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プロミス #21店長から教えてもらったパソコンのホルダーには、確かに沢山のスナップ写真が保存されていた。店長は自分の写真におれが興味をもったことに、ことのほか上機嫌で、レモンスカッシュのお代わりをつくってやると言い出した。 「レモンスカッシュはもういいよ」 「そうだな、2杯はないかもな。じゃぁ、大人の珈琲を入れてやるよ」 確かに珈琲だったらいいな、おれは「大人」という響きに不思議な感覚を覚えながらも素直に頷いた。 店長が珈琲豆を新たに挽いている間、おれはホルダー全体を見るそぶりで、麗奈とあーくんとおれの新幹線のホームでの写真を見つめていた。 そこには確かに麗奈がいた。守ってあげなくっちゃと思わせる麗奈の笑顔が写っていた。その写真は麗奈のその笑顔が以前にも一度、見たことがあるとおれに気づかせた。 あの日、麗奈は陽射しの差し始めた境内で、おれと並んでブランコに腰掛けていた。 「わたしね」 色白の麗奈の顔に、午前の柔らかい陽射しが当たっている。 おれはそんな麗奈が隣にいるだけで、耳たぶが熱くなるのを感じた。でも手のひらの温度は少し下がった気がしていた。 「きみたちふたりのことは前から知ってたよ」 麗奈が自慢気に笑っている。おれたちが気づく前から麗奈はおれたちのことを知っていたと、おねえさんっぽい眼差しで笑っている。麗奈はブランコを少しだけ揺らした。それだけでおれの耳たぶはますます熱くなった。 そのあとしばらくとりとめもない話題が続き、でも話しているのは麗奈で、おれは照れ笑いの相づちをうつばかりだった。 「そしたら明くんがあのとき真っ赤な顔してハンカチを差し出してくれたんだ」 運動会で麗奈が転んで、膝にケガをしたときのことだ。 「すごい勇気だったと思うよ。わたしのクラスの子たちにひやかされてたもん」 麗奈はブランコをこぐのをやめた。 「うれしかったなぁ」 境内の大きな木を見上げるようにして、麗奈は言った。 「でも、わたしも恥ずかしかったんだよ」 麗奈の視線を感じた。きっと麗奈は今、おれのほうを向いている。おれは麗奈の方を向けず、今度はおれがブランコを揺らした。 「大人の珈琲、入ったよ。どうぞ」 店長がおれのそばに立っていた。 「やっぱりその小学生はお前らだったのか」 店長はうれしそうに目を細めた。パソコンの前に差し出されたその珈琲は、整った上品な香りをたたえていた。 「はじめて明と祐二がこの店に来た時、初対面の気がしなかったんだよな」 満足げな表情で店長はおれの肩をたたくと、麗奈の姿を指さした。 「この壊れそうな笑顔の女の子はこのあとどうしたんだい」 境内の大樹の枝がかすかに揺れている。柔らかい陽射しが枝々の葉を照らしている。 おれは麗奈の顔をどうしても直視できなくなっていた。麗奈からこの境内に呼び出されるまでは、そんなに意識もしなかったのに、今は隣でブランコに乗っているだけで、心臓が締めつけられるような気持ちになる。 「でね、」 麗奈の声色が少しだけ低くなった気がした。ここにおれを呼びだした理由に触れようとしている。 「わたし、転校することになると思う」 思わずおれは麗奈の顔に目を向けた。 「明くんはわたしのことが好きなんだよね、きっと」 あーくんだけじゃない、おれも麗奈のことが、このときおれは自分の気持ちをはじめて知ることになった。 「明くんのことも好きなんだけど、」 「だけど、」 ーもっと好きな男の子がいるの。だから。 聞こえてきた心の声に思わず反応し、おれは麗奈の目をじっと見つめてしまった。 「うぅん、わたし転校しゃうのよね」 「転校してったんだ。それから連絡が取れなくなっていたけど、今、あーくんが連絡をとろうとしているんだ」 店長は、ふむふむと頷きながら、またカウンターの奥に戻って行った。 おれは店長がいれてくれた珈琲に口をつけた。その味は香り以上に苦味のあるものだった。そしてその苦味はおれにあーくんととても話したがっているおれ自身を気づかせてくれた。そう、この珈琲が本当はおれが何をしたいのかを、気づかせてくれた気がした。 いろんなことをあーくんに確認したくて、葉子のこと、タバコのこと、でもどう切り出せばいいか、わからずにこの喫茶店にやってきたのに、今おれがあーくんに聞きたいこと、確認したいことはひとつだった。 ーあーくん、麗奈は元気なのかな。 店長のいれてくれた珈琲をまた口に運ぶ。確かにまだおれには届かない大人の味がした。 (続く)
by hello_ken1
| 2006-12-31 19:35
| プロミス
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