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今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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そのひとの男の子


kettle 4 the coffee, originally uploaded by hello.ken1.

 美味しかった二杯目の珈琲は残りわずかになり、冷めはじめていた。
 そのひとは会話の場所をテーブルからソファーに移し、でもぼくはテーブルについたまま、そのままでそのひとの話を聞いていた。
—かちゃん。
 リビングの外で物音がした。
「あれ?何か音がしませんでしたか」
「気のせいよ」
 そのひとはゆっくりと微笑む。
「どろぼうでもきみがいるから大丈夫でしょ。家に男の子がいるって心強いわ」
—男性って言わず男の子ですか。
 ぼくは苦笑いをする。
 そのひとはソファーに体を預け、グラスを口にする。そんなに飲んでいるとは思えないけど、そのひとは少しまどろみはじめているよう。
「娘は今夜、外出みたいだし」
 ぽつり。
「わたしが言うのもなんだけど、美人だよ」
 娘の話になるとまどろみから戻ってくる。
「今度紹介してあげようか」
 懐かしそうにほほえむ優しい表情のそのひとが言葉を続ける。これが娘を愛する母親の顔なんだろうな、ぼくはふと田舎のお袋を思いだした。
「あのこ、あぁ娘のことね」
—えぇ今、ライブハウスでぼくを待っていますよ。
「あのこの上にはね、男の子がいたんだよ」
—え。
「今だときみくらいの年頃かな」
 ゆっくりと天井の明かりに視線を移すそのひと。少しの沈黙、そして目がしらにそっと人差し指をあてる。
「珈琲冷めちゃったね。新しいの、入れるよ」
 そのひとはソファーから起き上がると、氷の溶けきったジンのグラスをぼくの前に置いた。
「だから気持ちはとってもうれしいんだけどさ、きみはわたしにとって男の子なんだよね。大好きな男の子」
 ぼくの中でそのひとの表情とお袋のそれが重なった。
by hello_ken1 | 2006-02-25 11:57 | そのひと
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