今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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Midnight Zoo#24

 物音に目が覚めて、晴香は眠い目をこすりながらぼんやりと周りを見渡した。
「ママ、どこ」
 寂しいわけでもなく、怖いわけでもなく、意識が夢心地から覚めないまま、ドアの先に薄明かりを見つけた。
「ママ」
 無意識に薄明かりに向って近づいていくと、聞いたことのないうめき声が薄明かりの中から聞こえてきた。
ーこの先にママがいる。
 しかし、晴香はその薄明かりの中に入ることができなかった。
 母親の顔が薄明かりの中に見えた。
 口を半分開けているような、もうろうととろけているような、見た事もない意識がなくなっている、もしかすると母親ではない人影がそこに見えた。
「ママ」
 晴香のこぼれるような一言で、その人影と晴香は目を合わせた。
ーママ。
 人影は顔を左右に振り、また濃度の濃いうめき声を漏らした。
 そのときその人影の片足を持ち上げている、そんなシルエットのもう一つの影が振返り、晴香に微笑みかけた。
「ママーっ」

ー大声を、いや大声というよりは絶叫した記憶がある。
 微笑みかけたもうひとつの影があまりに恐ろしく、ほんとうにあれは影で、それも邪悪な影で、母親を見た事もない人影に変えた後は自分にも近寄ってくる、近寄って自分も影にされてしまう、そう瞬間的に思ったのだろう。
 その場所での記憶はここまでだった。
「これで終わりにするわ」
「はじめにおっしゃられたとおりの3杯目ですね」
 晴香はオンザロックのマティーニグラスを目の高さにかざし、ロックアイスを軽くまわすと、バーテンダーに微笑みかけた。
ーこの微笑みに何の意味があるのだろう。
 あのときも晴香は微笑んでいた。

 気づいたら、目の前にパパの寝顔があった。
 ここしばらく、どのくらいのしばらくだろう、かなりのしばらく。
 晴香はひさしぶりに父親の顔を見れて、微笑んでいた。
 でも、その父親の隣には見知らぬ髪の長い女性が寝息を立てている。
 晴香は父親の顔を見れたうれしさと、見知らぬ女性との組み合わせに違和感を感じた。
ーパパ。
 だめ、話しかけちゃいけない。
 とっさに晴香の脳裏に「だめ」という言葉が何百何千と飛び回った。
 父親が寝返りをうって女性の方に顔を向けると、女性は寝ぼけたまま父親の首筋にキスをした。

「はるかちゃん、起きなさい、朝よ」
 母親の声で目が覚めた。
 母親はすがすがしい笑顔で自分のベッドに横になっている晴香を覗き込んでいた。
 いきなりきょろきょろしだす晴香に母親はまた話しかけた。
「疲れたのねぇ。夜の動物さんたち、怖かったものねぇ」
 そうではないと言いかけて、晴香はまた部屋中をきょろきょろした。
「影がいたの。こわい影がいたの」
 母親の顔が曇った。触れてはいけないことを口にしたと晴香はとっさに思った。
「でもね、パパにも会ったの、パパは気づかなかったけど」
 横に見知らぬ女性が寝ていたことは言わなかった。
「変ねぇ、きりんさん見た後は、はるかちゃんはずっとママの背中に張りついていたんだけどな」
 晴香は深堀しちゃいけないと、曖昧な笑顔で母親の胸に飛び込んだ。

ーほんと、ある夜はじめてもうひとりの自分が自分を離れたんだろうな。それがよりにもよって、父親の浮気、それに気づいた母親の浮気、その両方に出くわしちゃったんだもんなぁ。
 今度は自分に苦笑いを向けながら、晴香は3杯目のマティーニを飲み干した。

(続く)
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# by hello_ken1 | 2009-09-22 11:10 | Midnight Zoo

きみのもしもし #118

「えっ聞こえない」
 きみの声が周りの音に遮られて聞こえない。
「だから聞こえないよ」
 何か言っているのはわかる。それもそれなりの大きな声で。
ーあれ、この音って。
 きみの声にじゃなく、きみの声を遮っている音に耳をそばだてる。
ーははーん、なるほどね。
 ぼくは遮っている音になぜか親近感を覚える。
「もしもし、、、、」
 その後の言葉がまた遮られた。
「、、、もしもし、、、」
 大丈夫、もうわかったよ。
 きみは花火大会に行っていて、夏をぼくに送ろうとしているんだね。
「さんきゅ」
「あっ分ったんだ」
 打ち上げ花火の合間にきみの声がぼくに届いた。
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# by hello_ken1 | 2009-08-09 14:30 | きみのもしもし

