今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30


<   2009年 11月 ( 5 )   > この月の画像一覧

Midnight Zoo #31

 それからしばらくの間、航は窓ガラスに映る女性と他愛もない話をした。いや、他愛もないのか、そうじゃないのか、ふたりにとってもしかしたら、もうどうでも良いことなのかも知れなかった。
 時折、その女性も笑みを浮かべているのが、航にもわかる。彼女の笑顔を感じるたびに航も優しい気分になれるのがうれしかった。
ーどこで彼女と知りあったの?
ー晴香?桜子?
ーどちらでも。
 晴香のことを話すと少しややこしくなる気がした。
ーじゃ、桜子とはね、、、
 窓ガラスの彼女が身を乗り出してきたような気がした。
ー興味あるのかい。
ーだって人と人が知り合うのってさ、俗っぽいかも知れないけど、ひとつの奇跡だと思うよ。すれ違うだけの人、目が合ってもそれっきりもあるし、言葉を交わしても記憶にすら残らないときもね。
ーそうだね、知り合うのって、すごいな。
ーそして続くとか、続けるとか、もっとすごいと思う。そのためのエネルギーや時間を惜しげもなく使うんだから。限られた時間の中で、大事なエネルギーをその関係を維持するためだけに使うんだから。
ーうん。だから自分にとってその相手が大切な人になっていくんだろうね。
ーそういうことを経験してみたいんだ。
 ぽつりとその子が言った。
ーまだそんなことに出会っていないもの。
 大丈夫だよ、いつかそのうち、近いうちにそんな状況にばったり遭遇するよ。
 航はそう言えないもどかしさを飲み込んだ。
ー晴香と仲良くやっていけるといいのにね。
 彼女はちょっとだけ冷笑した。
ーわたしが居たことの記憶はずっと残るかしら。
ー忘れようとするかも。
ー正直じゃん。
 何か手はないものか、何かしてあげることはないものなのか、手は差し伸べられないのか、
 航は胸に酸っぱいものが湧き上がるのを感じた。
ー珈琲入れるよ。
 航がソファから立ち上がり、窓ガラスにもう一度視線を向けると、もうそこには彼女の姿はなかった。
 窓ガラス越しには白み始めた風景が見えた。
 数歩窓ガラスに近づくと、
「ありがとう」
 指で書いたような文字が窓ガラスに残っていた。
ーありがとう、か。
 結局これから自分は何ができるんだろう、航はそう思いながら書かれた文字を口にしていた。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2009-11-29 16:11 | Midnight Zoo

きみのもしもし #127

「100%の体力だったらね」
 と昨夜、きみがメールに書いてきた。
「すぐ無理するんだから」
 ぼくは苦笑いをしながら読んでいた。
ー無理をしてるんじゃなくて、そのときは大丈夫と思っているだけだよ。
 たまにあるこのやりとりを思い出した。
「もしもし、いいこと、あなたの大丈夫ほど当てにならないことはないんだから」
 何も返信していないのに、先にいつもの返信が届いた。
 思っていることを完全に読まれているのか。
 でもぼくはぼくで、きみのメールからきみの表情が読み取れる。
「100%だったらね」
 とぼくは昨夜、返信をした。
 そして今、93%のぼくがいる。
 さてとメールでもしようかな。
「繰り上げて100%なんてどう?」と。
[PR]
by hello_ken1 | 2009-11-21 14:36 | きみのもしもし

Midnight Zoo #30

 桜子から公園で聞いたあの子の気持ちを、航は窓ガラスに映るこの女性に伝えようと思った。
「でもさ、あの子、藤崎晴香もその一歩を自分から踏み出そうとしているんだぜ」
 窓ガラスの女性の表情が変わったように航は感じた。
「現実の自分の存在をどうにかして周りに知ってもらおうとしているのは、きみも知っているだろう」
ー知っているわ。
 苛立たしい感情が伝わってくるかと、航は想像していた。
 が、窓ガラスに映っているのは寂しそうな表情だった。
ーだって、まだわたしたちはふたりとも存在しているんだから。それに母体はあの子の方だし。
 ため息が聞こえた気がした。
ーあなたの彼女の真っ赤な口紅のことでしょ。
ーちょっと思い出してみてよ。不思議だと思わない?
 航は視線を窓ガラスからそらし、あの夜のことを思い出してみた。
ーそんな考えなくても、簡単よ。
ー助けてと言いたいのはあの子。でも鏡に映っていたのはわたし。わたしはあの子と入れ替わろうとしている。助けてなんて言うわけないじゃん。ましてや彼女の口紅で鏡に助けてなんて書かないわ。つじつまが合わないでしょ。
「少なくともふたつのことが考えられるけど、ぼくは」
ー聞きたくないわ。
「知っているんだろ」
 窓ガラスの女性が視線を反らしていた。そして何も答えようとしないし、答える気もない、そんな雰囲気だった。
「もっと複雑かも知れないけど、簡単なことだけでもふたつだよ」
 航は勝手に言葉を続けた。
「桜子の部屋へ飛んできたきみを使ってあの子は自分の気持ちを伝えさせた。伝えさせただけじゃなく実際に口紅で鏡に文字を書かせたんだ。たぶんきみが気を抜いた一瞬か、もしくは意識の隙間をぬったか」
「でも、もうひとつはもっと簡単」
 窓ガラスの影が揺れた。
 航は優しくゆっくりと言葉を続けた。
「きみはぼくに話しすぎたのかも知れないね」
「きみ自身も助けて欲しいんだろ」
「きみはあの子のことが好きで、でもあの子はそれに気づいてないんだろうね」
「好きだからこそ助けたい。でもそれただと自分が消滅するかも知れない。自分の意識がいつしか芽生えちゃってるから自分を消滅させるなんて想像もしたくない。そうじゃない?」
 窓ガラスの表情が揺れている。
「だからもっと簡単って言ったんだよ」
ーそうかもね。
「悪びることは簡単かも知れないけど、自分に素直じゃないから心が疲れるよね」
 窓ガラスの女性がうつむき加減で首を横に振っている。
「きみがあの子を一番助けたいって思っている。それだけだよね」

