今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31


<   2009年 03月 ( 5 )   > この月の画像一覧

きみのもしもし #106

「もしもし」
 きみが腕組みをしている。
「だから、もしもし」
ーはいはい、なにかな。
「またやっちゃったんでしょ」
 休日の朝、めずらしく早い時間に訪れたきみ、手には包みを携えている。
「今度は何」
 玄関のところに置いていた段ボール箱を指さして、聞いてくる。
「またカメラ?」
ー相変わらずいい勘してるね。
「最初の一枚はきみを撮るんだ」
「何台持てば気が済むのかなぁ」
 きみはまたあきれ顔で、でも一緒に朝食をと包みからサンドイッチを取り出した。
[PR]
by hello_ken1 | 2009-03-28 11:53 | きみのもしもし

Midnight Zoo #13

 晴香はカウンターの一番奥の席に静かに腰を下ろした。
 バーテンダーは桜子とひなのの前からすっと晴香の席に移りチェイサーを差し出す。
「今夜も強めのお酒にされますか」
 控えめな口調だった。
「うぅん、ちょっとの間、このお水だけでもいいかな」
 晴香が元に少しだけ笑みを浮かべ頷くと、バーテンダーは一歩下がり、ロックグラスを磨き始めた。
 お店には壁際のテーブルに一組のカップル、カウンターに桜子とひなの、ふたりに離れて晴香がいるだけだった。気だるいジャズが店内の空気を少しひんやりと、でも優しいものにしていた。

 5分くらいか、それとも15分くらいか、晴香はじっとチェイサーのグラスにつきはじめた水滴を見ていた。水滴に天井からの明かりが入り、ちょっとした宝石にも見えなくもなかった。
ー少し疲れている。
 自自覚していた。
 直接の原因もわかっている。でも何故、いまさら、そして頻繁に起こるんだろう。
 最近は同じ女性の部屋にばかり行っている。
 行きたくて行っているわけじゃない。
 ベッドに入り寝ようと思って気づくと、もう他人の部屋に立っている。
 女性がわたしに関わろうとすると、わたしは寝入る。
 そして朝、夢でも見ていたかのように目が覚める。
 ただ身体は重い。
 その女性に話しかけられたらどうなるのだろう。
 その女性に限ったことではない。
 ずっと見ていたあの夜のカップルの行為、行為の後の女性と目が合ったのかも知れない。
ーふっ。
 何に救いを求めているんだろう。
 不法侵入の得体のしれないお化けの話を誰が親身になって聞いてくれるというのか。
 晴香はやっとグラスに手に持ち、喉を潤した。

 ミキシンググラスからカクテルグラスに移された薄い琥珀色のドライマンハッタンが、晴香の前に差し出された。
 店内はお客が増えるわけでもなく減るわけでもなく、流れるジャズもふさぎそうな晴香の気持ちをかろうじてカウンターに繋ぎ止めていてくれる。
「ん、辛めで美味しいわ」
 晴香の言葉にバーテンダーはまぶたで頷いた。
 バーテンダーの笑顔、強めのカクテル、静かな空気、心なし落ち着いた晴香は自分の世界から少し範囲を広げて、店内の様子を伺う余裕ができた。
 テーブルのカップルはこじんまりとしたふたりだけのシールドを張っているようで、そこにラバーズ独特の空気感を醸し出していた。丸いテーブルに向かい合うと言うよりも少し斜めに寄り添って、会話はそっと耳元で交わしていた。
ーいいなぁ。
 思っただけのはずだったが、実際は晴香の口から小さくその言葉は漏れた。バーテンダーの視線が晴香の方に少し動いたのはその言葉のせいだったのかも知れない。
 しかし、晴香が気づいたのはバーテンダーの視線の変化ではなく、カウンターの中央から自分に向けられている視線だった。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2009-03-28 11:52 | Midnight Zoo

