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今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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プロミス #36


Genie, originally uploaded by ukjc07.

 いつもの喫茶店で、おれはマスターと話していた。

「何だかうまく歯車が噛み合わないなぁ」
「噛み合っているのかも、な」

 葉子と別れて、何気に立ち寄ったこの店。
 入口のドアを開けた時、立ち寄れるところがあるのっていいなぁ、と感じた。
 マスターは
「いらっしゃい。久しぶりだね」
 それだけ口にして、夜の営業に向けて準備にとりかかろうとしていた。
「今日は天気よかったから、喉が渇いてるだろう」
 注文を聞くかわりに、
「悪いけど、冷蔵庫にあるもの何でも飲んでいいから、自分でやってくれるか」
 なぜかマスターの笑顔がうれしかった。

「ビールでもいいわけ?」
「いいよ、祐二が飲みたい心境ならな。無理しなきゃ、いいんだよ」
ーそうだよね、無理しなきゃ、いいんだよね。

 おれは冷蔵庫からジンジャエールをとりだすと、タッパに入っているスライスされた檸檬を1枚、グラスに浮かべてみた。
「いい選択だね」
 笑いながらマスターが近寄ってきて、キャップに一杯のジンを注いだ。
ーえっ。
「いいんだよ。このくらいは入れたか、入れてないか、わからないくらいなんだから。美味しいぞ」
 マスターはアイスピックと包丁で器用にアイスボールを作り始めた。

 静かな店内にマスターの氷を削る音だけが聞こえていた。
 おれは二、三口ジンジャエールで喉を潤した。確かに美味い。
 そして、ケイタイの着信履歴をもう一度、確かめてみた。あーくんから3回かかってきている。葉子の部屋についたとき、葉子と散歩にでたとき、葉子と握っていた手を離したとき、たぶんそのくらいの時間。そして、その3回目の着信であーくんは留守電を残していた。
ーだめだよ、別れちゃ。
 早足で歩きながら電話をかけているのがわかる。ざっざっざっ、と歩いている音があーくんの声と一緒に留守電に入っている。

「噛み合うってなんだろうね、祐二」
 マスターは手を休めて、ビールを飲みはじめた。
 おれもビールにすればよかったと思うくらい、美味しそうにマスターはビールを飲む。
「祐二は噛み合わないって、よくないことだと思ってんだろ」
「噛み合わない時も、噛み合わないことを気にする必要はないんだよ」
「それはスピードを落とせってことだけだから」
「スピードを落とすと、実は噛み合っていたってわかるから。不思議とな」
 独り言のようにマスターは言葉を重ねた。

 ケイタイが鳴った。あーくんからの4回目の電話だ。

「自分のスピードで、目の前のものをひとつずつ片づけて行く。あせんなくてもいいんだよ」
 マスターは視線でケイタイに出るように、おれに言った。

 かかってきたケイタイから、息遣いの荒いあーくんの声が聞こえてきた。
「今、どこ?ゆうちゃん」

(続く)
by hello_ken1 | 2007-04-15 17:54 | プロミス
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