きみのもしもし #117

 いい言葉だ。
 そのひとことだけで気持ちが見えてくる、伝わっている。
 シンプルな言葉、きみはそれをタイトルにしてきた。
「会いたいね」
 時差の関係で深夜に受け取った携帯メール、観光で歩き疲れたぼくの身体を、気持ちを軽くしてくれる。
「もしもし、会いたいね」
 本文もこれだけだった。
ーそうだね、会いたいね。
 返信するメールには、橋の上から撮った夕日を送ろう。
 次回は一緒に来れますようにと、ひとこと添えて。
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# by hello_ken1 | 2009-08-02 15:35 | きみのもしもし

きみのもしもし #116

ー「もしもーし」
 タイトルからしてきみの声が聞こえてきそうなメールが届いた。
ーほんと行くの?
 明日からの一人旅のことを言っているんだね。
ーちゃんと準備できてるの?
 そう言われるとかなり自信がないな。
 とりあえずあっちに行くまでの手配だけは済んでいる。
 もちろん戻ってくるための手配もね。
ー観に行くとこ決めてないんでしょ。
 今、やっと観光本開こうとしているところ。
ー食事するお店はチェックした?
 そんな性格じゃないこと知ってるよね。
ー心配だからわたしの写真を添付します。お守りにしなさい。
 はぁーい、そうさせていただきます。
ー向こう着いたらメール一本入れるように。
 便利な世の中になったもんだね。この携帯があっちでも使えるんだもの。
ーお土産は、期待してるから。
 添付されてきたきみのくちもとまで「もしもーし」と言っているよう。
ーじゃ、行ってくるよ。
 ぼくは一言だけ返信してみた。
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# by hello_ken1 | 2009-08-02 15:35 | きみのもしもし

Midnight Zoo #23

 晴香にとって夜の動物園は「怖い」だけだった。
 園内にいる間中、正しくは入ってすぐレッサーパンダの両目が異様に輝いているのを見て、母親の後ろに隠れた。手は母親の洋服を強く握りしめていた。
「大丈夫よ、はるかちゃん。襲ってきたりしないから」
「出てくるもん。ぜったい、こっちにくるもん」
 もう半べそをかいていた。
 動物園に着くまではあれだけ楽しみにしていたのに。水筒も肩から斜めにかけて、夜だというのにお気に入りの黄色い帽子もかぶって、わくわくどきどきしてやってきたのに。晴香はどうしていいかわからなかった。
 母親は洋服をつかんでいる晴香の指をゆっくりと一本一本ほどき、晴香の手をしっかりと握ってくれた。
「ママが一緒だよ」
 晴香はうつむいたまま、頷いた。
 でも「パパは」と聞きたくなった気持ちを飲み込んだ。なんとなく「聞いちゃいけない、今はママと一緒にいるんだから、ふたりきりで動物園に連れてきてくれたんだから」そんなことを幼いながらに感じ取っていたのかも知れない。そして母親もうつむいたままの晴香の幼心を読み取ったのだろうか。
「そうだね、次はパパも一緒だと安心だね。パパがはるかを守ってくれるからね」
 晴香は母親のその言葉を聞いて、その声がとってもさみしく心に響いて、今夜はもう母親を困らせちゃだめだと思った。
ー怖くったって、せっかくの動物園だもん。ママがいるもん。
「ママ、ぞうさん見たい」
 そう言ったはみたものの、その声はか細く母親の手を更に強く握りしめた。
 でも、母親に戻った笑顔を確認し、ほんの少し晴香は安心した。