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2009-11-21 14:35 | Midnight Zoo

きみのもしもし #126

 きみと携帯で話しながら歩いていると、ぼくの右側を少女が駆け抜けていった。それを追うように少年が続いた。
 そして、ズトンと音がした。
ーだいじょうぶぅ?
ーだいじょうぶ、だいじょうぶ。
 振返ると、少年がもののみごとに転んだようで、地面に倒れ込んだまま膝をさすっていた。少女はその傍らに戻って心配そうにのぞきこんでいる。
ーほんとに?
ーうん。
 少年はどう見ても痛そうに苦笑いをしている。少女は座り込んで少年のひざ小僧に手を添えた。
「もしもし、どうしたの」
 急に会話が止まったぼくにきみが心配しているみたい。
「ねぇ、もしもし」
「大丈夫だよ」
 そして少女にきみの姿を重ねてみると、不思議とぴったりと重なった。
「ほんとに大丈夫だから」
「へんなの」
 少女と少年は手をつないで歩き始め、きみとぼくはさっきまでの会話の続きを始めた。
[PR]
by hello_ken1 | 2009-11-08 11:59 | きみのもしもし

Midnight Zoo #29

 重苦しい公園の空気、航も桜子も感じていた。そして目の前に拡がる公園に対して身構えるように桜子は航の腕をぎゅっとつかんだ。
「気のせい?気にしすぎ?」
「いや、そうじゃないよ、たぶん桜子と同じことを感じていると思う」
 航は桜子に左腕をまくり上げて見せた。航の左腕には鳥肌が立っている。
 桜子はその腕を目にすると、唐突に、でも肩の荷が下りたように夕べのことを口にし始めた。ただ桜子も、そしてその話しに耳を傾ける航も公園の入口から一歩も中に入ろうとしない。とくに桜子の視点は公園の中に向いたまま、そのまま淡々と話し始めた。それは航に話して聞かせているというよりも、レコーダーから期せずして古い音声が流れ出したような、誰に向って音が鳴っている、何のために再生が始まったのかわからない、声と言うよりそんな機械的な音だった。
ー桜子はどこを見て話しているんだ?
 航は公園の中をじっと見つめながら話し続ける桜子の横顔を見つつ、それでも桜子の言葉を聞き漏らさないように聞き入っていた。今ここで「桜子、どうしたんが一体」と月並みな台詞で桜子の意識を自分に戻したとしてもなんにもならない、航はそれだけは自分なりに確信していた。とにかく情報をひとつでも多く手に入れないと、それからじゃないと今の桜子も楽にしてあげられないし、鏡の中のあの子もきっと救えない。だから航は平常心を装った、桜子が話すのは当たり前のような表情で桜子の話に耳を傾けた。でも航は桜子の手を握っている右手の力を少しだけ強めていることに気づいていない。

「ずっとひとりだったの」
 航は口をはさまないように聞いていた。
「好んでひとりでいたいわけじゃないのよ」
「幼い頃母親や父親との間にあったことがトラウマになっていると思うの」
「それがきっかけで夜いろんな人に会えるようになったんだ」
「最近はそれが怖くなってるんだけど」
「いつのまにか自分が自分でコントロールできなくて」
「そのうち自分じゃなくなるんじゃないかと」
「自分がここにいることを、ここに存在していることを覚えててもらいたい」
「わたしの存在に気づいて欲しい」
「知り合いにならなくてもいいの」
「その子知ってるよ、見たことあるよ」
「そのくらいでもいい」
「でも、少しだけでも話せて、やっぱり知りあいになって、輪に入れてもって、そして連絡を取り合えるような友だちになれれば」
「だからあなたのその口紅、わたしもしたいなぁ。だってとっても綺麗で印象的なんだもん」
「わたしがつけてもみんな振返ってくれるかなぁ。綺麗に見えるかなぁ」

「航、痛い」
 航がその声に我にかえると、桜子がつないだ左手を航の目の前まで持ち上げていた。
「痛いよ、航。手をつないでくれるのはとってもうれしいけど、ちょっと強すぎ、手が痛いもん」
 桜子がちょっと困ったような表情で、そっと包んでねと言っている。
「ごめんごめん」
 航はつないだその手の力をそっと緩め、同時に桜子を自分の胸に引き寄せた。
「ありがとう」
「何、どうしたの航、、、はずかしいよ」
「少しだけ見えた気がしたんだ」
「何?何?」

 いつしか公園では子供たちが走り回っていた。若いおかあさんがその子供たちを優しく見守っている。笑顔で歩いているカップルも見える。ベンチではおじいさんがおばあさんと日向ぼっこをしているようだ。
「こんなとこでいちゃつているー」
 少年が唇を重ねた航と桜子をからかうように公園に飛び込んでいった。

(続く)
[PR]
by hello_ken1 | 2009-11-01 10:19 | Midnight Zoo