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Midnight Zoo #6
「どうしてなんだろう」
ひなのはリビングのテーブルにひじをつき、両頬を包むような姿勢で考えていた。 週末の朝、今日は快晴、すでに朝日がレースのカーテンを通してテーブルまで届いている。 青空も見える。薄いブルーだ。雲一つないすがすがしい朝。 ーでも、 「不思議だなぁ」 目の前にあるケイタイの履歴を再確認してみる。 メールの受信ボックスに瑛太からのメールは数えるほどしかない。女友だちや瑛太以外の男の子からのメールの中に埋もれている感じ。送信ボックスには瑛太宛のメールはきちんとそれなりの数、存在している。 ー電話の履歴はどうかな。 履歴を表示してみるまでもなく、分っていた。 瑛太宛の発信履歴はない。瑛太からの着信履歴は山ほどある。と言うよりも着信履歴は瑛太からのものしか存在しない。 ひなのはその着信履歴を見て、瑛太の優しい声を思い出すより先に、少し怖いものを感じた。不思議な感覚から、そうではなく、ストーカーという言葉の響きから受ける印象によく似ていることに気づいた。 「どうして毎回電話なのかな」 「メールじゃ気持ち伝わんないだろ」 「でもさ、メール方がうれしい時もあるんだよ」 「ないよ。だってメールは所詮キャラクターじゃん」 ー確かにキャラクターかも知れないけどね。 あのときはそう答えようとして、ひなのは言葉を飲み込んだ。 そして今は、自分に聞こえるように口にしてみた。 「キャラクターを見て、そのメールを打っている瑛太を想うのも、けっこう良いものなんだよ」 ーどうして、わかんないのかなぁ。 やかんにお湯が沸いている。湯気がやかんの口から勢いよく換気扇に向って吐き出されている。 ひなのはキッチンの戸棚からドリップ式の珈琲パックを取り出した。 ーそう言えば、 「豆から珈琲いれるの苦手だって言ってたよな」 あの日のお昼まだベッドから起き上がっていないのに、いきなり、そして唐突にケイタイから瑛太の声が聞こえた。 「、、、おはよ」 「あっ、おはよ。寝てた」 「いいよ。どしたの」 「ドリップ式の珈琲パック、買った」 「え、意味わかんない」 「これきっとめんどくさくないよ」 今から持っていくからとか、だからいるかどうかを確認したいから、じゃない。 まったくメールでいい内容の電話も瑛太はしてくる。 ひなのは珈琲パックにお湯を注ぐ。 優しい香りがキッチン中に広がる。それはリビングにも、そして部屋中に広がるんだろう。 「まぁいいか」 珈琲カップを片手にテーブルに戻ると、ケイタイを手にしてみた。 ーふふ、電話してみよ。 ひなのは自分が微笑んでいる事も、また不思議に思った。 (続く)
by hello_ken1
| 2009-01-03 10:31
| Midnight Zoo
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