今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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きみのもしもし #118

「えっ聞こえない」
 きみの声が周りの音に遮られて聞こえない。
「だから聞こえないよ」
 何か言っているのはわかる。それもそれなりの大きな声で。
ーあれ、この音って。
 きみの声にじゃなく、きみの声を遮っている音に耳をそばだてる。
ーははーん、なるほどね。
 ぼくは遮っている音になぜか親近感を覚える。
「もしもし、、、、」
 その後の言葉がまた遮られた。
「、、、もしもし、、、」
 大丈夫、もうわかったよ。
 きみは花火大会に行っていて、夏をぼくに送ろうとしているんだね。
「さんきゅ」
「あっ分ったんだ」
 打ち上げ花火の合間にきみの声がぼくに届いた。
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by hello_ken1 | 2009-08-09 14:30 | きみのもしもし

きみのもしもし #117

 いい言葉だ。
 そのひとことだけで気持ちが見えてくる、伝わっている。
 シンプルな言葉、きみはそれをタイトルにしてきた。
「会いたいね」
 時差の関係で深夜に受け取った携帯メール、観光で歩き疲れたぼくの身体を、気持ちを軽くしてくれる。
「もしもし、会いたいね」
 本文もこれだけだった。
ーそうだね、会いたいね。
 返信するメールには、橋の上から撮った夕日を送ろう。
 次回は一緒に来れますようにと、ひとこと添えて。
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by hello_ken1 | 2009-08-02 15:35 | きみのもしもし

きみのもしもし #116

ー「もしもーし」
 タイトルからしてきみの声が聞こえてきそうなメールが届いた。
ーほんと行くの?
 明日からの一人旅のことを言っているんだね。
ーちゃんと準備できてるの?
 そう言われるとかなり自信がないな。
 とりあえずあっちに行くまでの手配だけは済んでいる。
 もちろん戻ってくるための手配もね。
ー観に行くとこ決めてないんでしょ。
 今、やっと観光本開こうとしているところ。
ー食事するお店はチェックした?
 そんな性格じゃないこと知ってるよね。
ー心配だからわたしの写真を添付します。お守りにしなさい。
 はぁーい、そうさせていただきます。
ー向こう着いたらメール一本入れるように。
 便利な世の中になったもんだね。この携帯があっちでも使えるんだもの。
ーお土産は、期待してるから。
 添付されてきたきみのくちもとまで「もしもーし」と言っているよう。
ーじゃ、行ってくるよ。
 ぼくは一言だけ返信してみた。
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by hello_ken1 | 2009-08-02 15:35 | きみのもしもし

Midnight Zoo #23

 晴香にとって夜の動物園は「怖い」だけだった。
 園内にいる間中、正しくは入ってすぐレッサーパンダの両目が異様に輝いているのを見て、母親の後ろに隠れた。手は母親の洋服を強く握りしめていた。
「大丈夫よ、はるかちゃん。襲ってきたりしないから」
「出てくるもん。ぜったい、こっちにくるもん」
 もう半べそをかいていた。
 動物園に着くまではあれだけ楽しみにしていたのに。水筒も肩から斜めにかけて、夜だというのにお気に入りの黄色い帽子もかぶって、わくわくどきどきしてやってきたのに。晴香はどうしていいかわからなかった。
 母親は洋服をつかんでいる晴香の指をゆっくりと一本一本ほどき、晴香の手をしっかりと握ってくれた。
「ママが一緒だよ」
 晴香はうつむいたまま、頷いた。
 でも「パパは」と聞きたくなった気持ちを飲み込んだ。なんとなく「聞いちゃいけない、今はママと一緒にいるんだから、ふたりきりで動物園に連れてきてくれたんだから」そんなことを幼いながらに感じ取っていたのかも知れない。そして母親もうつむいたままの晴香の幼心を読み取ったのだろうか。
「そうだね、次はパパも一緒だと安心だね。パパがはるかを守ってくれるからね」
 晴香は母親のその言葉を聞いて、その声がとってもさみしく心に響いて、今夜はもう母親を困らせちゃだめだと思った。
ー怖くったって、せっかくの動物園だもん。ママがいるもん。
「ママ、ぞうさん見たい」
 そう言ったはみたものの、その声はか細く母親の手を更に強く握りしめた。
 でも、母親に戻った笑顔を確認し、ほんの少し晴香は安心した。

ーあのあとが初めてだったのかもなぁ。
 今、晴香はバーのカウンターでマティーニを傾けている。
 蒸し暑い今夜、カクテルグラスで何杯飲んでも、どんなに店内の冷房が効いていようと、この記憶を上手に消化することはできないと思った。
「マティーニをオンザロックでいただけるかしら」
 さっきお店に来て最初のオーダー。バーテンダーは一瞬目をきょとんとさせ、もう次の瞬間には笑顔でオンザロックの準備を始めた。
「3杯くらいはいくと思うわ」
 なんでそんなことを口にしたのだろう。結果3杯になるかもしれない、でも3杯で今夜は終わりにしようと自制心が事前に働いたのか。バーテンダーは接客向けの笑顔で微笑みかけた。

 その夜の動物園も蒸し暑かったのだろう。
 母親はハンカチで幾度となく晴香の額の汗をぬぐってくれた。そのたびに母親から優しく甘い香りが晴香に移った。
「ママ、いいにおい」
「今日は特別な夜だもの」
 夜の動物園、ふたりだけのおでかけ、こわーい動物たち。晴香にとってはもう十分に特別な夜だった。

ーでも、ちょっとだけ違ったのよね、特別の意味が。
 テスアされた冷たいマティーニは晴香を落ち着かせた。

 気がつくと晴香は母親の背中にいた。
「うぅん」
「目が覚めましたか、はるかちゃん」
 母親が顔を後ろにまわし、肩越しに晴香に話しかけた。
「次のきりんさんで動物園はおしまいよ」
「きりんさん」
「うん、きりんさん」
「きりんさん、見る」
 背中からおりた晴香に向って母親はしゃがみこみ、両手を取った。
「きりんさんみたら、帰るからね」
「もう」
「怖かったんでしょ」
「ママいるもん」
 晴香は母親の手を強く握り返した。
「そうね。でももう帰って寝よ。眠くなってるでしょ」
 そして母親の独り言が聞こえた気がした。
「ちょっとだけ寄り道するから」

(続く)
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by hello_ken1 | 2009-08-02 15:34 | Midnight Zoo