ーあのあとが初めてだったのかもなぁ。
 今、晴香はバーのカウンターでマティーニを傾けている。
 蒸し暑い今夜、カクテルグラスで何杯飲んでも、どんなに店内の冷房が効いていようと、この記憶を上手に消化することはできないと思った。
「マティーニをオンザロックでいただけるかしら」
 さっきお店に来て最初のオーダー。バーテンダーは一瞬目をきょとんとさせ、もう次の瞬間には笑顔でオンザロックの準備を始めた。
「3杯くらいはいくと思うわ」
 なんでそんなことを口にしたのだろう。結果3杯になるかもしれない、でも3杯で今夜は終わりにしようと自制心が事前に働いたのか。バーテンダーは接客向けの笑顔で微笑みかけた。

 その夜の動物園も蒸し暑かったのだろう。
 母親はハンカチで幾度となく晴香の額の汗をぬぐってくれた。そのたびに母親から優しく甘い香りが晴香に移った。
「ママ、いいにおい」
「今日は特別な夜だもの」
 夜の動物園、ふたりだけのおでかけ、こわーい動物たち。晴香にとってはもう十分に特別な夜だった。

ーでも、ちょっとだけ違ったのよね、特別の意味が。
 テスアされた冷たいマティーニは晴香を落ち着かせた。

 気がつくと晴香は母親の背中にいた。
「うぅん」
「目が覚めましたか、はるかちゃん」
 母親が顔を後ろにまわし、肩越しに晴香に話しかけた。
「次のきりんさんで動物園はおしまいよ」
「きりんさん」
「うん、きりんさん」
「きりんさん、見る」
 背中からおりた晴香に向って母親はしゃがみこみ、両手を取った。
「きりんさんみたら、帰るからね」
「もう」
「怖かったんでしょ」
「ママいるもん」
 晴香は母親の手を強く握り返した。
「そうね。でももう帰って寝よ。眠くなってるでしょ」
 そして母親の独り言が聞こえた気がした。
「ちょっとだけ寄り道するから」

(続く)
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# by hello_ken1 | 2009-08-02 15:34 | Midnight Zoo

Midnight Zoo #22

 赤いパジャマは、クローゼットのプラスチック製の箱に詰めることにした。
ーきっと迷わなくて、このパジャマをまた着たくなるときが来ますように。
 そんな思いを込めて、晴香はクローゼットを閉めた。

ー気分転換が必要かも。
 毎回、そして幾度となく朝を迎えるとそう思う。
ー気分転換をすれば、あれは単なる夢だったんだと思えるんだ。
 でも、日が落ちると、夜の色が濃くなると、そんな都合の良い思いをしたことすら忘れるくらいに不安に包まれる。
ー今夜はゆっくり眠れますように。
 気づくと、晴香はバーのカウンターでカクテルグラスを傾けている。
ーもうひとりのわたしがいるのなら、
 ゆっくりと、でもカクテルのお代わりを繰り返す。
ーわたしが居てもいいもうひとつの世界があってもいいはずよ。
 深夜の街、深夜の公園、深夜の路地、そして深夜のバー。
 昼間とは違う表情、停滞する空気、流れる冷気、違った活気、異空間。
 同じ場所、同じ人々なのに、まったくの異空間。
 そして、やはり晴香が連想するのは深夜の動物園だった。

 幼い頃、でも記憶にはずっと残り続けている夏のある日。
「はるかちゃん、動物園いこうか」
 母親の目がいつもと違って輝いていた。
 単に優しく自分に話しかけてくるときの母親の目ではなかった。
 幼い晴香にとって、母親がどんな目をしていようと、
ー動物園に連れていってくれる。
 そのひとことが心を踊らせた。
「うん、いつ、今日、これから?」
 母親は意味深に首を縦に振った。
「今日よ」
「えっ、ほんと、でも時間ない」
「ゆっくりでいいの」
 晴香には意味がわからなかった。
「日が落ちたら行きましょう。夜の動物園ツアーなの。きっと楽しいわよ」
 晴香は何が楽しいのか、もっとわからなくなった。
「夜になってもぞうさん、見れるの。きりんさんは」
「大丈夫。ぞうさんもきりんさんも、本当の姿が見れるから」
 首をかしげながら母親に聞いたこと、そして母親の答えが今でも鮮明に耳に残っている。
「みんなね、昼間は本当の姿は見せていないのよ。そこで生きていくための見せかけなの。でもね、本当はそうじゃない。暗くなってみんなの目がなくなったと思うと、ぞうさんもきりんさんもほっとして本当の姿を見せちゃうのよ」
「ぞうさんがぞうさんじゃなくなるの?」
「ちょっとだけ違うな。はるかちゃんの知ってるぞうさんじゃなくって、本当のぞうさんに戻るの」
 夜ってそういう時間なの、と言った母親の輝いている目がとても印象的だった。
「ママもそうなの?」
 母親は口元だけで微笑みながら、はるかちゃんもそのうちわかるわよ、そう言った。