きみのもしもし #105

「花粉がね」
 きみは注文した珈琲を待ちながら、ティッシュを鼻に当てる。
 ここ数日の花粉警報、きみの鼻の頭は少し赤くなり始めてる。
「わかってるよ、目も赤いし」
「わかるよ、じゃないんだよねぇ」
ーわかってるよとわかるよ。確かに差があるね。
「いいのよ。ふたりして鼻かんでもしょうがないしさ」
ーふたりして鼻をかむって言うより、少しはわかってあげられたらいいんだけれど。
「もしもし、そんなに気にしなくても大丈夫よ」
 ふたりの前に珈琲が置かれた。
「オーガニックなんだよね」
「メニューにそう書いてあったね」
「花粉症にもいいかな」
 きみはいつもの笑顔で微笑んだ。
[PR]
by hello_ken1 | 2009-03-15 21:41 | きみのもしもし

Midnight Zoo #12

 桜子とひなのはふたり並んで、カウンターのほぼ真ん中に座っていた。
 神妙な趣で時間はすぎようとしている。
「呼び出したのはね」
 桜子がひなのに視線を移し話しかけた。
 ひなのは息を飲む。
「うん」
 ふたり前にバーテンさんが気配を消して立っている。
「とりあえず何か頼もうか」
ーあっ、とりあえずを使っちゃった。
 桜子は航から「とりあえずって言葉あまり使わない方がいいよ」と言われていたのを、思い出した。今夜、ひなのを呼び出すきっかけになったのが航の話によるものだったからか、桜子はそう思った。

「瑛太から聞いたんだけどさ」
 あの日、航は唐突に話を始めた。
「最近会ったの?だったら呼んでくれれば一緒に飲んだのに」
「いや、ちょっとした相談事だったから、おれと瑛太とで会ったんだ」
 航は静かに笑っていた。
「この前ガラス越しに映っていた女の人のことなんだけど、顔は色白じゃない感じで、落ち着いた茶色の髪の毛は肩よりほんの少し長めで、全体的にスレンダーな体形だったんだよね」
「そこまで詳しく覚えてないけど、まぁそんな印象かなぁ。でも具体的じゃん、どうしたの」
 そこで航は瑛太から聞いたひなのの体験を桜子に話して聞かせた。

 桜子の前にはピンク色の、ひなのの前には紫色の、それぞれのカクテルがさし出された。
 カクテルが注がれるまではふたりとも差し障りのない世間話をしていた。仕事のこと、航のこと、瑛太のこと、おやすみのすごし方、最近観た映画、美味しかったレストラン、いまいちなスゥィートの話。半分上辺だけの毒にも薬にもならない話題もそれなりに間を持たせてくれる。
「じゃあらためて乾杯」
ー何に乾杯するんだろう。
 桜子は思った。
ーきっとひなのちゃんもおんなじ気持ちじゃないかな。
ー何に乾杯するの。
「とりあえず乾杯」
ーひなのちゃんのとりあえずは、正解かも。
 桜子はひなののグラスにちょこんと自分のグラスを重ねた。

ーおいしい。
「美味しい」
 ひなのがひとこと口にすると、桜子は頷いて、端の方でグラスを磨いているバーテンさんにちょこんと頭を下げた。
「あのね、瑛太くんからの話って言うのを航から聞いたんだけど。ひなのちゃんのこと」
 桜子の一言に、ひなのは気持ち身体を桜子に寄せてきた。

 そのとき、バーの後方のドアが開く音がした。
「いらっしゃいませ。おひとりですか」
「はい。あの席、いいかな」
 場慣れした感じの落ち着いたトーンの女性の声が桜子とひなのの耳に届いた。
 その声に何気に振り向いたひなのは、グラスを宙に持ったまま、桜子の顔をみつめ直した。
 ひなのはまるで息が止まっているかのようだった。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2009-03-08 11:01 | Midnight Zoo

きみのもしもし #104

ーもしもし、さむい
 変なタイトルのメールがきた。
 本文テキストには両手を頬に当てたムンクの叫びのような絵文字だけ。
「まったく」
 ぼくはつい言葉をこぼし、
「おはよ。ストーブ点ければ」と電話をかける。
「もしもし」
 きみのもしもしがこもっている。
「ストーブまで行くのも寒いの」
 ケータイごしにシーツのこすれる音がする。
 きみはまだベッドから出れないんでいるんだね。
 春はそこまで来ているはずなのに、寒い朝のはじまり。
 でもぼくはきみのもしもしが聞けて、少し暖かい気分になれました。
[PR]
by hello_ken1 | 2009-03-01 10:24 | きみのもしもし