今は「Midnight Zoo」と「きみのもしもし」を掲載中
by hello_ken1
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2007年 06月 30日 ( 1 )

プロミス #47


new memo pad, originally uploaded by hello.ken1.

「小早川くん?」

 葉子のマンションで葉子の胸をさわっていると、おれのケイタイが鳴った。無視してもよかったんだが、いつもの着メロなのに、妙に心細さを感じさせる響きに聞こえた。葉子も同じように感じたようで、「出なよ」とおれに告げた。

「はい、そうですけど」
 おれのことを名字で呼ぶ女性はそう多くない。
「泉堂ですが。明の母親です」
 このケイタイにあーくんの母親からかかってくるなんて、今までほとんど記憶がない。おれは少し眉をひそめた。
「明は一緒にいますか」
 おれの知っているあーくんの母親の元気のよい声色ではなく、心配でくずれそうな響きでいっぱいだった。
「探してるんだけど、ケイタイに出てくれないの」
「いえ、一緒じゃないし、今日はまだ会ってませんよ」
「どこか行きそうな心当たりはないかなぁ」
 あーくんがひとりでふらりと立ち寄るような場所は、あのマスターがやっているカフェくらいしか思いつかなかった。
「人に会ってくる、とメモ書きがあって、夕べから連絡がつかないの」
ー人に会ってくる。
 その一言が、一瞬おれの動きを止めた。
ー人って、もしかして。
「他に何か思いつくことってありますか。立ち寄りそうな場所はひとつだけ心当たりがあるんだけど、メモに人って書いてあるんですよね。それ、気になるなぁ」
 母親は躊躇しているようだった。
「先日、病院へ一緒に行ってね、明の病気のことをわたしと明で聞いてきたの」
ーあーくんの病気?
 それからのあーくんの母親のむせび泣くような声がケイタイ越しに聞こえてた。それは溜っていたものが堰を切ったように、とめどなく続いた。
 とにかく途中で言葉を挟むことはせず、母親が落ち着くまで、そのままおれはケイタイを耳に当てていた。ただおれ自身もふらふらと体が宙に浮いているような、現実感のない時間だった。
 ひとしきり母親の溜っていた物が出尽くしたと思われた時、
「心当たりをあたってみて、何か、ちょっとしたことでも分かればすぐ連絡しますね」
 と月並みな台詞で、おれはケイタイを切った。

「誰だったの?」
 ほとんど頷くだけの会話を見ていた葉子の声から、彼女の不安が感じられた。おれは葉子に端的に内容を説明したが、あーくんの病気についてはふれないままにしておいた。
「たぶん」
「たぶん?」
「いや、きっとだな。あーくんは麗奈に会いに行ったんだ。それもひとりでね」
 葉子がわからないといった目をする。
「一緒に行く約束じゃなかったの」
「そのはずだったんだけど」

 おれはもう一度ケイタイを手に取ると、おねえさんの番号を呼びだした。
ーきっとあーくんはおねえさんから麗奈の診療所の場所を聞きだしたんだろうな。
 ケイタイがおねえさんを呼びだしている音が響く。でも、おねえさんはなかなか出ない。
 必要な時につながらないケイタイは、おれの手の中でとてもひんやりとしていた。

(続く)
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by hello_ken1 | 2007-06-30 15:29 | プロミス