(続く)
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# by hello_ken1 | 2009-07-12 11:53 | Midnight Zoo

Midnight Zoo #21

 梅雨の切れ間の日曜日だった。
 肌にまとわりつくうっとうしさを振り払うように、ひなのは足早に歩いていた。
 空はどんよりと分厚くダークグレーの雲ではなく、雲が青空を隠しているとしても、白く明るい雲が拡がっていた。ただ、雨は降っていないと言うだけで、梅雨独特の不快指数に変わりはない。

「こっちこっち」
 瑛太は待ち合わせのカフェのテラスから、めざとくひなのを見つけて声をかけてきた。
ー蒸してるのに、どうしてテラスになんて座っているんだろう。
 不快指数がひなのの感情を増長させたのか、ふとひなのの脳裏を不満が横切った。

 カフェの入口に立ったひなのは胸の谷間に汗が流れるのを感じた。
ーやだ、もう。
 中に入るとひなののうなじに冷気が触れる。ここちよい冷気。
ー気持ちいい。
 そして、お店の奥、通りに面しているテラスからは瑛太がこちらを見ている。
ーだから、なんでその席なのかなぁ。

「温かい珈琲にしようっ」
 瑛太のその言葉に、テラスまで来たひなのは不満げな感情をあらわにした。
「いいから座ってごらん、わかるからさ」
 早く腰かけるように促す瑛太のゼスチャー、それは少しこっけいでもあった。
「あっ」
「でしょっ」
 何も瑛太がすごいのでもないけど、ひなのは瑛太の行動がすべて理解できた気になった。
ーこのテラスは蒸し暑くない。
 さっきうなじに感じた冷気がここでは足に絡みつきながら、店内からテラスを通って通りの歩道に向って流れている。その冷気はくるぶし辺りまで感じる。そして湿度の低い心地よいわずかな風が同じように店内からテラスへ、顔の高さで流れている。
ーこの席って、すごい。
「ここにいるとね、冷たい飲み物じゃなくて、温かい飲み物が欲しくなるんだよ、こんな湿度の高い日でもさ」
 瑛太が微笑んでいる。ひなのは自分が感じていた不快感が流れる冷気と一緒にさらりと流れ去っていくのを感じた。
ーうん、瑛太の笑顔ってほっとするなぁ。
「それに冷たい飲み物は胃によくないっしょ」
 超まじめな眼差しでひなのを見つめてくる瑛太の行動も、それだけでひなのを安心させる。
ーなんやかんやいっても、やっぱりこのひとはわたしに必要なんだろうな。
 自然と頬が緩んできたひなのを見て、瑛太がまた微笑んでいる。
「さてと、まずはブランチにしようぜ。何がいいかな」
ー瑛太、ありがと。
「ん?」
「ありがとって言ったの」
「え?」
「誘ってくれてありがとね、瑛太」

(続く)
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# by hello_ken1 | 2009-07-05 11:00 | Midnight Zoo

きみのもしもし #115

 宅配便が届いた。
 午前中早い時間の突然のピンポンで、寝起きの乱れた髪のまま、その宅配便を受け取った。
ー誰からだろう。
 部屋に戻り、差出人を確認するときみの名前の伝票がついている。
ーなんだ、いったい。
 昨日もその前の夜も会っているのに、きみからは何も聞いていない。
 四角い箱の包装紙を取ると、一枚のメモ。
「もしもし、ボーナスが出たの。いつものお礼にこれあげるね」
 メモにも「もしもし」
 ぼくは苦笑いをしながら、箱の中からいつものお礼だと言う品を取り出してみる。
 おっ、ウイスキーのショットグラス。欲しかったものだ、ありがたい。
 さて、お返しはどうしよう。
 でもそれよりも、まずはきみに「ありがとう」を伝えなくっちゃね。
 番号を押すケータイの先に、きみの笑顔が見えた気がした。
ーありがとう。
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# by hello_ken1 | 2009-06-27 19:03 | きみのもしもし

