雨の中、そのひとの娘と肩を並べて歩いていた。
雨はときおり強く降り、そのひとの娘の右肩を濡らそうとする。
「わたしは大丈夫、濡れてないから」
ふたりで入るには少し小さいその傘を、そのひとの娘はそっとぼくの方に傾ける。
「ぼくも大丈夫だよ」
「左肩、濡れてるのわかってるんだから」
そのひとの娘はくちびるをつきだし、ぼくの言葉を否定する。
「それにわたしの右肩にあるあなたの右手も」
「ぼくの右手は濡れてないよ」
ぼくは言葉を続ける。
「ぼくの右手が濡れないようにすれば、きみは濡れないはずだから」
そのひとの娘は立ち止まり、少し考える仕草を見せた。
「じゃ、こうすればいいのね」
そしてそこから駅までの道、そのひとの娘はぼくの体にしっかりと身を寄せ、そのひとの娘のやわらかい胸がぼくの体をほんの少し熱くした。