今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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Midnight Zoo #15

 晴香は、桜子の横にいる女性の顔が照明のもとに来ると、その女性が自分にとって誰であるか、ひとめでわかった。
 最近、深夜に気づくとその女性の部屋にいる。その女性がここにいる。
ー気づいていたら、どうしよう。
 何らかに気づいたから、声をかけてきた。
 何かを確かめたくて、声をかけてきた。
ーそう考えるのが、、、
ーと、言うことはまだ確証は持っていないはず。
ーもう相手にしないほうがよいかも。丁度よい頃合いだし。
ーでも、今のうちに、名乗るだけでも名乗ったほうがいいに違いない。
ー相手が名乗ってきた。だから名乗り返す。
ー普通の会話の流れ、世の中のマナー、うん、流れに身を任せてみよう。
 晴香はぐるぐると思考が交差する中で、一番素直な考えに従うことにした。

「美並さんっておっしゃるの?」
 晴香は少し掌の温度が下がる感じがした。
「わたし、藤崎晴香と言います。はじめまして」

 今度は桜子の息が止まった。
 航が再会したと言っていた晴香。藤崎晴香のことはなんとなく覚えていたが、どんなに卒業アルバムをくまなくめくっても見つけることができなかった藤崎晴香が、今ここにいる。
ーひとちがい?どうせいどうめい?
 桜子は何が起こっているのか、何が起ころうとしているのか、くらくらとする自分を感じた。
ーせいりしなくちゃ。
 ひなのがさっき「あのひと」と耳打ちした。
 深夜に現れる霊もどきがこの女性にそっくりだということだ。
 自分も一度、航とのセックスのあとに窓ガラスに映った女性を一瞬見た。
 もしかしてひなのが言う女性と同じ人じゃないかと思い始めていた。

「どうかされました?」

 整理がつくまえに晴香から再び話しかけられた。
ーどうしよう。
「もしかして同級生の晴香さんですか」
 とっさの返事だった。
 何も意図したわけでもなく、もうこれしかないと思って口に出したわけでもなく、ましてや学生時代に藤崎晴香を名字ではなく名前で呼んだことなんてまったく記憶がない、思いもよらない自分の反応に桜子自身も驚いていた。
「え」
「同級生の晴香さんですよね」
 今度は落ち着いて言えた。晴香も驚いている、そんな気がしたからだ。
 確かにいきなり唐突にそうくるとは晴香にとっても予想外だった。

ー流れに任せる。
ー流行に任せる。
 晴香も桜子も同じ思いを自分に言い聞かせ、互いに見つめあっていた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2009-04-26 22:13 | Midnight Zoo

Midnight Zoo #14

「なにか」
 晴香は自分に向けられているであろう視線に向かって、低く静かに確認の言葉を投げかけた。
 店内の照明の加減で、相手の顔は多少逆光気味になっている。
ーこっちの顔は見えてるのかなぁ。分が悪いなぁ。
 なんとなくそんな感情が心をよぎった。
 目を少し凝らして見ると、ひとりの女性が自分の方をじっと見つめていた。その女性に重なるように、少し身を隠すような位置でもうひとりの女性も自分に視線を向けていた。

「初めてですよね」桜子はためらいがちに言葉を返してみた。
「いいえ、何回か来てますよ」
ーどう尋ねればいいんだろう。
 まだ残っているピンクのカクテルに口をつけると、桜子は決心したように続けようとした。
「そうじゃなくて」
 ひなのが自分の腕をつかんでいるのがわかる。
「お会いするのが初めてじゃない気がしたものですから。でも確信がもてないので人違いだったらごめんなさい」
ーもうひとりの自分が「よくさらりと言葉を続けられたね」とわたしをほめている。
 桜子はそんな気がした。

ーやっぱり分が悪い。
「よくお顔が見えないの」
 晴香のその返事に、桜子は少しだけ身を前屈みにして明かりの下に顔を出した。桜子の腕をつかんでしたひなのも引っ張られるように多少明かりの下に顔が入った。
ー確かに初対面の気はしない。
 晴香は眉間に少しだけ皺を寄せる自分を意識した。
「思い出せないわ、ごめんなさいね」
 とりあえずそう答えてみた。

ーわたしの勘違いかも。
ーそう?かな。似てない?
ーうーん。
ー航から聞いたひなのちゃんのところに現れる女性に姿形は似ていると思うよ。
「でもね、桜子さん」
 ひなのの声が少しだけ大きくなった。耳元でささやくような声から近くにいるお客さんにも届くような声だった。

