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きみの写真を撮ろうとするわけ
涼子は一度だけ祐二に尋ねたことがあった。
「ねぇ写真撮るの、楽しい?」 「楽しいよ。風景を切り取るのも楽しいし、涼子の笑顔を撮るのも好きだな」 「いっぱい撮ってるよね、わたしのこと」 「うん、だって自然な笑顔でこっち向いてくれるんだよ、涼子は」 −でも と、涼子は思った。 −でもね、きみはいっつも尋ねてくるんだよ。「ねぇ撮っていい?」ってさ。 「涼子の笑顔をいつでも見れるようにさ、手帳に忍ばせておくんだよ」 裕二の口から意外な言葉を聞いた気がした。このひとはわたしの写真を持ち歩いてくれている。 「子供の写真を持ち歩くパパみたいだね。でもさ、だったら一枚あればいいじゃん」 「きみの笑顔って一種類だけじゃないだろ。いつも一緒じゃないんだからさいろんな涼子を持っときたいの」 「いつでも呼んだら会いに行ってあげるよ」 「そうもいかないだろう」 「わたしはそんな事ないよ。裕二はさ、わたしと仕事どっちて聞いたらきっとわたしより仕事を選ぶでしょ」 「聞くの?」 「聞かないよ、わかっていても知りたくないもん。でもね、それでいいのよ。そうじゃなくっちゃ。どんなときでもわたしは大丈夫だからさ」 「うそだね」 −そう、うそだよ。そんなのうそに決まってんじゃん。 涼子は顔を10センチ裕二に近づけた。 「じゃあ、うそだと感じたときだけは何をおいても会いに来てよ」 「わかんないな」 何食わぬ表情でテーブルの上のカメラを手にする裕二。 「えっ」 「いや、うそがどうかがわかんないってこと」 「わかるようになってよ、そのくらい。それだけでいいからさ」 −あのクリスマス一週間前、ここでそんな会話したなぁ。 二杯目のコーヒーを半分ほど飲むと、視線がテーブルの上の携帯電話に落ちた。折りたたんだその携帯の小窓にはメールの着信を知らせる絵文字が静かに点滅していた。 −あっメールだ。 そう思い携帯電話を手にとろうとした涼子の視界に息を切らした裕二の姿が入ってきた。久しぶりに会うふたり、涼子は裕二の顔を見ながら昨年のクリスマスのやりとりを思い出していた。 「今夜、行けなくなった」 「仕事なんだね」 −どうしても来れないの。 「予約どうしよう」 −遅くなっても来てほしいな。はじめてのクリスマスだよ。 「大丈夫だよ。キャンセルも」 「どうしてる」 「そうだね、観たかった映画が今日までなんだ。それに行くよ」 −クリスマスまでの映画なんてないよ。会いたいな。 「じゃあ、わるいな」 それからずっと続いてる裕二の多忙な仕事。 なんとなく会いたくなくなったのは涼子の方。 「やっぱりここにいたんだね」 −ねぇわたしたちはどこにいるのかな。 「写真、クリスマスの前にここで撮った写真、できたぜ」 −ずっと会ってなかったね。 裕二はお店のサービスのコーヒーを受け取ると、涼子の隣にゆっくり座った。座るとひじをつき、涼子の顔を覗き込んできた。満面の笑顔、裕二の笑顔。 −不思議だなぁ、この笑顔。 裕二の笑顔が涼子のわだかまりを溶かしていく、涼子自身がそれを一番感じていた。
by hello_ken1
| 2007-08-18 09:19
| another story
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