葉子の勘は当たっていたんだろうな、と思うようになった。
 葉子とはこの街に戻ってくると、自然消滅的に、会う回数も減り、メールのやりとりもなくなってしまった。

「ハコちゃんと一緒にレイと明くんの墓地に毎年献花するんでしょ」
 隣で寝息を立てていたおねえさんが背後からおれの首元に唇をつけ、そうしなさいと言ってきた。
「それが明くんとの約束なんでしょ」
 おねえさんの柔らかな乳房が、おれの背中に優しく触れる。葉子と入れ替わるように、一人暮らしを始めたおねえさんとたまにこんなことを繰り返す。
ーハコとは別れたんだよ。
「ひとりじゃだめかなぁ」
「だめでしょ」
「おねえさんとじゃ」
「もっとだめ」
 誰かに言っておかないと、そのまま心の奥にしまい込んじゃいそうな、そんな弱いおれが、一度だけおねえさんに打ち明けたことがあった。
 それがあーくんとの約束、葉子には言えなかったその約束、さっきおねえさんがそうしなさいと言ったこと。
「今年こそ、ハコちゃんと連絡をとりなさいよ。去年も連絡してないんでしょ」
「もう連絡先も変わってるよ、きっと」
「そうかなぁ、まだこの街にいるよ、ハコちゃんは。たまに見かけるもの」
 おねえさんのベッドの上で、白く柔らかな素肌を目にしながら、変な気持ちがおれを包む。
「遠慮しなくていいのよ。わたしは隣のおねえさん」
 笑顔でそう言ってくれたおねえさんとおれは、唇を重ねた。

ーハコ、今年は連絡をするよ。ちゃと電話に出てくれるかな。
ー何言ってるの。わたし、ずっと待っているのよ。
ーあれからなんとなく気まずくなってただろ。
ーやっぱり明くんのことはショックだったもの。
ーうん。
ーわたしたちが優しい気持ちで手をつないでいないと、明くんも麗奈も安心できないよ。

 夢を見ていた。
 おねえさんのベッドで目が覚めると、おねえさんはもういなく、テーブルにメモが残っていた。
ーハコちゃんに連絡とりなさい。まだ間に合うわよ。楽しかったわ。
 まったくなぁ、苦笑いをしながらおれはそのメモを読んだ。
ーでも、そうかなぁ、うん、きっとそうだよね、由香ねえさん。

 通りに出ると、もうお昼近くで、残暑の陽射しはまだ肌に刺さるように痛かった。
「もしもし」
 少し日陰になっているガードレールに寄っかかり、ケイタイに向って葉子への言葉を復唱してみる。復唱だけでもけっこう勇気が必要だった。
「もしもし、祐二だけど」
 もう一度繰り返す。少し胸がしめつけられる気がした。
ー何やってんだよ、ゆうちゃん。
ーえっ。
 ケイタイから顔を上げると、腕を組んだあーくんと麗奈が向かいのガードレールに腰かけて、笑顔でおれを見つめていた。

(完)
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by hello_ken1 | 2007-09-30 09:20 | プロミス

プロミス #59


, originally uploaded by Lili Les Roses.

 その日の夜に、あーくんは眠ったまま、二度と目を覚ますことなく、自らのすべての機能を停止させた。その連絡をおれは葉子が泊まっているホテルで聞いた。
「明くんが亡くなったそうだ」
 連絡は麗奈のお父さんから受けた。お父さんの言葉数は少なく、感情が押し殺されているようで、無機質に響いてきた。しかし、1時間前におれはあーくんと最後の言葉を、この部屋で交わしていた。

