今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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2007年 06月 10日 ( 2 )

プロミス #44


fallen and forgotten..., originally uploaded by jojoro.

「おかあさん、正直、信じがたいとは思いますが、」
「先生、止めてください。ひとりっこなんですよ」
 明の母親と由香の彼氏をとりまく空気は、すでに流れを止めていた。
 休日の診察室で、母親と彼氏が静かに言葉を交わしている。
 今にも壊れそうな母親、できるだけ事実を正確に伝えようとする彼氏、すでに言葉は行き詰まりかけていた。

「セカンドオピニオンってご存知ですか」
「言葉くらいは」
「もう少しわたしの方で検査してみますが、もし結果にご納得いかないようであれば遠慮なく言ってください」
「あとどのくらいあのこは」
「詳しくはこの後の検査でわかると思います」
「先生の今の考えでいいんです。あのこは、明は、あとどのくらい笑顔でいれますか」
「それがわかるためにも、このまま検査をさせてください」

 明の母親は診察室を出ると、携帯電話を取りだし、フランスに単身赴任している夫に電話をしてみた。
ーいつも肝心な時にあなたは電話にでないんだから。
 母親は夫の留守番電話に、メッセージに気づいたら折り返し電話をくれるように伝言を残した。

 個人病院と言えども、それなりの広めのロビーで母親はひとり、つながらない携帯電話を持ったままソファーに腰かけていた。病院の診療は休みのため、ロビーの電灯は半分が消えている。少し薄く暗い中で、母親は何を見るともなしに、足先のその先の床を見ていた。床はきちんと清掃されているようで、電灯の明かりを反射している。
ーこの病院はちゃんとしているのねぇ。床もきれいだし。
 母親は何かにすがりたい気持ちで一杯だった。

「おはようございます」
 反射的に涙をぬぐい、母親が顔をあげると、由香が立っていた。
「お早いですね。もう明くんも起きてますよ」
「あなたは」
「明くんの友だちの祐二くんの友だちです。明くんのお母様ですよね」
「あっ、明の入院のときに先生に口を効いていただいた」
「はい、あの先生とも知り合いですから」

 母親はこの女性にいっそのこと今の気持ちを聞いてもらおう、聞いてもらって少しでも気を楽にしてもらおうと思ったが、その気持ちはすべて飲み込むことにした。

「失礼ですが、あの先生は優秀なんですよね」
「優秀かどうかはよくわかりません。でも、患者さんのために一生懸命になるひとですよ。まだまだ若いので頼りなく映るかも知れないけど、経験が足りない分はその一生懸命さで十分おぎなっていると思います。だってわたしとのデートより患者さんとの会話をとるひとですから」
 由香の苦笑は、明の母親に十分な安心感を与えた。
「そう、優秀な先生と言うより、いい先生じゃないかな」
「わたし、いい先生が明の担当でよかったです」
「それは先生に言ってあげてください。よろこびますよ。あっ、ちょっとごめんなさい」
 由香の携帯がふたりの会話に割り込んできた。
「うわさをすれば何とやらです。ランチのお誘いかな。先生がわたしに会いたいそうです。ゆっくりデートもできないみたい」

 軽やかな足取りでロビーを去って行く由香を見送りながら、母親はゆっくりとソファーから立ち上がった。
ー笑顔、笑顔。
 母親はやんちゃだった小さい頃の明を思い出しながら、病室へと向った。
 
(続く)
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by hello_ken1 | 2007-06-10 11:38 | プロミス

きみのもしもし #15

「週末は何をしてるの」
 さっきまではしゃぐように話していたきみの言葉が止まった。
 このケイタイの先には、きみとも、そして誰ともつながっていない様。

「どうしてかなぁ」
 きみの不機嫌そうな、さみしそうな声。
「そんなこと聞かないでほしいな」
 そして、きみは優しく言葉を続ける。
「週末はあなたと一緒にいたいんだから」

ーそうだよね。だから電話をしてるんだよね。
 会えない週末、きみとぼくはもしもしで一日をはじめる。
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by hello_ken1 | 2007-06-10 09:36 | きみのもしもし