「さくら、こ」
 桜子とひなののひそひそ話が伝染したかのように、晴香は聞こえた声を小さく復唱した。
「はい?」
 呼ばれたと思い、顔を振り向けた桜子と晴香は一瞬見つめ合った。
「桜子、美並桜子と言います。やっぱりどこかでお会いしてますか?」
 
 晴香は、桜子それも美並桜子の名前で記憶に触れるものがあった。
ー桜子、美並桜子、もしかして同じ学校の桜子さん?
 そして、あの日、窓ガラスに映っていた女性の顔を思い出していた。
ーあの日、汐崎航と戯れていた女性は桜子さん?
 でも、
「いえ、そうかも知れないし、そうでないかも知れない。思い出せないの」
 と薄い微笑みを桜子に返した。
「やっぱりわたしの勘違いよ、きっと」
 そう桜子に話しかけた女性の顔がちょうど照明の真下になった。
ーえっ。
 晴香の口をついたその言葉は桜子とひなのの耳に届いた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2009-04-26 22:00 | Midnight Zoo

きみのもしもし #110

 ズボンのすそなんてびしょぬれで、きみの部屋に着いた。
 袖とか手とかを拭くために、きみがタオルをぼくに手渡す。
「もしもし、靴下は脱いでください」
 きみが微笑んでいる。
「大きめのトレーナーがあるから、ズボンも履き替えたらいかが」
 苦笑いをしながら、ぼくはとりあえず椅子に腰を下ろす。
 きみは温かい珈琲をぼくに差し出す。
「もしもし」
 なんでしょう。
 振り返るぼくの耳元できみがささやく。
「今日はここで一日。ね、雨も悪くないでしょ」
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by hello_ken1 | 2009-04-26 13:44 | きみのもしもし

きみのもしもし #109

「もしもし、それなに?」
「メジャー」
 腕を伸ばしたぼくへの、きみの質問に答えた。
 きみはきょとんとしている。
「ピント合わせるのにさ」
 ぼくはレンズについている距離を確認し、
「目測の目安がぼくの腕」
 きみは妙に納得しているよう。
「もしもし」
 今度は何でしょう。
 そろそろシャッター切りますよ。
「そっちから撮ると」
 ん?
「逆光でわたしの顔、真っ黒になるかも」
 ふふふと、きみは笑っている。
 しょうがない、ぼくも笑ってごまかそう。
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by hello_ken1 | 2009-04-26 13:43 | きみのもしもし

きみのもしもし #108

「もしもーし、洗濯物はないですかぁ」
 ドアの開く音が聞こえたと思ったら、元気のよい声が部屋中に響いた。
 予告もなしにきみがここに来るなんて珍しいね。
 そう思って半身を起こしたぼくのそばには、もうきみの笑顔があった。
 次にきみは部屋のカーテンを引いて、腕まくりをする。
「今日はお出かけはなし。とってもいいお天気なので洗濯したげます」
 ほんとどうしちゃったんだろう。
 きみは部屋中にちりばめられているぼくの洗濯物をそそくさと洗濯機に放り込む。
「もしもし、ほかにはないですか。今のうちですよ」
 妙に楽しそうなきみがここにいる。
 まっ理由なんていいや。
 これもお願いします。
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by hello_ken1 | 2009-04-26 13:41 | きみのもしもし

きみのもしもし #107

ーあったかくなったね。
ーうん。そしてね、どこでもみんなおんなじ挨拶をしているんだよ。
ーへぇ、どんな。
ーないしょ。

「もう春ですね」
 きみとチャットっぽいメールを交わしていると、声をかけられた。

ーあっ、珈琲が来たんだ。
「ええ、そうですね、ほんともう春ですね」
 ウェイトレスのおねえさんは微笑みながら、静かにぼくの前に珈琲を置く。
「このテーブルからだと桜の花が見えますよ。ごゆっくりどうぞ」

ーもう春ですねってみんな言ってるンでしょ。
 ぼくは自信たっぷりにきみに返事を送った。
ーもしもし、なんでわかるかなー。
 ちょっと悔しそうなきみの表情を思い浮かべながら、ぼくは珈琲に口をつける。
ー今、桜が見えるカフェにいるんだ。ねぇおいでよ。

 きみからのチャットメールが途切れた。
 きっと出かける準備を始めたんだね。

 少しして、
ーもしもーし、すぐ行くからね。
 と、きみ。
ー待ってますから、気をつけていらっしゃい。
 と、ぼく。
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by hello_ken1 | 2009-04-04 18:53 | きみのもしもし