ーほんとにこれでさよならだ。
 部屋の灯がかすかにまばたき、足元に冷気を感じた。葉子は金縛りにあっているかのごとく、身動き一つ、まばたきひとつしなかった。
ーそうか。さみしくなるな。
 おれは淡々としていた。それはあーくんも同じだった。既知の事実、動かしがたい、病室での会話で覚悟はできていた、だからだろう。
ーお互いな。
ー麗奈もそこにいるんだろう。
 冷気がひざ上まで絡んできた。
ー麗奈、もうさみしくないか。
ー、、、うん。
ーよかったね。
ーごめんね。
ーううん、麗奈の笑顔が、おれたちは大好きだったんだ。その笑顔が見たくてあーくんは今、麗奈のそばにいる。そして麗奈の笑顔をおれも感じることができる。これでよかったんだろうし、なるようになったんだよ。
ーそうかな。
ーそうだよ。
ーやっぱり祐二くんは優しいね。
 何が本当に優しい行為なのか、おれには判断もつかなかった。ただ、麗奈にそう言ってもらえるだけで、おれはおれなりに肩の荷が下りた気がした。ずっとずっと会いに行こうと決めていて、結局会いに行けなかった麗奈に対し、おれとあーくんが心に決めていた約束、それを果たせた気がした。あーくんの取った行動とはまた違うけれども、麗奈の笑顔が見える、それがうれしく、ほっとしている自分を感じていた。
ーゆうちゃん、そろそろ行くね。
ーそうだね。麗奈をよろしくな。
ーハコと仲良くやれよ。
 いろいろあったなと、おれたちは苦笑いをした。
ーそれから、あの事、頼んだぜ。
 右手にあーくんの温もりが伝わってきた。おれはその温もりに対し強く握り返した。その温もりもおれの手を強くつかむと、でも次の瞬間にはあーくんは一方的に力を緩めた。そして二度と握り返してくることはなかった。
ーおお。
 あふれ出る涙を、おれはぬぐうことはしなかった。

「今、行っちゃったんだね」
 葉子がおれの肩に頬を乗せてきた。
「ずるいなぁ、おとこの友情って。さんざんわたしを使っときながら」
 葉子が優しく微笑みながら、泣いている。
 おれは葉子の涙にキスをすると、そのまま抱き寄せ、ぽっかりと空いた穴を互いに埋めるかのように体を重ねた。

 翌朝、珈琲の温かい香りがおれを目覚めさせた。下のコンビニで買ってきたインスタントものだけど、と葉子はそっとベッドサイドに珈琲を置いてくれた。
「病院は?」
「行かないよ。さぁ、帰ろうか」
 おれと葉子は軽く唇を重ねると、ホテルを後にした。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-09-23 07:50 | プロミス

きみのもしもし #26

ーhello, hello. how is the weather ?
 洗濯物をベランダに干しながら、今朝の青空を見上げていると、旅行に出ているはずのきみからメールが届いた。
 そっちの時間は深夜だろうに。ホテルのロビーにパソコンでもあったのかな。
 とにかくきみがもう寝れますようにと、すぐに返事を打ってみる。
ーit is a fine day, and good blue sky.
 旅行中は来ないと思っていたきみからのもしもし。
 かなりのサプライズで、ぼくの一日は笑顔の幕開けになったよ。
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by hello_ken1 | 2007-09-16 11:59 | きみのもしもし

プロミス #58


innocence, originally uploaded by fernandadesu.

 葉子は「しょうがない人ね」とおれの首筋にキスを残し、病室を後にした。
「中庭にいるから、いつでも呼んでね」
 おれの足元に絡んでいた冷気も、葉子と一緒に病室から消えた。麗奈も中庭に行ったんだろう。
 しばらくすると病室の窓から、中庭のブランコに腰かける葉子が見えた。葉子は手を振っている。そして、葉子の笑顔はおれの心を穏やかにしてくれる。ブランコは後方の大きな木に守れて、葉子を陽射しが包むのも遮ってくれている。

 中庭に臨む窓から離れ、おれはもう一度あーくんのベッドサイドに腰かけ、あーくんの手を握りしめた。
「あーくんの言葉が直接おれの心に響いてくると、それはもう今までの友だち関係じゃなくなったってことなんだね」
 あーくんの表情は何一つ変わらない。
「あーくんとはすっごい友だちなんだから、もう全部わかってるだろうってことなんだよね」
「、、、わかってるよ。麗奈にずっと淋しい思いをさせてた責任を感じてるんだろう。あの日、新幹線のホームでおれたち約束したもんな、会いに行くってさ」
「でも、結局会いに行けなかった。麗奈の方から会いに来ちゃったね。そして麗奈はもうここにはいなかった。麗奈はこっちにもあっちの世界にもいけなくって、彷徨っているんだよね」
「だからってあーくんがあっちの世界に行くことはないだろう。おれと一緒に麗奈をもう一度見送ってあげれば済むことじゃないのか」
「どーなんだよ、あーくん。そんな説明もなくって、そんなことも一言も相談なくって、、、勝手にひとりだけ眠ってんじゃねぇよ」
 おれの指もあーくんの指も白くなるほど、いつの間にかに、おれはあーくんの手を強く強く握りしめていた。