Midnight Zoo #20

 桜子が目覚めてリビングに行くと、そこでは航が珈琲を飲んでいた。
「おはよ」
「うん、おはよ。珈琲あるよ」
「自分で入れるから、座ってて」
 航がカーテンを開けると、明るい陽射しがリビングの中央まで射し込んできた。
ーあぁ、もうお昼近いんだ。
 桜子は珈琲カップを片手にテーブルに向かい、航の横に座った。いつもの正面に座るのではなく、なんとなく航の体温を感じたく、横に座り、少しだけ肩を寄せてみた。航も少し桜子に肩を寄せてきた。
 そうやってふたりは肩を寄せたまま、足元に射し込んでいる陽射しに目を細め、珈琲をゆっくりと口にした。
「美味しいね」
「ちょうどいれたばっかりだからね」
「うぅうん。航と一緒に、こうやって飲む珈琲はやっぱり美味しいんだよ」
 そう言って、桜子は航と唇を重ねた。

 赤いパジャマが洗濯機の中がまわっている。
 泡立ちの中に沈んでも、その赤い色が見えなくなるわけではない。白い泡の下に赤いパジャマがあることは間違いなく、晴香の目に入ってくる。
 晴香は泡の中で赤い色がくるくるまわるのをじっと見つめていた。
 昨日卸したてのパジャマを一晩着ただけでもう洗っている自分がいる。でもそうでもしないと気持ちが落ち着かなかった。
ー洗っても、もう着ないかも知れない。きっと着ないんだろうな。
ーわたし、捨てちゃうのかな。お気に入りで買ったのに。捨てないよ。
ーこうやって洗って、今日の陽射しで日に干して、太陽の香りで包んであげて。
ーそれでも、やっぱり着れないんだろうな。捨てらんないし、着れないし。
ータンスの引き出しの奥にしまいこんじゃうのかな。このパジャマは何にも悪くないのに。
ーそう、何も誰も悪くないのに。
 晴香の頬に涙が伝った。

「デートしようぜ」
ー誰、まだ眠いよ。頭まわんないし。
「もう、お昼だぜ。起きなよ。まずはブランチから始めよう」
ーあー、瑛太だ。瑛太のいつものモーニングコールだ。メールでいいじゃん。
「待ち合わせどこがいい。先に行ってるからシャワーでも浴びてのんびり来ればいいからさ」
ーそうだ。瑛太に話さなきゃ。
「おはよ、瑛太」
「目覚めましたか、お姫さま」
「デートしよ」
「そう言ってるじゃん」
「うん、デートしよ」
「・・・どした」
「聞いてもらいたい話があるの。会ったの。夜に現れる女性に夕べ会ったのよ、わたし」

(続く)
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# by hello_ken1 | 2009-06-21 12:16 | Midnight Zoo

きみのもしもし #114

「あのね、神社に行ったの」
 きみがめずらしく電話をかけてきた。
 いつもなら、まずメールが来るのに。
 とても楽しそうな声、きみの声がはずんでいる。
「そしたらね」
 ぼくは「うん、うん」と相づちを打つ。
「聞きたい?」
 話したいときに限って、必ずこの質問、きみはずっと変わらないね。
 ぼくはまた「うん」と相づちを打つ。
「そうね、じゃあ、メールで送ったげる」
 ぼくはもう一度「うん」と相づちを打つ。

ーもしもし、神社にね。
 きみはメールが「もしもし」で、電話がいきなり「あのね」なんだね。
 これもずっと変わらない。
ーあなたとずっと仲良しでいれますようにってお参りしに行ったの。
 ぼくはお祈りをしているきみの後ろ姿を想ってみる。
ーそうしたら、ちょうど挙式がはじまって。
 ぼくも一緒にお参りしたかったなぁ。
ーなんとく、とっても、いい感じでしょ。
 ぼくは今、もう一度きみの声がとってもとっても聞きたくなった。
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# by hello_ken1 | 2009-06-14 19:11 | きみのもしもし