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プロミス #31明の頬をなでるものがあった。 軽く風が吹いただけなのに、花びらが明の周りを舞っていた。 「早すぎだろう」 明は公園のベンチでひとり、ぽつりとつぶやいた。 ー今日は、会いに来ちゃ、だめだからね。 ー電話も、だめだから。 ーメールもやめて。 葉子からさっき、明に嘆願するような電話があった。 たどたどしく、でも、明からの質問を一切受け付けない、そんな意識がその電話から明に伝わってきた。 ーゆうちゃんが会いに来るのか。 ーきちんと話にくるんだね。 ーハコはどうするつもりなの。 明は出かかった問いかけを全部胸の中にしまい込んだ。 ーわかったよ。今日はやめとく。 ーでも、おれにはいつでも電話してきていいんだよ。 明は葉子とのさっきの電話を思い出しながら、この時期の桜の開花に、去年までとは違う自分たちの変化を重ねていた。 ーほんと、きみたちふたりは妙なところが似ていて、変に優しいんだから。 そう言って葉子は電話を切った。その最後の言葉から葉子の葛藤が明に伝わった。 いくら暖冬とは言え、まだ桜の花びらが散るには早すぎる。それよりも桜が咲いていること自体が間違っている。 でも、現実は今日のような暖かい日に、そっと風が吹くだけで、桜の花びらが宙を舞っている。 「早すぎるよ」 明はひらひらと舞う花びらを目で追いながら、葉子との出会いを思い出してみた。 明と祐二が葉子と出会ったのは、1年前の桜の満開の時期だったから。 「ねぇ、そこの高校生の男子、早く自転車どけてくんないかなぁ。悪いけど、急いでるのよね」 駐輪場、そう言えば聞こえはいいが、単に横一列にすき間のないほど大量の自転車を並べているだけの線路沿いの自転車置き場、そこで明と祐二は突然、背後から声をかけられた。 「おねえさん、ちょっと待っててよ。今、出すからさ」と明。 ーあのとき、ハコは小さくため息をついていたなぁ。 「あーくんさぁ、チェーンロックの暗証番号何番にしたっけ」と祐二。 「自分の番号、もしかして、忘れたのゆうちゃん?」 「変えたばっかりだからさ」 「もしもし、きみたち。ほんとにその自転車、きみたちの」 ー不審がってたなぁ。もうちょいで警察呼ぶような感じだったもん。あれからほぼ季節もひとまわりってことか。 「おれんだよ、これは。ここに名前入ってんだろ。小早川祐二。鍵の番号をちょっとど忘れしただけじゃん」 「おー怖い。わたしに逆ギレされてもねぇ」 「おねえさんの自転車、どれ?先に出してあげるからさ」 「そうね、そうしてくれると助かるわ。自転車泥棒さんたちにかかわり合いたくないし」 ーあのあと、ハコが去り際に言い残した番号がなぜか正解だったんだよなぁ。 「小早川祐二くん、0426なんて番号かもよ」 明は暖かい陽射しにつつまれた公園のベンチで桜の木を見上げ、携帯のメモリーから祐二の番号を呼びだした。 「散っちゃうには、早すぎるよな、ゆうちゃん」 (続く)
by hello_ken1
| 2007-03-11 15:15
| プロミス
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