今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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きみのもしもし #115

 宅配便が届いた。
 午前中早い時間の突然のピンポンで、寝起きの乱れた髪のまま、その宅配便を受け取った。
ー誰からだろう。
 部屋に戻り、差出人を確認するときみの名前の伝票がついている。
ーなんだ、いったい。
 昨日もその前の夜も会っているのに、きみからは何も聞いていない。
 四角い箱の包装紙を取ると、一枚のメモ。
「もしもし、ボーナスが出たの。いつものお礼にこれあげるね」
 メモにも「もしもし」
 ぼくは苦笑いをしながら、箱の中からいつものお礼だと言う品を取り出してみる。
 おっ、ウイスキーのショットグラス。欲しかったものだ、ありがたい。
 さて、お返しはどうしよう。
 でもそれよりも、まずはきみに「ありがとう」を伝えなくっちゃね。
 番号を押すケータイの先に、きみの笑顔が見えた気がした。
ーありがとう。
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by hello_ken1 | 2009-06-27 19:03 | きみのもしもし

Midnight Zoo #20

 桜子が目覚めてリビングに行くと、そこでは航が珈琲を飲んでいた。
「おはよ」
「うん、おはよ。珈琲あるよ」
「自分で入れるから、座ってて」
 航がカーテンを開けると、明るい陽射しがリビングの中央まで射し込んできた。
ーあぁ、もうお昼近いんだ。
 桜子は珈琲カップを片手にテーブルに向かい、航の横に座った。いつもの正面に座るのではなく、なんとなく航の体温を感じたく、横に座り、少しだけ肩を寄せてみた。航も少し桜子に肩を寄せてきた。
 そうやってふたりは肩を寄せたまま、足元に射し込んでいる陽射しに目を細め、珈琲をゆっくりと口にした。
「美味しいね」
「ちょうどいれたばっかりだからね」
「うぅうん。航と一緒に、こうやって飲む珈琲はやっぱり美味しいんだよ」
 そう言って、桜子は航と唇を重ねた。

 赤いパジャマが洗濯機の中がまわっている。
 泡立ちの中に沈んでも、その赤い色が見えなくなるわけではない。白い泡の下に赤いパジャマがあることは間違いなく、晴香の目に入ってくる。
 晴香は泡の中で赤い色がくるくるまわるのをじっと見つめていた。
 昨日卸したてのパジャマを一晩着ただけでもう洗っている自分がいる。でもそうでもしないと気持ちが落ち着かなかった。
ー洗っても、もう着ないかも知れない。きっと着ないんだろうな。
ーわたし、捨てちゃうのかな。お気に入りで買ったのに。捨てないよ。
ーこうやって洗って、今日の陽射しで日に干して、太陽の香りで包んであげて。
ーそれでも、やっぱり着れないんだろうな。捨てらんないし、着れないし。
ータンスの引き出しの奥にしまいこんじゃうのかな。このパジャマは何にも悪くないのに。
ーそう、何も誰も悪くないのに。
 晴香の頬に涙が伝った。

「デートしようぜ」
ー誰、まだ眠いよ。頭まわんないし。
「もう、お昼だぜ。起きなよ。まずはブランチから始めよう」
ーあー、瑛太だ。瑛太のいつものモーニングコールだ。メールでいいじゃん。
「待ち合わせどこがいい。先に行ってるからシャワーでも浴びてのんびり来ればいいからさ」
ーそうだ。瑛太に話さなきゃ。
「おはよ、瑛太」
「目覚めましたか、お姫さま」
「デートしよ」
「そう言ってるじゃん」
「うん、デートしよ」
「・・・どした」
「聞いてもらいたい話があるの。会ったの。夜に現れる女性に夕べ会ったのよ、わたし」

(続く)
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by hello_ken1 | 2009-06-21 12:16 | Midnight Zoo