 強く握りしめすぎていることに気づいて、少し力をゆるめた、その時だった。いきなりラジオのノイズがフルボリュームで聞こえてきた、そんな不意打ちがおれを襲った。
ーガガガガ
ーしょうがないじゃん。
ーガガ
ーずっと好きだったし。今も好きなんだから。
 あーくんがおれの手を握り返してきている。でも、表情は変わらない、眠ったようなまま。
ーゆうちゃんは、いつもだったら、人が思っていることを自分の意思ではないにしろ、たまに心でキャッチできてたんだろ。
ー。。。
ーそこに話しかけるのって、むずかしいんだね。麗奈が言ってた通り、今までおれたちだと普通だった「話さなくても分る」ってのが、今回はけっこう厚い壁になってるね。
ーその壁どうした。
ーとっぱらった。
ーそれって。
ーうん、普通の友だち、そして単なる知り合い、だよな。
ー。。。
ーもう会えないからちゃんと言わないと、それにゆうちゃんも直接おれの口から聞きたかったんだろ。
 その言葉をあーくんから聞けただけで、もうこれ以上は何も聞かなくても分るとおれは思ってしまった。あーくんもそう感じているようだった。
ー分ってくれるよな。
ー分ってたよ。でも少しだけ自信がなくて、もう一緒に遊べなくなると思うと、どうしても最後に話がしたかったんだ。それが単なる知り合いになることにつながろうとも。
ー忘れられちゃうのかな、おれ。
ーそんなわけないじゃないか。あーくんとおれだぜ。
ー忘れられないためにおれができることはもうきっとないんだろうけど、おれが忘れられないためにゆうちゃんにお願いがあるんだ。

 おれは「何でも言えよ。何でもきいてやるから」と、何度もあーくんの表情のない寝顔に向って繰り返した。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-09-16 11:33 | プロミス

きみのもしもし #25

 約束もしていないけど、きみがここに来る気がしていた。
 約束もしていないけど、きみのもしもしが受話器から聞こえてくる気がしていた。
 約束もしていないけど。
 約束もしていないけど、きみからのメールのタイトルがもしもし、そんなメールが届く気がしていた。
 約束もしていないけど、そんな朝、そんな気持ちで目が覚めた。
「もしもし、どこにいるの」
 ひとりでランチにパスタを茹でていると、屈託のないきみのもしもしが飛び込んできた。
 元気そうなきみのもしもし、約束もしていないけど、かならずぼくを元気にしてくれる。
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by hello_ken1 | 2007-09-09 11:26 | きみのもしもし

プロミス #57


Snow White, originally uploaded by elizz.

 麗奈が自信あり気な、でも少しだけ淋しそうな表情を携えて消えて行ったあーくんの病室に目を向けると、そこには葉子が立っていた。
「考え事は済みましたか」
 ノースリーブの腕がやけに白く見えた。葉子が腕を組んで、病室の入口に背をもたれている。笑顔がやけに新鮮で、おれの気持ちがほぐれて行くのが分かる。
ーハコ、キスしてくれないか。
「やっぱり来たんだ」
「メール、読んでないでしょ」
「あーくんと話ができたら、読もうと思ってたんだ」
「それじゃ遅いよ。行こうっ」
 葉子はおれに手招きをすると進んであーくんのベッドサイドへ腰かけた。

 おれがさっきまでやっていたように、葉子はあーくんの手を握りしめ、でもあーくんに話しかけるのではなく、おれに顔を向けた。
「祐二がこっちを出てから、少ししてからかな。明くんがわたしに話しかけてきたの」
ーどうして直接、おれじゃないんだ。
 おれは少し苛立たしい、そして淋しい気持ちに包まれた。
「明くんは分かってるよ。祐二もそろそろ気づいてるかな」
「おれだけ、そう、なぜかおれだけあーくんと話せていないって事かな」
「うん」
ー麗奈も同じようなことを言っていたよ。
「ひとはいろんな思い出、忘れちゃうでしょ。そして楽しかったことだけ、そのうちそれも一番楽しかったことだけになって、もっともっと時間が経つと存在だけの記憶になって、さみしいけど、ひとってきっとそうなんだよね」
「だから、ハコはね、わたしなんかいろんな手段で忘れないように繋ぎ止めるんだと思うの」
「でも、祐二も明くんもずっとずっととっても友だちだから、そんな術を知らないんじゃないかな」
 葉子が間を置きながら、おれに話している。言っていることは麗奈の言葉とつながっている気がする。
 
 病室の窓のカーテンが揺れた。麗奈が揺らしている?でも室内の温度は下がらない。単なるそよ風が葉子とおれに触れて行く。
「キスしよ」
 葉子があーくんの手を離し、立ち上がり、おれの肩に両手をかけてきた。
 とても優しい暖かなキスだった。
「どんなことでもするわ。祐二の記憶にとどまるためには」
 おれに触れる葉子の胸が柔らかかった。

