今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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2007年 05月 27日 ( 1 )

プロミス #42


zutto zutto issho, originally uploaded by oceanT.

「なんかまだ頭がぼーっとしているの」
 Tシャツに短パン姿の葉子が、おれを部屋に通す。
 数時間前に薬を飲ませて、おねえさんに着替えさせてもらったままの格好が、寝ぼけ眼の表情と相まって、とっても艶っぽい。
「あと三十分だけ寝てもいいかなぁ」
 葉子があくびを飲み込もうとしているのがわかる。まだ薬が残っているのだろう。
「いいよ。気にするなよ。モンブランは冷蔵庫に入れておくね」
「なんだっけ、モンブランって」
ーえっ。
「買ってきたよ。あとで一緒に食べよう」
「目が覚めても、祐二はそばにいるよね」
 最後の方は聞き取れないくらいの声、でも葉子の目はうっすらと開いている。睡魔に完全に吸い込まれる前、残っている少しの意識で葉子がおれを見つめている。

 その眼差しに、そのうっすらと開いた目に、おれはふと違和感を感じた。
ーアイニコナイ。
 葉子の体から、いや、その視線から声が聞こえた気がした。おれはまた心の声にふれたのだろうか。
ーだから会いに来たのに。なのにわたしだと気づかないのはなぜ。
「ハコ、どうした?」
 おれは葉子の顔をのぞき込んだ。
ーきみも明くんと同じ。わたしだと気づかない。
 ほとんど眠っているはずの葉子の口元が、異様につりあがり、笑っている。
 葉子を起こそうと、肩に手を伸ばすと、反対に葉子がおれの手首をつかんだ。指の跡が手首につきそうなくらい強いつかみかただった。
「安心していいよ、手首を離してくれないか、ハコ」
ーまだ間違えてる。気づかないの。
 葉子はおれの右手首をつかんだまま、自分の左胸に押し当てた。
ー柔らかいのはいつも祐二くんが触っていたハコの肉体。
「麗奈?」
ーでも今、ハコの心はわたしが借りて、祐二くんに話しかけているのよ。
 昼間のショックが葉子に麗奈を演じさせているのか。それとも本当に麗奈なのか。おれは今の自分の心臓の鼓動が、目の前の女性に伝わらなければよいなと思った。
ー明くんは最後まで信じなかった。わたしが麗奈ってことを受け入れなかった。
 あーくんは何を見たんだ、いったい。
ーだから教えてあげたのよ。ハコだったらこんな馬鹿なことはことはしないでしょって。
「あーくんに何をしたんだ」
ー祐二くん、わたしは誰でしょう。
「ハコ、あーくんと何を話したんだ」
 一瞬、ノイズだらけのラジオのように音声が途切れた。
ーどうして、ふたりとも、わたしを信じないの。どうして会いに来てくれないの!

 葉子は寝息を立てている。
 おれは赤く指の形が残っている右手首を見ながら、数分前に聞こえてきた声に考えを巡らせていた。
ーここで本当に何が起こったのだろう。あーくんは何を知っているのだろう。麗奈は大丈夫なのか。ハコは元気に目覚めてくれるだろうか。
 葉子が少し寝返りをうち、こちらに顔を向けてきた。葉子は眠ったまま微笑んでいる。
 おれはそんな葉子のそばにいて、葉子に何よりも微笑んでいて欲しい、それだけははっきり言えると、葉子が目覚めたら、世界中の誰にでもそう言えるとこの子に約束しようと、そう思った。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-05-27 10:29 | プロミス