きみのもしもし #114

「あのね、神社に行ったの」
 きみがめずらしく電話をかけてきた。
 いつもなら、まずメールが来るのに。
 とても楽しそうな声、きみの声がはずんでいる。
「そしたらね」
 ぼくは「うん、うん」と相づちを打つ。
「聞きたい?」
 話したいときに限って、必ずこの質問、きみはずっと変わらないね。
 ぼくはまた「うん」と相づちを打つ。
「そうね、じゃあ、メールで送ったげる」
 ぼくはもう一度「うん」と相づちを打つ。

ーもしもし、神社にね。
 きみはメールが「もしもし」で、電話がいきなり「あのね」なんだね。
 これもずっと変わらない。
ーあなたとずっと仲良しでいれますようにってお参りしに行ったの。
 ぼくはお祈りをしているきみの後ろ姿を想ってみる。
ーそうしたら、ちょうど挙式がはじまって。
 ぼくも一緒にお参りしたかったなぁ。
ーなんとく、とっても、いい感じでしょ。
 ぼくは今、もう一度きみの声がとってもとっても聞きたくなった。
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by hello_ken1 | 2009-06-14 19:11 | きみのもしもし

Midnight Zoo #19

 壁に映っている男性は、根気よくゆっくりと晴香に話しかけてきた。
 いらいらしているような感情は晴香には感じられず、一言一言に本当にどうにかしてあげたいと言う気持ちがこもっているのが、伝わってきた。
 晴香は、その男性が見ている自分とここにいる自分の区別がつかなくなったとき、こちら側にいる自分の存在意味が消えうせると信じていた。

 寝ている間に、どこかに行ってしまう自分、誰もそれを知らないうちはもうひとりの自分は世の中には存在していないことになる、だって誰も知らないんだから。でも、その自分が誰かと接触をはじめたら、意思の疎通を始めたら、そうなるとここにいる自分の存在価値との天秤になるんだと、晴香は考えるようになっいた。
 だから、もうひとりの自分を誰かに気づかれてはいけない、誰かに見つかってはいけない、ましてや会話をするなんて。
 でも、それはここにいる自分の言い分、自分が寝入るといろんなとこに徘徊をしはじめるもうひとりの自分にとっては、いろんな場所を見、いろんな人を見、それを繰り返しているうちに、自分の存在を、ここにいるよと言う存在を示したくなるんだろうな、もうひとりの自分のそんな言い分が自分の胸のうちに生まれ始めていたのをいつしか晴香は否定はできないでいた。
 そしてまだもうひとりの自分が、今の自分に問いかけもしていないのに、
ーあなたの存在意味って何か言える?
ーわたしなら存在をアピールできるわ。
ーあなたは今までかかわった誰の記憶にも残っていないのよ。
ー卒業アルバムに写真を掲載しわすれたのも誰も気づかないほどにね。
 今の自分だけで自問自答を繰り返している自分に気づく夜もあった。

 男性はときおり下を向いていた。でも、またすぐさま声をかけてくる。
「正直に言おう」
 それでも少し躊躇しているのが、なんとなく伝わってくる。
 そのとき、向こうにいる自分がその言葉に少し反応したのがわかった。
「一番助けたいのは、、、申し訳ないけど、きみじゃない」
 晴香はその言葉に身体が硬直するのを感じた。同時に、うらやましいとも。
 この男性は助けたい誰かがいる。その誰かはこの男性にとってかけかけえのない存在なんだろう。ふたりともに存在する意味をもっている。
「きみが接触をした女性は今、意識を失って横になっているんだ」
 男性は少しだけ身体の角度をこちらに向けた。
「その女性ときみとの間に何があったんだろう。教えてくれないか」

 晴香は窓の外が白み始めたのに気がついた。
ーあっ。
 男性がこちらを振り向こうとしたところまでは見ることができた。
 でも、もうこの瞬間には、もうひとりの自分は男性のそばにはいなく、まさに晴香の中に戻ってきた感覚があった。そして壁に映っていた男性側の映像も消えた。
ーはぁ。まだ主導権はわたしにあるんだ。
 安堵のため息をつく晴香の目に朝の陽射しが優しく映った。

(続く)
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by hello_ken1 | 2009-06-07 19:09 | Midnight Zoo