「話さなくてもわかっているはずだよって。明くんがそう言ってきたよ」
ーそのとおりだよ。あーくんが正しい。だっておれとあーくんだもの。でもね、確かめたいじゃないか。このままもう一緒にバカやれないんだぜ。勝手に自分だけ麗奈を独り占めなんてないだろう。
「うん、もうわかってるよ、ほんとはね」
 足元の温度が下がった気がした。近くで麗奈も聞いている。
「でも、言いたいこと、聞きたいこと、あるんだよ」
「十分わかっているのに、そうしたいのね」
 葉子の声がハモって聞こえた。葉子と麗奈が重なって、おれを見つめているんだ。
「言葉を交わさないと分らない、普通の友だちになっちゃうよ」
「思い出が少しずつ消えて行く、普通の友だちになっちゃうよ」
 おれは悔しい気持ちになって行くのを感じた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-09-09 11:10 | プロミス

プロミス #56


alone, originally uploaded by Kevin In Canada.

 病室を出て、おれは廊下のソファに腰を下ろし、麗奈の言葉を思い出していた。
 思い出しながら、視線をゆっくりと今出てきたあーくんの病室のドア、白い天井、そして床のピータイルに移した。床はさほど真新しくもないが、ワックスはきちんと適度にかかっている、そして中央から順に赤青緑の線が引かれている。外科は赤色、内科は青色、それぞれのエリアに行くと、きっと診療室の種類によって案内が色で細分化されているのだろう。病気を治療に、知り合いを見舞いに来る人たちが何気に目にする床は、そんな風に自然な輝きで、自分を主張するわけでもなく病院の一部として溶け込んでいた。

ー友だちだからだよ。
 麗奈はそう言った。
ー最高の、それも世界にただ一人の友だちだからだよ。
ー祐二くんが、明くんが、どっちかだけがそう思っているんじゃなくて。
「そんなこと考えたこともないよ」
ーうん、考えることじゃないでしょ。
ーでも、だから、そうなんだよ。明くんの心の声なんて聞く必要もないんだよ。ほんとの友だちなんだもん。
「コントロールして誰かの声を聞けるってわけでもないけどね」
ーそこまで本気で気にしたことはないじゃないの。
 麗奈が笑っている。
「そうだね。聞こえてくる声を利用して、何かをやろうってこともなかったし」
ーほんとの友だちだから、聞こえてこなくても明くんの気持ちは分かっていたはずだし、分からないときも、それはそれで信用しているから心配することもなかったんでしょ。
 おれは正直、そんなことを考えたこともなかった。いつも気持ちは一緒、それがおれとあーくんだった。それが普通だった。
「言いたいことは言う、話は聞いたげる、普通のことだよ」
ーそんなことないよ。
 麗奈の声が淋しげに響いてきた。
ーそんなことないんだよ。普通のことなんて、普通にはできないことの方が多いんだよ。
ー相談なんて誰にもできない。全部を正直に話すなんて、ぜったいできないんだから。
 背後の空気が小刻みに揺れている。
 命令しても振り返らなかった体が、そっとゆっくりと麗奈の方を向いた。おれの意思ではなく、おれの心がおれの体をそっと動かしたようだった。
 そこには、麗奈が、あの新幹線で最後に会ったときの麗奈のままで、でも、泣きじゃくっている麗奈がそこに立っていた。
「やっと会えたね。こんにちは」
ーばか。
「元気にしてたの」
 麗奈は涙でいっぱいの眼のまま、首をはげしく横に振った。
「間に合わなかったんだね」
 今度はゆっくりと微笑みながら首を横に振る麗奈。
ーおっきな願い事は、何かと引き換えなのかな。何かをあきらめなくっちゃ、いけないのかな。
「そんなことはないよ。いろんなことは比べたりできないんだから。比べられないものを引き換えるなんて無理じゃん」
ーわたしね、祐二くん。
「ん」
ーもうひとりは嫌なの。診療所のみんなは火に包まれたんだって、もう会えないって。パパもママもまだ心の底からわたしがいなくなったって信じようとしていないの。祐二くんも明くんも今を生きてるし。わたし居場所がなくって。誰もわたしのそばにはいない。
 麗奈の声色が変わった。
ーだからね、明くんはもう渡さないよ。明くんも側にいてくれるって言ってくれたもの。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-09-02 11:42 | プロミス